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ウォータープラネット  作者: Naoko
19/56

19話 白い鳥たち

 広い格納庫では、二機のシャトル機が出発準備をしていた。

最新式のシャトル機は、ライトに照らされ、白く光っている。

その流線型のボディは白い鳥を思わせ、ニキを魅了する。

今まで、こんなに美しいシャトル機は見たことがない。

これから、この姉妹鳥のようなシャトル機たちが、あの青い惑星に向かって飛んでいくのだ。

ニキは目をつぶり、その光景を思い浮かべ、自分の気持ちを高めようとする。


 ニキには、まだ不安が残っていた。 いつもの用心深さが出ている。

不安を取り除くかのように頭を振り、集中するよう自分に言い聞かせる。

そしてジェイクを手伝い、必要な荷物をシャトル機に運び込むと、ゾーイを従え自分も乗り込んだ。

もう一機には、キース、ラン、そしてカイが乗る。


 シャトル機には、前方に操縦席と副操縦席があった。 他の席は、後方の両壁添いにあり、中央は開いている。

ニキは、ゾーイを後ろの一つの席に座らせ、自分はジェイクの横の副操縦席に座る。

ジェイクは、出発前の運転開始の準備をしていた。

副操縦席と言っても、自動操縦だからニキのすることは何もない。

その初めて使われるらしいシャトル機の中は、新しい乗り物の匂いがした。


 シャトル機のドアが閉まると、格納庫から発着滑走路へと移動していく。

前方に現れた小さな窓のような出口から見える宇宙空間が、次第に大きくなっていく。


 「ニキ、緊張しているだろ?」

ジェイクは、ニキを気遣って言った。

「え、いえ、平気です」

「大丈夫、昔の人は普通に下りていたんだから」

「そうですよね・・・」

ニキは、気のない返事をした。


 「OK、ヴェラムからテイクオフクリアーのサインが出た。 全員、無事に戻って来いよ!」

アレックスの声が、シャトル機の中に響く。

「了解」

二つのシャトル機は返事をした。


 シャトル機はふわっと浮かぶと、次の瞬間、沈むかのように機体を下げる。

そして惑星へ向かって降下し始めた。

そのとたん、宇宙空間に浮かぶウォータープラネットの青が、ニキの目に飛び込んできた。

あの、初めてウォータープラネットを肉眼で見た時と同じだ。



 「大気圏に突入する」

キースの声に、ニキは、はっとする。

そして、思っていたよりシャトル機が滑らかに降下しているのに気が付いた。

やはり緊張しているのだ、とニキは思う。

「了解」

ジェイクは、そう答えると、椅子の背もたれに寄りかかった。


 「ニキは、驚いているんだろうね」

「ええ、まあ、でも仕事ですし」

「こんなことは、そうそうあるものではないよ。 メンバーも若手ばかりだしね。

キースも、ウォータープラネットに行く可能性があることを知ってたのに、なんで君のような若い子を選んだのかね」

とジェイクに言われ、ニキはしまったと思う。

自分の気持ちに精一杯で忘れていた、尊敬しているジェイクに、仕事意識の低い娘と思われたくない。


 「あ、すみません、だめですね、私、しっかりしなくっちゃ」

「いや、そう言う意味じゃないよ。 君は良くやってくれているよ」

ジェイクは慌てて言った。


 「先回だって、入社二年目のランがメンバーに選ばれたのも話題になったんだ。

若手が入って活気付いたし、いいことだと思うよ。

ただ、今回は、惑星に降りる可能性が高かったらしいんだ。」

「えっ? そうなんですか?」

「まあ、キースが言ったように、回を追うごとに高くなるのは事実なんだが・・・

実は、半年前の研修の時、キースから、君を助手として見てくれないかと頼まれていたんだ」

「あなたが私を選んでくださったのですか!?」

ニキは驚いた。 そして、自分が尊敬していたジェイクに選ばれたのかと嬉しく思う。


 「ああ。 いや、どうかな。 確かに、君をキースに推薦はした。 だが、選んだのはキースなんだ。

それに、見るよう頼まれたのは君だけで、他に誰がいたのかは知らない。

だからこんなことになって、君を推薦して申し訳なかったかなと思ってるんだ」

「そんなことはないです!」

ニキは、きっぱりと言った。

「確かに、驚いていますし不安です。 それでも、あなたの助手として働けるのは光栄だと思っています。」

ジェイクは、顔をほころばせる。


