12話 報告書
最後の整理をしていたキースの元へ、カイは追加の報告書を持ってきた。
キースは報告書を受け取りながらカイに聞く。
「君が個人で調べていたのは、医療に関するものだったよね。
それで、欲しい情報は得られたのか?」
カイは、穏やかに答える。
「興味深い、いくつかの点はあったのですけれど、予想していた範囲内というところでしょうか。」
キースはそれを聞くと、両手を頭の後ろに組んで体を反り返らせ、椅子の背もたれに寄りかかって言った。
「つまり、探していたモノは見つからなかったんだ」
今度は逆にカイが質問する。
「探していたモノと言いますと?」
「そのために、ここへ来ることを同意したんだろ?」
キースは体を起こすと、とぼけた風に言う。
「大学の先生が、こんな医療とは関係の無い、設備管理会社の退屈な出張に付いて来るなんてね。
断る事も出来たのに」
「言いますね~。
僕を選んだのは、キース、あなたでしょう?」
カイの言葉に、キースは苦笑いする。
「確かに、リストには他の医者の名前もあったよ。
そして、君はその内の一人だった。
まあ、君の名前を見つけた時には、ちょっと驚いたけどね」
「それで、顔見知りの僕に決めたという訳ですか」
「リストに載ったすべての人物には接触しているから、全員とは顔見知りだ。
まあ、強いて言えば、君はハリスとバーディの従兄弟だしポイントは高かったね。
それに、君なら協力してくれるじゃないか、と期待したところにもポイントを追加したんだ」
「協力? 何のですか? 仕事以外のことでしたら、お門違いかもしれませんよ?」
「君のそういうところは、相変わらずだな」
「あなただって、人のことは言えないんじゃないですか?
あなたが全員と顔見知りだった、と言うのは正しくありませんね。
始めての顔合わせの時、ニキだけは、あなたのことを知りませんでしたよ」
キースは、カイを見ると笑いながら言った。
「さすがだね~。
まあ、初めからだんまりを決めていた君だから、観察しやすかっただろうし。
確かに、ニキだけはジェイクに近づいてもらった。
新入社員の研修の時にね。
どうせ、ジェイクの助手になるんだし。
ジェイクは、ここに過去二回も来ているし技術も最高だから、早々と決まってたんだ。
それに、独身の僕が、新入社員の可愛い子に近づいて、変に誤解されるのも困るしな」
カイも笑った。
「そうですね」
そして、独り言のように言う。
「そうか・・・リストは半年前には出来ていたんだ」
「正確には一年前だ」
キースの言い方は、まるで、教えてやろうという感じだ。
「三ヶ月前には、メンバーの名前を報告しなければならないし、それぞれのスケジュールもある。
苦労して決めた後に断られても困るしね。
特に君のような場合は」
それに対し、カイはふっと笑ってみせる。
そして、考え事をしているかのように言った。
「なるほど・・・非常に興味深いです。
一年前と言うと、ニキが入社する半年前に、すでにリストは出来ていたんですね」
それに対し、キースの答えは即座だ。
「ニキは、在学中、うちの会社でインターンとして働いてたんだ。
だから、社員名簿にインターンとしてのニキの名前は入っていたよ。
それを言うなら、君だってうちの会社の人間じゃないだろ。
その理由も、『非常に興味深いです』じゃないのか?」
「そんなことは簡単ですよ。
あなたの会社に、適切な人材がなかったからでしょう?」
キースは、少しあきれたように言った。
「そういうところも、相変わらずだね」
「そう、ニキですか・・・この辺も調べてみる必要がありますね」
「もう調べたよ、全く普通の子だ。
ジェイクは気に入ってるけどね」
「それだけですか?」
「えっ?」
「それだけで、あなたがニキを選んだとは思えませんがね」
「ふ~ん・・・」
「なんですか?」
カイは、含み笑いをするキースをいぶかって聞く。
「いや、いつもの仏頂面をしている君と、真剣な時の君とは別人だな~と思ってさ」
「僕は、いつでも真剣ですよ。
命を預かる仕事をしてるんだし」
と、カイは言うと、用は済んだとばかりに去ろうとする。
「とにかく、ニキは、おもしろそうです」
そのカイの、去り際の言葉に対し、キースは追うように言う。
「ニキに近づくのか? 変なことするなよな」
カイは振り返り、
「失礼ですね、変なことに成りようが無いでしょう?」
と、怒ったように答える。
「釘を刺しただけだ。
うちの大切な社員だしな」
そう言いながら、キースは報告書に目を向けた。