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ウォータープラネット  作者: Naoko
23/56

23話 RESS-1011

 「あれぇ~!? 通信が途絶えた。 モニターにも反応がない!」

アレックスが慌てて言った。

「シールドが邪魔をしているのよ。 中に入られたら、私だって分からないもの」

アプローズが、くすくす笑いながら言う。

それを、煩そうに見るアレックスは、

「とにかく、やり方はあるはずだ」

と言いながら、気を取り直してスクリーンのデータに集中する。


 アプローズはアレックスの横で同じスクリーンを覗き、ささやくように言った。

「それより、ねえ、滑走路を見せてよ。 シャトル機を通してだったら見れるでしょ?」

アレックスは、横目でちらっと彼女を見る。

「いいけど」


 青い空と、青い滑走路が、スクリーンに映し出された。

そよ風が吹いているのか、滑走路上の水面は小さく波立っている。

空を二分するかのように遠くまで広がるさざ波の上に、白い雲が、千切れたりくっ付いたり、揺れたりしながら映っている。

そんな景色を、アプローズは黙って見ていた。

アプローズの瞳に、ウォータープラネットの青が映る。


 アレックスは、どこかでこんな感じを見たような気がすると思った。 が、思い出せない。

そして言った。

「何をそんなに見ているんだ? 

まさか君が、これを美しいと思って見てる訳でもあるまいし」

アプローズは、アレックスを見ると、ふふんと笑ってそれには答えない。


 「ロック解除をニキの声に変えたのは君なのか?」

アレックスの問いに、アプローズは手にあごを乗せ、スクリーンを見たまま答える。

「さ~ね~。 そうかもしれないし~、そうじゃないかもしれない」

アレックスは、アプローズの煮え切らない態度にイラっとするが、我慢するしかない。


 そしてアプローズは、ふっと思い出したように顔を上げると、アレックスに言った。

「あ、でも、これは教えてもいいかも。

あの人たちも、もう、知っているかもしれないし。

RESS-1011なんて、存在しないってことを」

アレックスは手を止める。


「どういう意味だ?」

「だって、私が作ったんですもの」

と言って、アプローズは笑う。

アレックスはイライラしながら聞く。

「なぜそんなことをしたんだ?」

「う~ん、これ以上はね、ヴェラムにも知られたくないしね~」

アレックスは、できればアプローズの腕を掴み、無理にでも答えさせたいと思う。

「ほ~らほら、堪忍袋の緒が切れそうよ~」


 そしてアプローズは、割り切ったように姿勢を正すと言った。

「アレックス、忠告しておくけど、私は、まだあなたのことを信頼しているわけじゃないのよ。

ビアトリス出身だからって、安心できる訳でもなくなったしね」

アレックスは、アプローズの方へ向き直ると言った。

「それは、カイのことか?」


 その質問に、アプローズは意味ありげな表情をして答える。

「あなたも、そしてランも、カイを疑ってるじゃない。

あの人、色々と調べていたけれど、欲しいものはヴェラムには無いって分かったみたいだしね。

だからあそこへ行きたかったんでしょ。

それを見つけたら、どうするつもりなのかは知らないけれど、あんまりいい気持ちはしないわね。

まあ、キースはカイを信じることにしてるみたいだから、キースが正しいことを願うわ。

抱きしめてくれようとしたんだし」

アレックスは、一瞬、自分の聞き間違いかと思う。


 「誰が誰を抱きしめたって!?」

アプローズは笑った。

「キースよ。 私をレクシーだと思ったみたい」

「レクシー!?」

「ええ、そう呼んだわ」


 アレックスは、頭がくらっとした。

そして、もしかして、自分はとんでもないモノを作ってしまったのではと思う。

アプローズを自分の作ったプログラムにインプットしたのは、キースがヴェラムを出た後だ。

と言うことは、アプローズは、すでに妖艶な特質を持っていたことになる。

とにかく、あのキースをさえ翻弄したのだから、アプローズは侮れない。

それに、ジェイクが怪我をした時のキースの動揺も、もしかしてアプローズの影響かもしれない、と想像は膨らんでいく。

アレックスは深呼吸し、心を落ち着け、言葉を選ぶことにした。


 「カイが何を探しているのか、君は知っているのか?」

その問いに、アプローズはわざと驚くように答える。

「私が? 知っている? さあ~?」

そして、伸びをするように腕を上げた。

「知ってても、言わないんじゃない?

それに、あなたに教えてしまったら、ヴェラムに悟られるかもしれないし」


 「君は、なんでそんなにヴェラムを嫌うんだ?

ヴェラムは、長年、あの惑星を守ってきたんじゃないのか?」

アプローズは背中を伸ばすように立つと、アレックスの前をゆっくり歩きながら答える。

「そうね、ヴェラムは今でもその仕事は続けているわ。 そこらへんは忠実ね。

忠実なんだけれど、」

そこで区切り、歩くのを止め、答える。

「ヴェラムは、裏切ったのよ」


 アレックスはその答えに、ふーっと緊張を解くかのように息を下に向かって吐き、それから言った。

「そんなことだろうとは思ってたさ。 

とは言ってもヴェラムには人格はない、まあ、それを言えば君もだけどね。

君は、オレが作ったプログラムに従って情報を出しているだけだ」

そして、アレックスは顔を上げると言った。


 「裏切ったて、どう言う意味だよ?」

アプローズは、椅子に腰掛け、足を組み、上体をゆったりさせ、答える。

「その人格のない私たちが、何とか道を探ろうとしているのよ。

ヴェラムは自分が正しいって言うし、私は違うと思う。 

まあ、それも強いて言えば、あなたたちのため?」

アレックスは呆れる。


 「オレたちのため? 馬鹿馬鹿しい。

システムは、君が言っているようには考えないよ。

どうせ、背後に身勝手なやつらがいて操っているに決まってるんだ」

すると、アプローズは少し悲しい顔をした。

アレックスは、それには気付かない。

「とにかく、ヴェラムはオレたちを追い出したい。

アプローズ、君は、オレたちをあそこへ行かせたい、だろ?」


 アプローズは、再び手の上にあごを乗せると言った。

「そう、その、あなたたちをね。 ニキと一緒に」

「なんだって!?」

アレックスは声を上げた。


 「ニキがどうしたって言うんだ!?」

アプローズはプイッと横を向く。

「さあ? RESS-1011は、私の苦肉の策だったのよ? 褒めてもらいたいくらいだわ。

あなたたちがヴェラムを去ったら、次のチャンスは十年後なのよ?

ヴェラムは、誰もあそこへは行かせたくなかったから、もう少しで成功するところだった。

あなたたちのためって言ってたけれど、もう遅いわ。

ヴェラムは、RESS-1011には驚いたでしょうね~」

そう言ってアプローズは笑った。


 「私の邪魔ばっかりするからいい気味よ」

その様子にアレックスは混乱し、この女はいったい何を言いたいんだ、と思う。

もちろん、アプローズは女ではないのだけれど。


 「あ、それから、これも教えてあげる」

アプローズは笑うのを止めると言った。

「どうせ、あなたは気付くと思うし。

今の所は大丈夫だと思うけれど、先に言っておけば、もしあなたが失敗しても、私のせいじゃないしね。」

アプローズは身を乗り出し、アレックスに顔を近づけ、その目を見ると言った。

「人工衛星には気を付けることね」

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