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ウォータープラネット  作者: Naoko
38/56

38話 コクーン

 樹洞の中はひんやりしていた。

細長い通路は、ゆっくりとした下り坂になっている。

通路は、緩やかに弧を描いて降りているようで、しばらくすると、自分がとちらの方へ向かっていくのか分からなくなる。

自分たちの足音だけが響いている。

その人工的なつくりは、今まで森の中にいたのが信じられないくらいだ。

それでも閉塞感はない。


 しばらくすると、風のうなるような音が聞こえてきた。

通路の片側は、透明な壁に変わっていく。

その向こうには広い空間が広がっていて、彼らの歩いている通路はその空間を回るように降りているらしい。

そこから底の方を見る。

下には、乳白色の巨大な丸いものがあった。

「まるでコクーンみたいね」

ランが言った。

「あそこまで歩いて降りるとすれば、一時間は掛かりますね」

カイもそれを見ながら言う。


すると、突然、壁の一部が開いた。

ドアになっていたらしい。

マフィーはそこへ入っていく。

皆も、その後をつける。

その先には幾つかのドアがあり、マフィーをそのドアの前に座った。


 「またエレベーターか」

とキースは言うと、床を調べる。

かすかに、マフィーの足跡が残っている。

それは、森の中で土に汚れた今の足跡とは違う。

「マフィーは、ここから出てきたようだな」

ドアには何のスイッチもない。

「これも、ニキの声で開くのかな」

それに対して、ゾーイが答えた。

「声だけでは不十分です。 パスワードが必要です」


「私は、そんなパスワードは知りません」

全員は、そう言うニキを見た後でドアを見るが、それは開かない。


「そうらしいね」

キースはため息をつく。

「ゾーイ、パスワードが何なのか分からないのか?」

キースは、だめもとで聞いてみる。

ゾーイはそれに答えようとして、動きを止めた。

ランがゾーイを調べる。


「壊れたんじゃないわ。 ものすごい量の情報が入ってきてる。

情報処理が終わるまで、返事は出来ないみたいね」

ゾーイは、申し訳ない、とでも言うように皆を見る。

「仕方が無い。

ここまで来たんだから、そんなに難しいとも思えないけど」

すると、マフィーが吠えた。

ニキが思いついたように言う。

「あ、もしかして、パスワードって、マフィーのご主人様の名前?」


「フィリア?」

カイとランが同時に言った。

ニキは驚く。

「どうして、フィリアって・・・?」

そのとたんに、エレベーターのドアが開いた。


マフィーは、そこへ入って振り返り、皆を見ると吠えた。

「マフィーは、この施設を良く知っているようだね。

まるで、ここに住んでいるみたいだ」

キースは、そう言いながらエレベーターの中に入ると、マフィーの頭を撫でる。


 エレベーターは全員を乗せると降下する。

ランは、マフィーを見ながら言った。

「確かにマフィーの愛くるしさは救いね。

実際、こんな所まで来て不安にな」

「皆さん、まだ何か隠していることはあるんじゃないですか?」

ランをさえぎって、ニキが言った。


キースが慌てて答える。

「隠してることはないよ。 僕は、もう全部話したんだし。

もし、まだ何かあるなら、僕の方が知りたい」

「あら、そうかしら? ニキのことが気になっていたのを隠していたくせに」

そのランの言葉にニキは驚き、キースは絶句する。


ランはそれを無視して話を続けた。

「私だって、マフィーの持ち主がフィリアだとは知らなかったのよ。

元々、フィリアが犬を飼っていたのも知らなかったんだし。

フィリアの名前は、ちょっと調べれば分かることよ。

他に知っていることと言えば、あまりにも突拍子もないことだったし・・・

私、ヴェラムの持ち主を調べたって言ったでしょう?

調べたって分かるはずは無いのよ。

ヴェラムどころか、このウォータープラネットは、モーリスとオリビアの一人娘フィリア・キャンベル所有のままよ」


 その時、エレベーターは減速し、止まるとドアが開いた。

全員は、外へ出る。

そこは、左右に通路が延びていて、その他はなにもない。

マフィーは、一方の方へ行こうとするが、全員はそこから動かない。


ランはそのまま続ける。

「おまけに、財団すべての相続権は彼女にある」

「二百年もか?」

キースが聞く。

「正確には、百六十年。

ちょうど、ビアトリス大学が創立されたころ。

そして、ヴェラムの十年ごとの管理整備が始まったころね」

「いや、本人の死後も遺産相続をしないこともあるから、ありえないことではないと思うけど。」

「じゃあ、これは知ってる? フィリアの死亡証明書は存在しないって」


「死亡届けは無かったってことか?」

「さあ、とにかく、それを証明する記録がないの」

「当時は、宇宙植民地時代の末期だったし、記録が紛失したのかもしれない。

あれから、政治体系も変わっているし、その際に失われたとも考えられる」


「もし、フィリアが死んでいないとしたら・・・?」

カイが言った。


「どういうことだ?」

キースは、カイを見ると聞いた。

「僕も疑問に思っていたのです。

もしフィリアが、マフィーと同じように冷凍保存されているとしたら・・・」


「生きた人間を冷凍保存することは、禁じられているはずだ」

キースが言った。

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