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ウォータープラネット  作者: Naoko
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46話 スリル・ライド

 ランとカイの乗ったホバージープがガクンと揺れる。

そのたびに、後ろのトランクの中にいるマフィーが、ゴトッと音を立てる。

この揺れに、マフィーは驚いているに違いない。

トランクの内側は柔らかい素材でできている。

だからランは、蓋が閉まっている限りマフィーは安全なので、さほど心配はしていない。

むしろ自分の方が、左右に振られ、放り出されてしまいそうだ。


 この運転は何だ? とランは思う。

まるでスリル・ライドだ。

アミューズメント・ライドで古い型のものが流行っている。

スピードと共に、この、ガクン、という感触が人気の秘密らしい。

そう、これも、そう思えば面白いのかもしれない。


 元々ジープには、スムーズな乗り心地を期待できない。

とはいえ、この乗り心地の悪さは、ジープのせいではない。

おまけに、障害物の多い森の中なのに、無謀とも言えるほどスピードがある。

アレックスなら、危険を承知でスピードを出せるだけの運転技術がある。

もしかして、カイは、そんなことも分からないで運転しているのかもしれない。

その割に、安定しているようでもあり、上手なのか下手なのか分からない。

ランは、ダッシュボードに付いた手すりをしっかりと握る。


 カイがそれを見て言った。

「すみません。 僕は運転が下手だから気をつけてください。 とにかく、急ぎます」

ランは、あ、やっぱり下手なんだ、と思いながらカイを見る。

カイの横顔には、快感に近い極度の緊張感がある。

その瞬間、この横顔に見覚えがある、と思った。



 ランは、ヴェラムへ行く前夜、家でパッキングをしていた時のことを思い出した。

夫のロイドが、何かをスクリーンに映して見せようとする。


 「なにそれ? ドキュメンタリー? それとも映画?」

「ドキュメンタリータッチの探検・スポーツ映画なんだ」

とロイドは言って、早送りをする。


「今度のヴェラム行きのチームに、カイ・フォン・ハイゼっているよね?」

「ええ、医者で、うちの会社からではないらしいわよ」

そして、映像をスクリーンに出す。

「それって、この人?」


 スクリーンに映し出されたのは、山岳地帯で救助活動をする場面だ。

医者らしき人物が映っている。

ランはそれを見て言った。


「う~ん・・・似てるような似てないような・・・

違うんじゃないかしら?

顔合わせで会っただけだけど、こんな感じの人じゃなかったわよ?

なんか、もっと暗くて、病院の奥深く病気と向き合っているって感じの性格?

フォンだから貴族なんでしょうけれど、華やかさもなかったしね。

よくいる、名前だけの落ちぶれた貴族なのかも」


「そうか・・・やっぱりね、苗字も全然違うし・・・」

ロイドはスクリーンを見ながら、がっかりするように言った。


 「実は、これはまだ公表されてないんだけれど、プリンセス・アリアの婚約者が誰なのかを捜しているんだ」

「プリンセス・アリア?

あの、貧困地での医療と教育のネットワークを広げる活動をしている? 皇帝陛下の末娘の?」


「ああ、この映画は、大災害が起こった時に、たまたま近くで撮影していた映画会社が撮ったんだ。

その時、プリンセス・アリアが陣中見舞いをしている。

しかも、予定を変更してね。

それで、もしかして、と思ったんだ。

皆、プリンセス・アリアの婚約者が誰なのか、やっきになって捜している所だ。

候補者は何人か上がってるんだけどね。

その一人がこの映画の現場監督のバーディーで、彼女と親しいのは良く知られてるんだ。

探検家、サー・ナイジェル・ディフォーレストの次男だな。

独身貴族ってのを地で行っていて、結構人気があるんだけど、最近は撮る方が専門だね。

今のところ、彼が有力候補者なんだけど、俺は、どうも違うような気がしてね。

で、この医師は、カイ・ディフォーレスト。

サー・ナイジェルの甥で、ディフォーレスト子爵の三男坊だ」


ランは笑った。

「違う違う。 そんな華やかな感じの人じゃなかったわよ。

かなりの地味系で、あれで医者をやっていけるのかしら、と思えるほど人が苦手って感じだったわね」


「そうか・・・彼だったらって思ったんだけどね。

とにかく、サー・ナイジェルの二人の息子、ハリスとバーディーは映画会社を持っている。

趣味で父親の記録映像を撮っていたら、それがうけて、会社を設立してヒット作品も多く出しているし、賞もいくつか取っている。

この映画も、話題作の一つなんだ。

カイ・ディフォーレストは、何度か、スタッフの一人として参加したらしい。

それくらいしか分からないんだ。

まあ、医師が活躍するようなことも過去にはなかったしね。

どちらかと言うと、医師兼雑用係として駆り出されていたらしい。

映像に出てくるのもこれ一本だけで、プロフィールもないしね。

医師としての仕事に支障をきたしたくないと言って、それ以後は参加していない。

ちょっと、もったいない気もするけどね」

「そうね・・・かなりカッコよさそうだものね・・・」

という会話だった。


 そうだ、今、見ているのは、あの横顔だ、とランは思う。

それに、キースが、ハリスとバーディーの名も上げていたから本人に違いない。


 「カイって、ディフォーレスト子爵の三男なの?」

カイが驚いてランを見る。

そして木にぶつかりそうになり、慌てて方向を変える。


「やっぱり、あなたなのね?

あなた、オーラを消してたんじゃない?

じゃあ、キースを以前から知っていたってのは?」

「キースは、ハリスとバーディの友人です。

サバイバル・コンペティションで意気投合して以来の仲らしいですよ」


「あなた、プリンセス・アリアの婚約者なの?」

カイはさらに驚く。

「そんな話! どこから!?」

「私の夫は、ニュースやドキュメンタリーのプロデューサーなのよ。

皆、あなたを捜しているらしいわよ。

本人なら紹介しろって」


「とにかく!

今は黙っててください!

運転に集中したい!」

カイはそう言うと、スピードを上げた。

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