表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォータープラネット  作者: Naoko
44/56

44話 嵐

 木々たちが騒いでいる。

風が吹き、鳥たちの姿はなく、あの大きな木も消えてしまった。

木の葉は擦れ合い、枝はざわざわと揺れ、木々は交互にうねりながら身をよじっている。

森を駆け抜ける風も鋭い音を立て、叫んでいるかのようだ。

それはまるで、冬の嵐の到来を告げるかのようで、何かが起こりそうな予感をさせる。


 「森全体が、水の下に潜る準備をしているんだ」

キースが言った。

「空気が冷たくなってますね。

外の空気を入れているのかもしれません」

カイも言う。


 彼らが森に着いたとたんに、今まで乗っていたエレベーターはその入り口を閉じ、消えてしまった。

すると突然、自然界に投げ出されたような不安感を覚える。

それまでの人工的な作りは、たとえ冷たい壁でも、保護されているような感じがあった。

ところが、この森も人工なのに、嵐のように吹き荒れ、まるで彼らを突き放したかのように思える。

それでも、この森を抜けるしかない。


 前方に、二台の乗り物がある。

一台は二人乗り用ジープ、もう一台はバイクだ。

「マグネティックフィールドを利用した古い型のホバーバイクとジープだな」

キースは二台を確かめ、バイク用のヘルメットを取ると言った。


 「ジェイク! これらに乗っていいのか?」

キースがジェイクを呼ぶと、ジェイクは全員に聞こえるように答える。

「ああ、それらは近くの倉庫から持ってきたんだ。

元々は人間用だが、ロボットが森の管理に使っているものらしい。

彼らは潜水の準備に忙しそうにしている。

だから、他の乗り物はすべて出払っているんだけど、その二台は修理中で残っていたんだ」


「故障しているの!?」

ランが聞く。

「細かな修理はまだ残っているみたいだけど、走るのに問題はない。

スピードもかなり出るから、早くこっちへ戻って来れるはずだ。

とにかく急いでくれ!」

「分かった!」

キースはそう答え、カイを振り向くと言った。


 「カイ、このジープを運転できるよな」

カイは、ため息をつく。

「またですか」

と言ってジープに近付き、それを調べると言った。

「できますよ。

この前のよりは、ましですね」

キースは、ニヤッと笑うと、冗談交じりに言う。


「君はロードバイクにしか乗らないから、ジープの方がいいだろう?」

カイは座席に座り、シートベルトを着け、計器類を確かめながら言った。

「本当は、車なんて運転したくないんですけれどね」

「心配するな。 これが最後だと思うよ」

「だといいですがね。

ハリスとバーディーがいる限り分かりませんよ。

この前も、そう言われていたのに、とんでもない目に遭わされ、ひどいジープを運転させられましたからね」

ランは、その会話を聞きながら「ん?」と思う。


 「マフィーは、ジープの荷台にあるトランクの中に入れよう」

キースはそう言ってマフィーを抱き上げると、荷台の箱の中に入れる。

マフィーは「クーン」と泣いてキースを見るが、蓋はすぐに閉められた。

下手に声を掛けると、犬はかえって心配するので何も言わない。


 「ランは、カイと乗ってくれ。

ニキは僕とバイクに乗る。

一人乗り用だから、軽い方がいい」

とキースが言うと、ランは、

「悪かったわね、重くて。 二児も生めば体系は変わるわよ」

と言って、ジープに乗りながら、ニキを振り返る。


「ニキ、キースとの相乗りを楽しんでね」

ニキは、それを聞いてはっとする。

そうだ、ホバーバイクに相乗りするんだ!

そして、キースと!?


 ニキは、バイクは自転車しか乗ったことがない。

しかも子供用のだ。

ホバーバイクになんて乗ったことはないし、ましてや相乗りなんてしたこともない。

後ろに乗るのは、運転するより怖いと誰かが言っていた。

おまけに、ここは道路のない森の中だ。

できれば自分も、狭くてもいいから、マフィーと一緒にトランクの中に入れてもらいたいと思う。


 「ニキ! 早くしろ!」

またキースに怒鳴られて、ニキは緊張のあまり、右手と右足が一緒に出てしまった。

渡されたヘルメットを被り、持っていた手袋をはめ、キースの後ろに乗る。

一人乗り用だから座席は窮屈だ。

出来るだけ、キースには触らないように座る。

「しっかり掴まってないと振り落とされるぞ!」

エンジン音と共に、キースが怒鳴る。


二台は、エンジン音を大きく立てると発車した。



 風は強くなる一方だ。

空気も、どんどん冷たくなっていく。

道のない森を走る二台は、付かず離れずしながら先を急ぐ。

突然、ジープが減速し始めた。

キースたちは、すぐに視界から消え、ジープは取り残されていく。


 「なんだか障害物を探知する計器がおかしいような・・・」

とカイが言った。

「えーっ!? ちょっと見てみる」

とランは言うと、計器を調べる。

「壊れてる。」

そして、ジェイクを呼ぶ。

「ジェイク! 計器が故障しているわ! どうにかならないの!?」


ジェイクはすぐに答えた。

「ラン、無理だ!

こっちも、新たな問題が起きた!

そっちで何とかしてくれ。

とにかく、無事を祈る!」

と言うと、ジェイクの通信は途絶えた。


「切れちゃった」

ランは、カイを見ると言った。


 カイは障害物探知機を切り、手動に切り変える。

「よくつかまってて下さい」

そう言うと、ジープは大きく傾いた。

「あ~!」

ランはシートベルトとダッシュボードを掴みながら叫ぶ。


ジープは前方の木をよけると、今度は反対側に傾いて次の木をよける。

そしてスピードを上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