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ウォータープラネット  作者: Naoko
21/56

21話 アプローズ

 アレックスは、コントロールルームの幾つかのスクリーンを見比べながら忙しくキーを打っていた。

横で誰かが、ため息をつく。

アレックスは、その誰かをチラッと見ただけで、目を再びスクリーンへ戻す。

そして言った。

「何をスネてるんだ?」


 コントロールテーブルの上にゆったりと座っていた彼女は、体を起こし、足を組みかえる。

「だって、他には誰もいないって言うんですもの」

彼女は甘えるような声で言った。

アレックスは、ふふっと笑う。


 「誰もいないじゃないか。

それが証拠に、重さの無い君は、コントロールテーブルに座っても何の問題も無いだろ?

実際、君には触ることすら出来ないんだし」

「それは・・・とにかく何とかして欲しいわね。 例えば、この髪とか」

アレックスは、彼女が髪をかき上げるのを見る。

金髪のフラッフィーヘアの一部分がかすれていて、彼女が動くたびに小さな火花のようなものが飛び散る。

「十分に美しいと思うけど」

アレックスが言った。

「ふん、あなたの美的感覚を疑ってしまうわ。

それに、私は、あなたと話をするためにこの形にされたのに、ちょっと冷たくないかしら?」


 アレックスは手を止める。

そして座っている椅子を彼女の方に向けると、体を椅子の背もたせに寄りかからせ、足を伸ばした。

「そうだよ、話がしたいんだ。 だけど、君の方がなかなか話してくれないんじゃないか。

だからオレは、仕方なく仕事をしてるのさ」

彼女は微笑すると、腕を組み、頭を傾げて言った。


 「そうね~。 どうしようかしら。 知ってはもらいたいのだけど、私には名前すら無いし・・・」

「君を形作ったのはオレだけど、名前が無いのはオレのせいじゃないよ、滑走路さん。

あ、それともヴェラム?」

彼女は、体をすくませると言った。

「ああ、なんて情緒の無い名前で呼ぶんでしょう。 それに、ヴェラムだなんて寒気がするわ」

「と言うことは、君はヴェラムのシステムじゃないんだね?」

彼女はアレックスを見ると、体を揺らして言った。


 「ふふ~ん。 危ないわね~。 うっかり喋っちゃうところだったわ。

まあ、教えてもいいんだけれど、私もあなたのことをもっと知りたいし」

アレックスは少し驚いたように見せて言った。

「オレのことはもう知ってると思ってたけど?」

「そうね、でもあなたはビアトリス大学にはいなかったから、どうかしらね」

「ずいぶん用心深いんだな。

じゃあ・・・例えば、カイだったら信用するとか?」


 「カイね・・・魅力的だけれど、私の好みじゃないわ」

彼女の目が少しこわばる。

「怖いのか?」

彼女は上体を低くして、上目遣いにアレックスを見ると聞いた。

「どうして? 」

アレックスは、薄ら笑いを浮かべながら答える。

「いや、なんとなく」


 彼女は体を起こしながら、顔に掛かった髪を両手で煩げに後ろに払う。

「私の方から怖がらせてみようと思ったのに、あの人、怖がらないのよ。

水を、ピチャーンってね」

アレックスは、くすくすと笑う。

「カイはそんなことでは驚かないよ。 じゃあ、ランは?」


 「ランは好きよ。 また会えて嬉しいわ。

気付いてもらおうとして、風のように囁いただけだったけど。

後でゾーイを使って近づこうとしたら、ヴェラムに邪魔されちゃったし。

昔はあんなに意地悪じゃなかったのに」

「じゃあ、君は前からいるんだ」

「そうね、できるだけヴェラムに気付かれないように、システムの奥で、ひっそりと。

でも、ヴェラムには見つかってしまったわ。

だから衛星に・・・」


 「衛星? 人工衛星のこと?」

「あら、またお喋りのし過ぎだわ。

それに、滑走路の上にいる皆さんたちは動き始めたみたいよ」

アレックスは、スクリーンを見る。


 滑走路からのウォータープラネットが、すべてのスクリーンに映し出された。

「きれいな惑星だ。」

