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ウォータープラネット  作者: Naoko
28/56

28話 白い犬

 ニキは走っていた。

白い犬、白い犬を見つけなくては、とそれだけしか頭にない。

そうであっても、白い犬なんてどこにもいない。

それなのに、ただひたすら奥の方へと走っている。

いや、どこを見ても同じような柱ばかりで、自分が本当に奥へ向かっているのかすら分からない。


 前方に誰かがいる。

あれは・・・

「お父さん!」

とニキは叫んだ。

そしてすぐに、それはキースとカイであることに気付く。

その瞬間、自分の中で何かがはじけたような気がして、急に足が重たくなる。

それでも体はそのまま前へ行こうとするので、足がもつれて倒れていくのだけれど、それをまるでスローモーションのように感じる。

キースが倒れようとするニキを受け止めた。


 「どうしたんだ?」

キースが驚いてニキに言った。

ニキは顔を上げ、キースを見ると、急に体から力が抜け、そこに座り込む。


 後ろから追いかけてきたランが言った。

「ニキ! 大丈夫!?」

ニキは肩で息をしながら、うつむいているだけで、それには答えない。

カイが、そんなニキの額に手を当てようとする。

「大丈夫です」

ニキはそう言って、カイの手を振り払った。


「ラン、何があったんだ?」

キースが聞くと、ランは息を荒くしながら答える。

「私も知りたいわよ。 ニキが急に走り出したの。 白い犬って言って」


 ニキはそれを聞くと、自分は何をしているのだろうと思った。

顔を上げ三人を見ると、急に恥ずかしくなり、何と言っていいのか分からず目頭が熱くなる。

その時、ニキに出来たのは、涙目でも笑って見せることだけだった。

「戻りましょう」

ランはそう言って、ニキの腕を取り立つのを助ける。


 戻りながら、ニキは、またずっと黙っている。

他の三人も黙って、一緒に歩いていた。

彼らは、ニキが「お父さん」と呼んだのを聞いている。

それぞれに、その意味について考えるのだけれど、ニキに何を聞いても答えが無いのを知っている。


 「すみません」

ニキは、歩くのを止めて言った。

そして、心配する三人に、自分は大丈夫だという風に笑顔を見せる。

その時、キースは、「ニキは、いつもこうしていたんだ」と思った。 

「とにかく、戻ろう」

キースは、それだけ言って歩き出す。



 管制センターでは、ジェイクが心配しながら皆を待っていた。

「ニキ、どうしたんだ?」

その問いに、ニキは笑って答える。

「御免なさい、急に飛び出したりして。 白い犬を捕まえようとして・・・」

「ああ、あの白いのか。 それで、見つけたのかね?」

「いいえ、どこにもいませんでした」

ニキは、いつもの様子に戻っていた。


 キースは、あえてそのことには触れず、ジェイクに聞く。

「何か分かったことは?」

「いくらかの情報は収集できたから、これを見てくれ」

ジェイクは、前より詳しい3D映像を出して説明する。


「君たちが見た森の空間は、このように周りの柱によって支えられてるんだ。

この建築方式は古代からあるけれど、これだけのものを支える技術は大変なものだと思うよ。

とにかく、まるで海の中にある温室だね。


天井は、透明度の高い物質で作られている。

この物質は、今まで見たことはないし、百年前にここへ供給した物にも無かった。

この下の階はまだ良く分からないけど、全体像からして何かの工場だろうから、もしかしたら、そこで作られたのかもしれないね。

それだったら、大変なことだよ。


それに滑走路は、恒星からの光を受けてソーラー発電もしている。

この施設は、すでに数十年分のエネルギーを蓄電しいるようだし、発電のシステムもある。

浮上しなくても十分に維持できるから、余裕で隠れ続けることが出来るんだ。


森には鳥と虫が放たれているけれど、哺乳類動物はいないし、爬虫類もいない。 ミミズのような環形動物はいるけどね。

とにかく、犬がいるという記録はない」


「医療データとかもなかったのですか?」

カイが聞く。

「見つからなかったわ」

それにはランが答えた。


 キースは、しばらく考えると口を開いた。

「出来れば、この施設が作られた目的を知りたいのだけれど、それは簡単に分かるとも思えない。

今のところ、植物資源を保存する目的、と言うのが一番の有力説かな。

まだニキのヴォイスコマンドの問題も解決されていないし、時間は少し残っているから、時間が許す限り調べてみよう。

それでも何も分からなかったら、今日は、これで引き上げた方がいいと思う。

何か他に意見は?」


 「あの・・・」

その時、ニキが恐る恐る言った。

「もしかしたら、ここを離れるのは、まだ早いかもしれません」

全員がニキを見る。


「どう言う意味だい?」

ジェイクが聞くと、ニキは答える。

「この場所は、私が子供の頃、母から聞いた話にそっくりなのです。

水で覆われた惑星、水の下の森、そして、白い犬。

もし、さっき見たのが白い犬であれば・・・」

ランが言う。

「ニキは、あれはやっぱり犬だと思うのね」


「そうです。

白い犬を捜して下さい。

もし白い犬がいるのであれば、私たちを森の中心へと連れて行ってくれるはずです」

「森の中心!?」

全員はあっけに取られた。


「ニキ、森の中心は、ここからかなり遠くて、乗り物もないし、とても今日中には行けないよ」

ジェイクが言った。

キースも警告する。

「しかも、僕たちはこの施設に関して知らないことが多すぎる。

これ以上進むとしても、安全だと言う保証はない」

そこでランが聞いた。

「ニキ、何故、森の中心に行きたいの?」


「何故って、私がそこへ行くために、このチームが組まれたのだとしたら・・・

もし、それが当たっているのなら・・・犬の名前は、マフィー」

その時、彼らの後ろで犬が吠えた。

全員、声のする方を振り向く。

そこには、白い犬がいた。

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