14話 夕餉
夕食時、アレックスはダイニングルームに遅れて入ってきた。
そして、入り口で立ち止まる。
雰囲気が、いつもと違うのだ。
ニキとカイが、にこやかに話をしながら食事をしている。
それに比べ、今夜のキースは、やけに静かだ。
機嫌が悪いという風ではない。
二人の楽しそうな様子が、キースの淡々とした態度をより強調しているらしい。
おまけに、いつも場を和ませてくれるジェイクがいない。
食事中に流れている音楽ですら、いつもとは違うような気がして白々しく感じる。
ランはアレックスを見ると、少し困ったような、それでいて可笑しいような表情をした。
そして口を開く。
「ゾーイは終わったの?」
「まだだよ、やっとファイルを収めたところだ」
アレックスが答える。
「ちゃんと元に戻しとけよ。」
キースが顔を上げずに言った。
「分かってるよ」
アレックスの答えもどことなく不機嫌だ。
このテンションが下がり気味の二人の会話に、ランはやれやれと思いながら言う。
「アレックス、手伝いましょうか?」
「あ、それ、助かる、お願いしますよ。」
アレックスはそう言いながら、ビュッフェテーブルへ向かう。
「チキンポットパイにサラダか。
まあ、好物だけど、ヴェラムの最後の晩餐にしてはちょっと寂しくないか?」
と、アレックスが言っても、誰も反論しないし何も言わない。
しかたなく黙って自分の分を皿に盛り、ダイニングテーブルに付く。
ニキとカイは、アレックスをちょっと見ただけで自分たちの会話に戻る。
この二人の雰囲気はかなり浮いている、と、アレックスは思う。
そのせいで、他の三人の行き場はなくなってしまったかのようだ。
アレックスは、この状態を無視すればいいと思いながらも、なぜか気になる。
そして、何とかしたいと思ってしまう。
「ところで、ジェイクは?」
と、アレックスは言ってみる。
「まだみたいよ」
ランが答えた。
「片付けが残ってるんでしょ。
ジェイクにとって今回でこの仕事は最後だから、感無量なんじゃない?
最も、私たちだって次に来れるかどうかは分からないけど。
まあ、水を買いに来るって方法もあるわね」
「それは大変な買い物になりそうだね~」
アレックスは、そう言ったものの、その後の会話が続かない。
そして、ニキはカイと何を話しているのだろうと気になるのだけれど、そんな自分がくだらないようにも思える。
会話の内容すら掴めないので、たいした話もしていないのだろう、とかってに思うことにする。
突然、キースのミニ・コムに、ジェイクから連絡が入った。
「・・・分かった、もう食事は終わったから、すぐそっちへ行く」
と、キースは言うと、席を立った。
ダイニングルームを出たキースを、アレックスが呼び止める。
「キース、これはどうでもいいことかもしれないけど、カイはどうしたんだ?」
キースは振り向く。
「どうしたって、何が?」
「いや、あの無愛想なカイが、あんなふうにニキに話してるだなんて驚いたもんだからさ」
キースは向き直ると、ほくそ笑みながら言った。
「心配なのか?
無愛想な人間が、話すようになるなんていいことじゃないか、ニキも楽しそうだし。
少なくとも、アレックス、君よりは安全だと思うけど?」
その言葉に、アレックスはカッとなる。
「分かったよ、余計なことだったな!」
そう言って、アレックスはクルッと向き直る。
そして、なんでこんなことをキースに聞いたのだろう、と自分を情けなく思う。
ダイニングルームへ戻ろうとすると、ランが迎えた。
「どうしちゃったんでしょうね?」
と、ランが、アレックスとその後ろに去っていくキースの背中を見ながら言う。
「なにが?」
アレックスは、自分のことを言われたのかと思い、不機嫌そうに答える。
「ニキとカイよ。
とても、仲良くなるタイプの二人とは思えないもの」
その言葉に、暗かったアレックスの顔は急に明るくよみがえる。
「だろ? あのカイの豹変振り。
あれは絶対、なんか下心があるんだ。
ニキもへらへらしちゃって、危なっかしいったらありゃしない」
「う~ん、それもあるんだけど・・・何があったのかしらね?」
「さあね、あ、なんか? 同じビアトリス大学だとか?」
「え? 何だ、そんなこと?」
「そんなことってどう言う意味だよ」
「ああ、アレックスは知らなかったかもね。
たぶんニキも、だからなのね。
私たち、この整備点検チームは、全員、ビアトリス大学出身なのよ」
「なんだって!? どう言う意味だ?」
「たぶん、あの大学とヴェラムには関係があるからじゃない?
はっきりした理由は知らないけど、毎回そうよ。
まあ、あのジェイクがビアトリス大学の学生だったなんて、ちょっと想像できないけどね」
とランは言って、からからと笑った。