アレックスがぼやくように言い、彼女は遠くを見るように言う。

「そうね~、私はずいぶん長い間、あそこへは戻ってないわ」

「戻りたいのか?」

「戻りたい、ね~。 それより、出たい、かしら」

「出たいって、どこから?」

「あ、入り口が開くわよ。 あの人たち、危ないんじゃない?」

その時、アレックスはキースの叫び声を聞いた。


「ジェイク!」


 ジェイクは忽然と消えた。

その後で、ジェイクを飲み込んだ三メートル四方の穴の縁が、急に盛り上がる。

そのとたんに水の流れは止まり、辺りは何もなかったかのように静かになった。

キースが穴の中を覗くと水は急速に抜かれていき、下へ行く階段が現れる。

ジェイクは階段の途中で倒れていた。


キースは階段を下りると、ジェイクを起こし、カイもジェイクの元へ駆けつける。

「大丈夫だ。」

ジェイクはそう言いながら立とうとし、よろける。

カイがジェイクの足を診ると言った。

「骨は折れていませんが、捻挫しています。 応急処置をします」


 キースは、カイが応急処置を施すのを見ながら、凍ったように黙り込んでいた。

なぜか、自分が幼い頃のジェイクが、走馬灯のように頭を駆け巡る。

それはまるで心のパンドラの箱を開けてしまったかのようで、キースは動揺している自分にも驚いている。

コントロールできないのだ。

そして、こんなことは今までなかった、と思う。


 ジェイクもキースの動揺に気が付いていた。

今まで緊張して仕事をしていたキースが、自分の負傷という事態が引き金になり、混乱しているのが分かる。

「キース、すまない、私の不注意だ」

「いや、これは僕の責任だ。 うっかりしていた。 予測できたはずなのに」

ジェイクは、キースの腕を掴んで言った。

「キース、今は、私が君の伯父だと言う事を忘れなさい」


 「伯父?」

駆けつけていたランは、キースを見て驚く。

それと同時に、キースはその言葉で我に返る。

それで十分だった。

キースは心の中で、他の誰をも不安にさせてはいけない、と自分を戒める。

「分かった、ジェイク、ありがとう」

キースは、ジェイクがつかんでいる手を握り、笑顔を見せながら言った。


 「ちょっと~、水臭いじゃないの~、伯父さんだなんて。 なぜ今まで黙ってたの~?」

ランが言う。

「仕事に私情を入れたくなかったんだ。

それに、ジェイクをリストの中から選んだのは、それがふさわしいからで、それ以上は何もない。」

キースは、いつもの淡々とした表情に戻っている。

ジェイクも笑いながら言う。

「いや~、伯父とは言え、私とキースのイメージは程遠いからね~。

キースの迷惑にはなりたくなかったんだよ」

ジェイクのその言葉に、全員の雰囲気は和んだ。



 その会話は、ヴェラムにいるアレックスにも聞こえていた。

アレックスは、ふーっと息を吐く。

「捻挫だけでよかったわね。 それに、面白いことになっているみたいだし」

そんな彼女の言い方に、アレックスは怒鳴る。

「分かってたんなら、なぜ言わないんだ!? ジェイクは怪我をしたんだぞ!」

「あら、コワイ」

と彼女は言って、プイッと横を向く。


 「あなたが私のことを隠してたからでしょ?

それに、私だって、今は、あの下がどうなっているのか知らないもの。

あなたが見つけたアレ、アレだけよ」

アレックスは、ため息をつくと言った。

「いいさ、ゾーイがあの情報を持って行ってくれてるし、君より頼りになりそうだしね」

「ああ、ゾーイ、ゾーイって、なんであんなのがいいのかしら?

確かに私も利用させてもらったけど、ただの六足ガイドロボットじゃない」

六足、とアレックスは聞いて笑う。

「確かに六足だね」


 「ねえ、あのガイドロボットには名前があるんだし、私にも名前を付けてよ」

彼女は、アレックスに擦り寄る。

アレックスは、目を細めて彼女を見ると言った。

「そうだね・・・アプローズってのはどう?」

彼女は、満足そうに微笑む。

「青い薔薇。 拍手喝采。 私にふさわしい名前だわ」

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