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ウォータープラネット  作者: Naoko
39/56

39話 冷凍睡眠

 ニキは、三人が真剣に話しているのを聞きながら、大変な事態になったらしいと思った。

とは言うものの、どう大変なのかは、よく分かっていない。

二百年も前の人間が冷凍保存されているとしたら、すごいことなのだろう。

しかもそれは、あのおとぎ話のフィリアなのかもしれない。

それなのに、今のニキは、別のことが気になって仕方がない。


 さっきランが言ったことは何だったのだろう?

キースが自分のことを気にしていたって?

それには、どういう意味があるの?

にらまれてると思ってたのに、そうではなかったってこと?

それに心地よさを感じるのはなぜ?

自分の中に、キースに初めて会った時とは違う感情が生まれている。

もっと知りたいけれど、今のキースは、そんなことなんて忘れてしまったかのよう。

そんなキースでさえ魅力的に思える。

え? 私、キースに惹かれている?


 ニキはそこまで考えると我に戻った。

恥ずかしさで、思わず右手を頬に当てる。

そのひんやりした手の感触が、気持ちを落ち着かせる。

そして、この状況の中で、キースのことばかり考えている自分をおかしく思った。



 「確かに、今は、生きた人間を冷凍保存する、つまり冷凍睡眠する人はいません」

カイが言った。

「冷凍睡眠を法律で規制したのは、かなり前で、今でも残っています。

とは言うものの、法律の故に途絶えたのではなく、誰もしなくなった、と言うのが本当の理由でしょう。

目覚めた人が、過去と未来の違いに混乱し、順応するのが難しかったからです。

人には家族や友人との絆があります。

その絆を失ってまで、自分だけ未来へ行こうという人はいなくなりました。

そのことは、フィリアが生まれた二百年前には、すでに分かっていたはずです」


「つまり、フィリアが冷凍睡眠している理由は特別だってことだ」

キースが言った。


「フィリアが誘拐された事件は知っていますよね?」

「やっぱり、それしかないよな」

キースは壁に寄りかかり、腕を組むと上を見る。


「私も、それを考えたわ」

ランが言った。

「フィリアが誘拐された時は12歳だったって。

フィリアの両親は必死になってフィリアを捜したけど、戻ってこなかったって話よね。

当時は、誘拐事件も珍しくなかったらしいけれど」


カイは、ランを見ると言った。

「あの事件は、まるで消えてしまったように語られなくなりました。

それからモーリスは事業を大きくし、オリビアはユリア病の研究と大学設立に尽力します。

彼らは、自分たちに娘がいたことすら語ろうとしませんでした」

「そうね、その後、何の記録も残ってないし、沈黙しているって言ってもいいくらい」


「ところで、知っていますか?

政治体系は滅び変わってしまっても、教育は存続できるって」

「え?」


「オリビアは、そこに賭けたのでしょう。

ビアトリス大学だけではなく、もっと古い学校は各地に残っています。

あの混乱期を潜り抜け、フィリアのために世の中が安定するのを待つとしたとしたら・・・」

「つまり、フィリアが戻り、今まで冷凍睡眠しているってことか?」

キースが聞く。


「フィリアは、ユリア病患者でした。」

「ああ、だから、オリビアはその研究の出資者になったんだ。

それに僕は、君がフィリアの記録を捜していると思ってたしね」

「それが見つかればよかったんですけれどね。

もちろん、過去に、何度も調べられてはいるんですけれどね。

ユリアの病名は、ユリアと言う最初の患者の名前だったとか、フィリアの名前の変形だとか言われているくらいです。

ヴェラムには、フィリアについて何もありませんでした」


「君は、彼女が冷凍睡眠していると思ってたのか?」

「いいえ、さすがに、そこまでは考えていませんでした。

誘拐されたまま死亡したと思ってましたからね。

それに、開放されて戻っていたとしても、自分の子供にするとも思えません。

ただ、マフィーが冷凍保存されたのでしたら、可能性はあると思ったのです」


ふと、キースは思いだしたように言った。

「カイ、それじゃあ君にとって、フィリアが生きているのはまずいんじゃないのか?」

ランも黙ってカイを見るが、カイは答えない。



 その時、ゾーイの目が急に明るくなった。

「情報処理を完了しました。

これから先は、私がご案内します」

ゾーイは、先に歩き始めた。

マフィーは、やっと動き出したと、喜んでゾーイの先を行く。


 通路の先が明るくなっている。

そこにたどり着くと、広い部屋に出た。

部屋の端は薄暗く、計器が並んでいるらしく、様々な色で光っている。

ニキは、それはまるで花園のようだと思った。

しかも、花園にいるような甘い香りがする。

そして、それが、ヴェラムで嗅いだのと同じ匂いなのに気がつく。


 目が慣れてくると、中央の明るいものの形が見えてきた。

「チューリップ」

「薔薇のつぼみ」

ニキとランはその物の形を同時に言った。

その中央のものは、花のつぼみのような形をしている。

そして、そこに誰か立っている。


「私は、オリビア・キャンベル。 フィリアの母親です」

その、長いローブを着た女性の姿をしたホログラムは言った。

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