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ウォータープラネット  作者: Naoko
52/56

52話 収斂

 ヴェラムに戻ってきたタンカー船は、格納庫に入った。

その老船は、まるで一仕事終えたとでも言うように眠りに付く。

アレックスはそれを見届けると、コントロールルームへ向かった。

そこでは、キース、ラン、ジェイクが最後の整理をしていた。


 「静かだね。 会社の方から、何か言ってきた?」

「調査団がこっちに向かっている」

キースが答える。

「だろうね。」

「そして、我々に、すぐに戻ってくるようにとのことだ」

「え? それだけ?」

「さあ、それだけのはずはないけど、今は、騒ぎたくないんじゃないのかな。

ここも、しばらくの間は閉鎖されるそうだ」


 「アレックス、アプローズからテキストメッセージが入っているわよ」

ランが言った。

「『楽しかったわ、また会えるのを楽しみにしている』 ですって。

シールドが閉じる前に、ヴェラムへ送ったみたいね。」

「出来れば二度と会いたくないんだけど、あ、いや、返事を出してくれ」

「もう届かないんじゃない?」

「それでもいいよ。 『オレも楽しかった』 ってね。」

「そうね、私たち、ひどい目に遭ったけど、こんな経験もそうないしね。」

とランは言って、返事を出した。


 そこへ、カイがやってくる。

「キース、ニキの意識が戻りましたよ。 行ってあげたら?

もう僕を解放してください」

そう言った後、カイは、レオがいるのに気が付いた。


 「患者の容態が良いのであれば、私たちもここを出発できますね」

レオは、もうこれ以上は待たないと言わんばかりだ。

カイは、キースに耳打ちする。


 「キース、彼を追い払ってくれるんじゃなかったんですか?」

キースは小声で答える。

「そのつもりだったんだけど、帝国大使館を通して、会社から連絡が入った。

レオは君を連れて行くつもりだ。 どうする?」

「どうするもなにも、今、捕まったら、しばらくはこっちに戻れなくなります。

どんな手を使ってもいいから、何とかしてください」

キースはニヤッと笑う。

「どんな手でも?」

その笑いに、一瞬、カイは躊躇する。

そして言った。

「どんな手でも」


 キースは振り返ると、レオに言う。

「ちょっと話があるんだ」

そして、二人はコントロールルームを出て行った。

ランは、それを見送ると言った。


 「カイ、あなたの捜していたモノが見つかったわよ」

「僕が捜していたモノ?」

「そう、ゾーイから取ったコピーにね。

キャンベル財団のマザーコンピューターの暗号を解く鍵でしょ?」

「どこに入っていたんですか?」

「フィリアの家族アルバムの中よ。

フィリアの映像だけなら見れるけど、見てみる?」


 ランがアルバムをスクリーンに出すと、カイは、しばらくそれを見る。

「へえ、可愛い子だね」

アレックスも言った。


 そこには、フィリアの笑顔があった。

「ラン、あなたはフィリアに会っても、結構、冷静でしたよね」

カイが言うと、ランはカイを振り向いて答える。


 「あなたとキースが、いつになく熱くなっていたからよ。

まあ、私も、フィリアについては調べていたしね。

私としては、『ああ、生きていてくれた』って思ったのよ」

「生きていてくれた?」

「そう、二百年も前の人なのにね、変かもしれないけど」

「そうですか・・・」


 「ところで、カイ、私の夫だけれど、あなたにインタビュー出来るのを喜んでいたわ」

「何の話ですか?」

カイが、きょとんとする。

「もちろん、あなたとプリンセス・アリアとの婚約のことよ」


「僕が、いつインタビューに応じると言いましたか? それに、まだ婚約は公にしていませんが」

「だから、いいんじゃないの。

え? ちょっと待って、プリンセス・アリアが嫌いなの?」


「そういう問題ではありません。

僕は貴族と言われても、子爵の三男ですし、大して話題にはならないと思いますよ。

話題性が高いのは、プリンセスの方でしょう? あっちに聞いたらどうですか?

応じるかどうかは分かりませんがね。

婚約も、どう思っているのか知りませんし。

とにかく、僕は、ノーブレス・オブリージュだと思っています」

「その理由で結婚をするの?」

「あなた方に言っても分からないでしょうね」

「うわ~っ、信じられない!」


「まあまあ、ラン、そんなことは言わないで」

と言ったジェイクの後で、アレックスが思い出したように言う。

「あれっ? プリンセス・アリアって皇帝の娘なのに看護婦だよね?

