30話 機密情報
「アレックス、聞こえるか?」
ジェイクは一人になると、ヴェラムにいるアレックスを呼び出した。
「ジェイク! 聞こえるよ。 こっちの声はどう?」
「ああ、よく聞こえる」
「良かった~! やっと通じたか~。
皆が中へ入って、通信が途切れてしまったんだ。
それで、シャトル機と管制センターのコネクションを利用して、そっちの声は聞こえるようになったんだけど、こっちからいくら呼んでも通じなくてね」
「そうだと思った。 シールドが邪魔しているらしい。
それで、どの時点で聞こえるようになったんだ?」
「あ~、レクシーの話の前あたり?」
「そうか、じゃあ、こちらの状況は分かってるな」
「う・・・ん・・・」
「どうしたんだ?」
「いや、レクシーって、犬のことだったんだなって・・・」
「そうだよ。 それがどうかしたのか?」
「いや、何でもないよ。 あ、そうだ! キースはジェイクの甥だったんだ!
なぜもっと早く言ってくれなかったんだよ! 知ってたら、あんなにキースに絡まなかったのに!」
「いいじゃないか。 見てて面白かったよ。 君も、結構、楽しんでいたじゃないか。
こんなことになるまでは、退屈してたんだろう?」
「人が悪いな、ジェイクは」
「ところで、」
とジェイクは言う。 ジェイクは、アレックスの後ろから聞こえてくる声が気になっていたのだ。
「誰か歌ってるのか? 声がするけれど」
「あ~、これ? これは~」
「アプローズで~す」
と女の声。
「あ、ちょっと止めろ。 いいから歌ってろ」
とアレックス。 再び歌が聞こえる。 しかも子供の歌だ。
「・・・アレックス?」
「ジェイク、いや、これは、オレの個人用プログラムで~」
「何をやってるんだ?」
アレックスは、降参したとでも言うように答える。
「実は、皆がヴェラムで経験したあの不思議な現象なんだけど」
「ああ、ゾーイが媒体となっていた?」
「そう、ゾーイがヴェラムを離れた後、行き場をなくしたみたいでオレの周りをうろうろし始めたんだ。
それが何なのか、どこから来るのかも分からなくてね。
もしかしたらと思って、ゾーイに使ってたのと同じプログラムをオープンしてみたんだ。
そしたら、ブーン! 入ってきたね」
「それで? なんで女の声なんだ?」
「え~、それで~、このプログラムには付録もあって~、ホログラムのシステムも入ってるんだ。
言わば、会話形式で情報を出していくプロセスを取るんだけど、前もって作っておいたもんなんだな。
で~、そのプログラムは、ゲイシャ・フィギュアって言って~」
「ゲイシャ? あの伝統芸能の?」
「そう」
と、アレックスはここの部分は自身ありげだ。
「古い文献によると、芸者は、国家の機密情報に通じた高級娼婦とあったんだ。
他所の国が、芸者発祥の国から情報を得ようとして、こんな風に自国に説明したらしい。
当時は、かなり粋なことをしてたんだな~と感心したよ。
それで、早速、これを利用してプログラムを作ってみたんだ」
「芸者か・・・由緒あるものだけど、機密情報とはね」
「だろ? で、青い惑星を薔薇の花に見立てて、こいつにアプローズって名前を付けてやったんだ。
オレにしては、いい名を付けたと思うよ。
アプローズは、なかなかしぶとくて情報を出してくれないから、このプログラムはかなり役に立ってるんだ」
ジェイクは呆れたように言う。
「そんなことをよく考えるもんだね。
こちらからは見えないけれど、きっと君好みの金髪の何とかの姿にしてるんだろ?」
アレックスは、それには答えない。
「それで、なんで子供の歌なんだ? 芸者がそんな歌を歌うとは思えないけれど」
「それはオレにもよく分からないんだ。
まあ、古いものだから、どっかおかしいのかもしれない。
頭の天辺もちょっと欠けてるし。
情報を出そうとして話させていたら、どうでもいいことまで言って煩く付きまとうようになってさ。
それで、何か歌ってろって言ったら、子供の歌をずーっと歌ってる」
「もしかしたら、ニキの言っていた話と関係があるのかもしれないな」
「あ~、そうかもしれないね~。 ま、今、オレは忙しいから、聞かないようにしてるけど」
「何か分かったのか?」
「ああ、実は、この惑星を回っている十八機の人工衛生のことなんだ。
ここの人工衛生は、惑星の大気を調査する目的で設置されたよね」
「水用タンカーの航行のためと、水の安定供給の目的のためのはずだ。
それに、大気をコントロールする装置も入ってる。 今は、ほとんど使われてないけど」
「それが、どうも、そうではないらしい」
「どう言うことだ?」
「その装置の中に、エネルギーブロックシステムが入っている。
問題は、今まで見たことのない強力なモノだ」
「何のために? キースとランは知っているのか?」
「知っているかもしれないけれど、単なるチェックで終わったんじゃないのかな。
多目的な用途の一部で、大気圏の影響による海水の比重測定なんてのもやっている。
オービット・サテライト・システムだなんて、どこでもありそうな名前も使ってるし。
ところがどっこい、軍事機密のものらしい。
コードにそれらしき暗号が入っていた」
「本当か?」
「ああ、オレは、アカデミーでちょっと機密情報にも関わったことがあるんだ。
卒業後、そっちの方に配属されるはずだったらしいんだけど、途中で止めちゃったからね。」
「まあ、分からんでもないがね。 君に軍は似合わんよ」
「そう、あの時は騒動になったけど、最終的に、学んだ機密情報を漏らさないって書類にサインさせられて追い出された。
それから、一般コースに変わったんだ」
「だろうね~。 まあ、それは、あちらにしても懸命だったね」
「ん、残念だけど、返す言葉はない」
「しかし、やっかいなことになってきたな、軍まで絡んでくるなんて・・・
取って食おうって話じゃないと思ってたんだが、取りに行ったら背後から食われた、と言うのでは困るね」
「一応、試験的なものだし、作動システムもファンクションしてないから、今、どうってことでもないと思うんだけど」
「とにかく、もっと詳しく調べてくれ。 こちらでも何か分かったら知らせる」
「了解。
ところで、カイだけど、ジェイクは何か知ってる?」
「キースは知っているみたいだが、私は初めて会う。
何を考えているのか分からないな。
自分を読まれないようにしているのかもしれない。
キースがいいと思ってこのチームに入れたのだから、信頼するしかないよ」
「そうだね、データベースからプロフィールでも見てみるかな」
「おいおい、ずいぶん懐疑的だな。 あまり、チームの仲間を疑うもんじゃないよ」
「分かってる。 ただ、胸騒ぎがするんだ。 実際、この事態にも驚いているし・・・
それにオレは、古い資料を調べたり謎解きをするのは好きなんだ。
もしかしたら、胸騒ぎと言うより、わくわくしているのかもしれない」
「キースも、君のそんな性格を買っているのかもしれないね。
私も頼りにしているよ。 ただの操縦バカじゃなくて良かったよ」
「ふふっ、バカを脱して期待に答えられるよう全力を尽くすさ。
じゃ、アレックス・アウト」
ジェイクは、通信を終ると、椅子の背もたれに寄りかかると言った。
「この惑星は、いったい何を隠しているんだ・・・」