 「そう言ってもらえるのは嬉しいね。 と言うことは、キースのおかげでもあるかな。 

とにかく、キースは良くやってくれているよ。

今、思うと、私がキースをこのプロジェクトに引きずり込んでしまった、と心が痛いんだけれどね」

「キースを前からご存知だったのですか?」

「ん・・・実は、誰にも言ってなかったのだけれど・・・」

と、ジェイクは罰が悪そうに言った。


 「キースは、うちのかみさんの妹の息子、つまり甥なんだ」

「えーっ!?」

と、ニキは、椅子から転げ落ちるかのごとく驚く。


 「し、信じられません!」 

「そうだろうね~、こんなおやっさんの甥っ子とはね~。

まあ、血はつながってないんだが。

あ、でも、自分で言うのもなんだが、キースの母親とうちのやつは・・・」

とジェイクは言いかけて、頭をかく。

自分の妻を褒めるようで、恥ずかしいのだ。

ニキは、そんなジェイクの態度に慌てる。

「あ、いえ・・・キースは、とても淡々としていて・・・何と言うか・・・」

「ああ・・・」

とジェイクは、笑った。


 「キースは、子供の頃はそうじゃなかったんだがね。

ウォータープラネットの話を聞くのが大好きなワンパク坊主だったよ。

その話をしてくれと、何度もせがまれたねぇ」

「え・・・そう・・なんですか・・・」

ニキは以外だった。 自分の他にも、子供のころから、この惑星に興味を持つ人がいたのだ。


 「キースは、この十年ごとのプロジェクトがあることを知った時、そのための勉強を始めたんだ。

その頃からかなぁ・・・あんなふうに淡々とするようになったのは・・・

真剣だったんだね」

ジェイクは、昔を思い出すように話す。


 「だから、今回のコーディネーターに選ばれたと聞いた時は驚いたよ。

あの若さのコーディネーターは初めてだからね。

実際、キースにとっても、かなりのプレッシャーだと思うよ。

うちの会社の上部からも、私がやるべきだと言われたしね。

最も、私はコーディネーターなんてやるつもりは無かったよ。

自分の仕事の方がよっぽど楽だしね」

ニキは笑った。 ジェイクらしいと思う。


 「アレックスはキースのことを『上司』だなんて言ってたけれど、コーディネーターはボスではないのだよ。

まあ、キースの役職は君より上だから、ボスと言えばそうなのかもしれないけれど。

とにかく、キースのやっているコーディネーターの仕事は、潤滑油のようなものなんだ。

キースは若いから、まだまだのところはあるけどね。

君からしたら、ちょっと怖かったかもしれないね。 

それでも、口出しするつもりはなかった。

叔父・甥の関係を隠していたのも、キースの邪魔をしてはいけないと思ってたからなんだ。

会社としても、私が行くと言うので納得したみたいだけど、そんなつもりもなかったしね。

最も、キースをコーディネーターに選んだのは依頼主の方だから、会社は文句を言ってもしかたがないのだけれど」


 ジェイクは間をおいて、深い思いを探るように言う。

「それでも、何と言うか、この惑星があいつを呼んでいるような気がするんだ。

まあ、今まで通り、ただの整備点検で終わるだけだったかもしれないけれど。

キースにとっては、ここへ来るだけでもよかったんだ。

この惑星には不思議な魅力があるからね」


 「そうですね、宇宙空間に漂う青い花が、香りを放っているような・・・」

ニキはそう言いながら、それは出発する前に嗅いだあの香りなのかなと思う。

そして、すぐに『いや、違う』と否定する。 あの香りはもっと柔らかだった。 

この青い惑星は、大輪の花のような魅力的な香りを放っている。

では、あの香りは何だったんだろうと思う。

どこかで嗅いだことがあるようなのだけど思い出せない。


 「もっと主要航路に近ければ、この惑星は、リゾート星にでもなったかもしれないねぇ」

ジェイクが言った。

ニキもそうかもしれないと思う。

ジェイクの話を聞いているうちに、ニキの心は和み、不安はどこかに消えていた。

そのために、ジェイクは自分の甥のことまで話してくれたのだ、とニキは思う。


 突然、スリープしていたゾーイにスイッチが入った。

「海面に、滑走路が浮上してきます」

シャトル機の計器も活動を始める。

そして、キースから連絡が入った。 

「着陸態勢に入る」

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