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ウォータープラネット  作者: Naoko
42/56

42話 亜麻色の髪の乙女

 長い眠りから目覚めた少女は、まるで陽炎のようで、近付けば逃げてしまいそうな気がする。

そして、ニキを見つめる大きな瞳は、吸い込まれそうな夏の海の色だ。

白い肌に、亜麻色の髪が良く似合う。

その声は歌うように軽やかで、笑顔には12歳のあどけなさが残っている。

ニキは、差し出された少女の細い手に触れた。

ひんやりと冷たい。

はかなさを感じる。


 「あなたは、フィリアね」

ニキが聞くと、彼女はうなずいた。

「どうして私の名前を知っているの?」

そのニキの質問に、

「だって、」

と、フィリアは言って、クスッと笑った。

「私たち、同じ夢を見ていたでしょう?」


 その時ニキは、あっと思った。

あのおとぎ話のフィリアと自分は、同じ少女だった。

そしてフィリアを見ながら「なぜ?」とも思う。

すると、フィリアの目が潤んでいるのに気がつく。

ニキは、ヴェラムで、ここに漂っている同じ匂いを嗅いだ時のことを思い出した。

フィリアは、まだ夢を見ているのかもしれない。


 フィリアは、ニキの横で尻尾を振っているマフィーに気がついた。

そして、微笑むと話しかける。

「マフィー、ありがとう。 ニキを連れてきてくれたのね」

そして、ゾーイを見つけると言った。

「そう、ロボットもいたわ。 あなたの名前は何て言うの?」

「ゾーイです」

ゾーイが答えた。


 それからフィリアは、オリビアを見る。

フィリアは何も言わない。

そして、目を離すことなくそのホログラムを見続ける。

フィリアは、自分の母親がすでにいないことを知っている。

彼女が眠りに付いて、二百年近く経っているのだ。


 その瞬間、ニキは思い出した。

最後に父を見た朝のことを。

仕事に出かける父を呼び止めたのだ。

父の振り返って見せた笑顔が、ありありと浮かぶ。

あの時に、何か言われた。

そう、「いい子にしていたら、早く帰ってくるよ」

それが最後の言葉だった。

だから、自分がいい子にしていなかったから、父は帰ってこなかったのだと思った。

八歳の子供がそう思ってしまうのは、仕方のないことなのかもしれない。

そんなことがあるはずはなくても、そう思ってしまうのだ。

涙が頬を濡らす。


 そして自分は、フィリアの気持ちを知っていると思った。

彼女も自分を責めている。

自分が両親を悲しませたと思っている。

誰かが彼女に、何かを言ったのかもしれない。

彼女のせいではないのに、とニキは思う。

それもまた、仕方のないことなのだ。


 フィリアは、ニキの手をぎゅっと握るとオリビアを見て言った。

「この人たちを帰してあげて」

そしてニキを見る。

「きっと迎えに来てくれる。 そうでしょ?」

すると、オリビアのホログラムは消えた。


 キース、そしてカイとランは、何が起こったのだと思った。

ニキとフィリアは、お互いを見詰め合うだけで、この施設のコンピューターを納得させてしまったのだ。


 ゾーイが二人に近付くと言った。

「私は、ここに残ります」

そしてカイを振り返る。

「それをあなたは望んでいます。」


 フィリアはゾーイを見ると、その理由を知っているかのように微笑んで言った。

「ゾーイは、私と一緒に眠ってくれるのね?」

「はい、あなたは私のご主人様です」


 ランはカイに聞いた。

「どういう意味?」


カイは、参ったなと言う風に答える。

「ゾーイに、僕が捜している情報が入ったからでしょう。

僕は、それを見つけ、消滅するよう言われてきました」

「どんな情報だったの?」

「暗号を解読する情報らしくて、FILIAORIGIN-0001というファイルの中にあるらしいのです。

フィリアの名前の付いたファイルです」

「そんなに詳しく話しちゃっていいの?」

カイはランを見ると、自分を冷笑するかのように言った。


「フィリアが生きている以上、その命令が有効なのかどうかさえ分かりません。

それ以上のことは知らされてないんです。

それに、依頼主も、フィリアが生きているなんて思ってなかったでしょう。

もしそうであれば、医師なんかに頼ろうとはしなかったでしょうしね。

このチームに入るどの医師にも、その情報を抹消するよう命令が出されることになっていました。

とにかく、僕だけが外部から来ていますから、秘密にしやすいとでも思ったんじゃないでしょうか」


 そして、カイはキースを見て言った。

「それでも、今、フィリアを外に出すのは危険です。

背後に何があるのか分からないからです」

キースはそれには答えない。



 その時、男性のホログラムが現れた。

「私は、モーリス・キャンベルです。

緊急事態になりました。

すぐにここを離れてください。

我々は、安全のため潜水します。」

「潜水!?」

「ジェイクが、あなた方を呼んでいます。」


 するとジェイクから連絡が入った。

「キース! 聞こえるか?」

「ジェイク!?」

「アレックスから連絡が入った。

オービット・サテライト・システムが作動準備に入ろうとしている。

人口衛星全機が、惑星を囲むように配列している最中だ。

エネルギーブロックシステムが動き出すぞ!」

「エネルギーブロックシステム? 何のために?」

「この惑星を凍らせるためだ!」

「何だって!?」


 モーリスのホログラムか言う。

「あなた方がこの施設を出るまで、潜水するのを出来るだけ遅らせますが、限度があります。

急いでください」


 「フィリアは!?」

キースが言った。

「連れ出すのは無理だと言ったでしょう!?」

カイはそう言って、モーリスに言う。

「フィリアをもう一度眠らせて下さい。」

「分かりました。 さ、早く!」


 ニキは、両手でフィリアの手を強く握った。

何かを伝えたいのだけれど、何も思いつかない。


「マフィーを連れて行ってね。 マフィーは十分に私を助けてくれたから」

フィリアが言った。

「マフィーと共に迎えにくる。 あなたを、決して、忘れやしない。」

ニキは、そう言うとフィリアの手を離し、振り返らず、その部屋を出た。

泣いてしまいそうなのを堪える。

そして、「決して」と自分の中で反復する。


 モーリスが皆を誘導し、エレベーターのドアを開けた。

「このエレベーターは、森まで直接に上がります」

全員は、エレベーターに入ると振り返ってモーリスを見る。

ドアが閉まる直前に、モーリスは言った。


「フィリアを迎えに来るのを待っております」

ドアが閉まるとエレベーターは上昇し始めた。

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