救済活動の方で有名だから、あまり知られてないけど」

「え? そうなの?」

ランは顔を輝かす。


「ちょっと、何よ、いい話じゃないの」

「だから! 僕は、インタビューなんて、いやなんです!」

「え~っ!? でも、キースが、やれって」

「なんでですか!?」

「あ~、何でも、フィリアから世間の目をそらすため、とか?」

ランは、ちょうどそこへ戻ってきたキースを見る。


 「カイ、君は気に入らないと思うけれど、世間の注目を集めて欲しい」

キースの言葉に、ランが、ほ~らと言う顔をした。


 「どんな手を使ってでも、だろ?」

キースはほくそ笑むように、カイに言う。

「レオはヴェラムを去ることにした。

君が望んでいた通りにね」

カイは、いやな予感がするなと思う。


 アレックスは、そんなカイの肩をたたき、慰めるように言った。

「カイ、ここは君が忍いで、フィリアのためにがんばってくれ。

僕も、ガイドロボットのゾーイを失って寂しいが、ダブルの退職金を貰って故郷へ戻り、

本物のゾーイと結婚し、元々やりたかった歴史や考古学の道を行くことにするよ」


 「それはどうかな、アレックス」

キースが言った。

「退職金ほどの手当て、と言うのは、もう難しいと思うよ」

「えっ!?」

とアレックスは驚く。


 「よく考えてみろ。

ウォータープラネットは氷付け。

調査した滑走路は深い氷の下。

しかも穴を開けた。

それも最新式のシャトル機を爆破させてだ。

その結果、社員一名が負傷。

おまけに、ガイドロボット一体の紛失届けも出さなければならない。

しかも、危険にさらされたメンバーの一人は、非公式とはいえ、帝国皇帝の末娘の婚約者ときている。

軍の秘密兵器だったエネルギーブロックシステムの実験は成功したものの、派手にやりすぎて、もう秘密とは言えない。

たまたま、そこに居合わせた帝国側のレオに、しっかりと記録されてしまった。

これらの失態の上に、フィリアのことを隠す必要がある。

隠すだけじゃなくて、救出もしなければならない。

惑星が、あれだけ凍ってしまえば、自然に溶けるのに五十年以上はかかるそうだ。

莫大な費用を投じても、今の技術では、溶かすのに十年ほどかかるらしい。

そんなに待てないから、どうやって救出するかを考えなければならない。

救出自体にも、多くの費用が掛かる。

ユリア病の研究費用でさえ、大学側が賄うとは言え、そのお金は癒着の問題を抱えている。

これらの問題があるのに、僕らだけが大金を貰って、いい思いはできないんじゃないか?」


 「じゃあ、オレのあの働きは・・・」

と、がっかりするアレックスに、

「心配するな。

結婚指輪を買うボーナスぐらいは出るはずだ」

キースの慰めが、微妙に思えるアレックスだ。

そこへランが、止めを刺す。

「考えてみれば、ほとんどの問題はアレックスが絡んでるよね」

皆は苦笑いし、アレックスはさらにがっかりする。


 そしてランは、くるっと向きを変えると、キースに言った。

「ところでキース、戻ってくるのが早かったわね。

レオと別れた後で、ニキに会いに行ったんじゃなかったの?」

キースは、がっくりと肩を落とし答えた。


 「ニキが、みんなに会いたいと言っている」

ランは笑いながら言った。

「ニキは、まだまだ可愛いね~」

カイも、ふふっと鼻で笑うと言った。


 「心配いりませんよ、ユリア病の治療方が完成し、ニキがフィリアを迎えに行く頃には、

フィリアには、新しい両親がいるはずですからね」

「どう言う意味だ!?」

と、あわてるキースを見たジェイクは、初めて自分の甥の気持ちに気が付く。

「えっ? キース! お前、ニキを好きなのか!?」

キースは絶句し、皆は大笑いする。



 宇宙空間が広がって見えるオブザーバトリー。

氷の惑星が、大きく、その宇宙空間に浮かんでいる。

ニキは、一人、そこで出発前の時を過ごしていた。


 マフィーが頭を上げ、後ろを振り返り、キースがやって来るのを見る。

マフィーは、足の怪我で、包帯のブーツを履いている。

そのブーツの音をカタカタと立てながら、キースの元へ走っていく。

ニキは、キースがマフィーを抱き上げるのを見て微笑んだ。

そして、一緒にその惑星を見る。


 「また戻ってくるよ」

キースが言った。

「その時は、フィリアを迎えに来れたらいいわね」

ニキも答える。


「そうなるさ。

カイは、治療法を出来るだけ早く見つけると言っている。

それまでに解決しなければならない問題は、山済みされているから、忙しくなるね。

だから、これは別れなんかじゃない」

「みんな、それを分かっているわ。

そのために、費用がたくさんかかるってことも。

だから私たちのお手当ても、それに当てるのよね。

あ、そう言えば、キースはディフォーレスト子爵と取引をしたらしいって、聞いたけど、どういうこと?」


 キースは、ニキを見て微笑むと言った。 

「それは、また別の話さ」


 そこへ、アレックスから通信が入る。

「出発二十分前だ。

みんな、準備はいいか?」

「すぐ行く」

キースは答えると、ニキに手を差し伸べた。

「さあ、行こう」


 ニキは、キースの手を取り、立ち上がる。

そして後ろを振り返った。

そこにあるのは、白く光る、氷の惑星だ。


 ニキは、初めてこの惑星を見た時のことを思い出す。

青い真珠のような惑星、ウォータープラネット。

それが、ニキには見えるようだった。


                                          おしまい



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