表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォータープラネット  作者: Naoko
25/56

25話 心の封印

 キースは、セキュリティシステムをチェックし、ランとジェイクも、声の主について探ろうとする。

「だめだわ、ロックされていて、この付近しか分からない。」

ランが言った。 キースもなすすべがなく、何の情報も得られない。

今、彼らにあるのは、ゾーイの持っている設計図の全体像だけで、それもどこまで新しいのかはっきりしない。


 「スキャナーと自分の目で確かめるしかないな」

キースが言った。

「奥へ行ってみるのか?」

ジェイクが聞く。

「そうだね、この奥がどうなっているのかを知りたいし。

まあ、せっかくここまで来たのだから、報告書にまとめるくらいの情報は探ってもいいんじゃないのかな」

うつむき加減だったキースは、上機嫌になっている。


 ランは、そのキースに、今までとは違う何かを感じる。

確かにキースは、ウォータープラネットへ来たかった。

そして、ついにここへ降り立ったのに、キースにはこの施設を調査する権限はない。

ここを去ろうとしていた時に、あるはずのない犬のような吠え声を聞く。

不気味だけれど、それによってキースは、未知の謎を探索する切符を手に入れたことになる。

にしては、さほど緊張している風でもない。

そう言えば、ジェイクが滑走路の入り口で怪我をした時、キースはかなり動揺していた。

自分の身内が怪我をしたのだから、動揺しても可笑しくはないのだけれど、いつものキースらしくない。

キースに何が起こっているのだろうと、ランは不思議に思う。


 キースは、自分の防護スーツを点検しながら言った。

「ジェイク、ランとニキと共に、ここの情報を出来るだけ集めてくれ。 ゾーイを連れて行く。

ゾーイ、あの声の位置を把握できるか?」

「声のした方向は分かります」

ゾーイが答える。

「そうか、とにかく行ってみよう。 カイ、一緒に来てくれるか?」

「いいですよ」

とカイも答える。

心を弾ませながら、てきぱきと準備するキースが「動」としたら、カイの態度は「静」だ。

その対象的な二人も、ランには、何かが違うように思える。


 「気を付けてな」

ジェイクが言った。 それに対し、カイは、

「そうですね、レクシーの二の舞にならないように気を付けて欲しいですからね」

と言うと、キースはむっとする。

「それとこれとは違うだろ!?」

反対に、ジェイクは驚く。

「えっ? カイはレクシーを知っているのか?」


 「ええ、前に一度、会っただけですがね」

カイは、キースを無視して、ジェイクに答えた。

「レクシーが怪我をした時、僕はたまたまそこへ居合わせて、応急処置をしました。

キースとは、その時に会ったのが初めてで、今回の仕事で二度目です」

カイのその言い方は、自分はあまり係わりたくなかったと言う風だ。


 「そうか、じゃあ知らないかもな。 あれからレクシーの左腕が動かなくなってね」

「それは聞きました。

大体、窓を開けたまま、車を降りるからあんなことになるんです。

レクシーは、キースがどこかへ行ってしまうんじゃないかと慌てたんじゃないですか?

動いている車から飛び降りるなんて」

「それを、皆から散々言われたね」

と言うジェイクに、キースはうんざりしているが、話はまだ終わらない。


 「とにかくキースは、レクシーの治療とリハビリに大変だったんだよ。

腕はもう一生、動かないだろうと言われたしね。

まわりも無駄じゃないかって言ったんだが、キースは諦めなかったんだ。

そして、その努力の甲斐あって、腕は普通に動くようになってね。 奇跡だと皆で喜んだよ。

だがね~、それでキースは・・・」

「ジェイク!」

キースが怒鳴った。


 「おっと、失敗、失敗。 私はこれだからね。

だから今まで叔父だってことも黙ってたんだけど」

「大丈夫です。 それも聞きましたから」

カイも、「まったくこの人は・・・」とジェイクのことを思っている。

ジェイクはと言えば、

「何だ、君も知ってたのか」

と言って笑った。


 ランとニキは、その会話を聞きながら、きょとんとしている。

話の筋が読めないのだ。

「レクシーって誰?」

とランが聞く。

「ああ、キースの飼っている犬なんだ」

と答えたジェイクに、ランは、一瞬、息を止めた。


 「・・・じゃあ、付き合っていた人と自然消滅したって!?」

「なんだ、ランも知ってたのか」

ジェイクは顔をほころばせる。

「キースが、あまりにレクシーにばかりに時間をかけるんで、恋人に愛想を尽かされてしまったらしいんだ。

疎遠になってるなと思ってたら、いなくなってしまってたね。

なんか、他に恋人を見つけたとか?

だがね~、こればかりは仕方が無いんじゃないか? 怪我の治療だよ?」

と考え込むジェイクに、ランは、それは私でもいやかも、と思う。


 キースは、もうすでに諦めているらしく、ジェイクを止めない。 

そして、

「忙しかったって、犬の治療のためだったの?」

と聞くランに、

「それもあるが、ヴェラムのコーディネーターの仕事も入ってたんだ。

それで忙しかったんだ!」

と答えた。


 その光景を見ながら、ニキは、再び、ジェイクに助けられたような気がした。

ニキの体から緊張が解けていく。

そして、この暖かい人は、なんて素敵なのだろう。

もし、自分の父親も生きていたら、こんな風だったかな、とも思う。

そして、次の瞬間、犬、という言葉が頭に浮かぶ。

そして、なぜ犬なのだろうとも思った。


 「そう言えば、キースは、ヴェラムでもレクシーが来たと思ったんだよな」

ジェイクの質問に、キースも降参したように答える。

「ああ、犬の感触だったんだ。

はっきりした形ではなかったんだけどね。

だが考えてみると、レクシーより小さかった。

レクシーは大型犬なんだ。

レクシーは、前かがみになって頭を低くしていることが多かったから、反射的にレクシーだと思ってしまったのかもしれない。

だから、さっき聞いた犬の吠え声も、ホログラムの可能性がある」


 「と言うことは、ヴェラムでの不思議な感触は、この施設からのものなのかしら?」

ランが言う。

「それも確かめてみたいね。

それに、僕が犬を飼っているから、そんなホログラムが現れたとも考えられる。

そうだとしたら、やはり僕が確かめるべきなんだろう。

それに、」

と言って、キースはカイを見る。


 「君も、このままでは帰りたくないだろ?」

カイはそれには答えず、意味ありげに笑って見せる。

「じゃ、行こう」

とキースは言うと、先に管制センターを出た。


 キースたちが出かけると、ジェイクがしみじみと言った。

「キースは、なんだか生き生きしてきたね。

やっと、本来の自分に戻るところかもしれないね」

「えっ?」

ランはジェイクを見る。

「何かあったの? レクシーの事件のほかにも?」

ジェイクは苦笑いする。


 「キースの過去をばらすのは、不本意なんだけどね・・・

キースは、子供の頃は心の優しい子でね。

だから私があの穴に落ちた時も、レクシーと重ねたんじゃないのかな。

レクシーが怪我をしたのは、キースの不注意のせいだったからね。

キースは、たくさんのことを負っている。

それを私が、とやかく言っても仕方がないからね。

だから、会社でも、叔父甥の関係は伏せておきたかったんだ。

私は、どうも場違いなことを言ってしまうからね」


 ランが笑いながら言う。

「そこがジェイクのいいところじゃない。 話してよ」

ジェイクは、優しく微笑む。


 「そうだね・・・

キースが、自分の任務が終わったと思った時点で、重荷の何かを下ろしたのかもしれないね」

ジェイクは、そう言って言葉を区切った。


 「キースには妹が一人いてね。 身体障害者なんだ。

朝、生まれたんだけど、夕方までは持たないと言われた。 

そして、その日を生き延び、三日後には死ぬと言われ、一週間後、一ヶ月後、一年後、三年後、学校へは行けない、大人になれないと言われつつ、大人になった今でも生きている。

体の成長の仕方が普通じゃないから、何度も手術をしたね。

その度に、キースはうちに預けられたんだ。

だから私としても、キースは甥と言うよりは息子みたいなもんなんだよ。

うちは、女の子四人だから、女の園のような家だったしね」

そこで、それまで真剣に聞いていたランが笑い、ジェイクも笑った。


 ニキは笑えなかった。

心の中の封印が解かれそうで、ぐっと堪える。 泣いてしまいそうになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