10話 リスト
部屋の外では、ランがキースを待っていた。
「今日の仕事は、お終いにする?」
キースはランを見るとほっとして答えた。
「ああ、ちょっと早いけれど、仕事は順調に進んでいるし、たまにはいいだろう。
ところで、ゾーイって誰だ?」
ランは苦笑する。
「アレックスの幼なじみよ。
優しい子でね、そうね、ニキよりちょっと年上かな。
アレックスの故郷で、今でもアレックスを待っているはずだけれど」
「へぇ~、意外だな。
あいつは特定の相手を作らないと思ってたら、その理由は別の所にあったって訳だ」
「なによ、あなただって特定な人はいないくせに。
それとも、意外な人がいたりして?」
キースも苦笑いする。
「いないよ。
まあ、付き合ってた女性はいたけど、忙しかったしな、自然消滅した」
「忙しかったって、この仕事のせいで?」
「ん、まあ、そうだな」
「う~ん、それは問題ね。
分からないでもないけど。
ウォータープラネットには不思議な魅力があるもの。
この仕事って、したくても、リストに入らなければチャンスはないから、かなり努力したでしょ?」
キースは天井を見ると、ため息をつきながら答えた。
「そうだね・・・」
突然、ランは思い出したように言う。
「ところで、カイだけれど、前回は医者なんてメンバーにはいなかったわよ。
私の助手の代わりにドクターを入れたって訳?」
「だから、僕が助手の代わりをしているじゃないか。
元々僕は、君の仕事を割り当てられると思ってたんだし。
その準備をしてたから、コーディネートとの掛け持ちでもかまわないんだ」
「えっ? じゃあ、あなたは私のライバルだったの?」
「う・・・ん、まあ、ここに来れるんなら、君の助手でもかまわなかったけどね。
実際、そうなってるし」
キースの言い訳するような言い方に、ランは笑う。
「それにリストの中には、毎回、医者も入ってるんだ。
一応、メンバーの健康管理って事だけれど、必要性はあまりないと思うよ。
だから、チームに選ばれないことの方が多かったんだ。
ただ今回は、医者を入れるように要請があってね。
人数の制限はないから、増やそうと思えば増やせたんだけど、僕としては出来るだけ最小限にしたかったんだ」
「あなたも大変ね。
その分、仕事が増えたでしょ。
とにかく、私としては助かってるから文句は言えないけれど。
それに、ほんとのところ、今回もここに来れるとは思ってなかったし。」
「来たかったんじゃないのか?」
キースが言った。
「この惑星について色々調べていただろ?」
ランは、すっと息を飲むと、それを吐くようにして答える。
「そうね、あなたも興味があるんでしょう? 例えば・・・この惑星の持ち主、なんて?」
キースは、ランを見た。
「キャンベル財団のことか?」
キースの答えに、ランはふふん、と相槌を打つ。
「興味はあるよ、有力な財団の一つだしね。
君も同じように思ってるのかは知らないけれど、はっきりしないことは色々ある。
先ず、ウォータープラネットはその財団の生まれ故郷だけど、この美しい惑星を世間に広めるどころか、ヴェラムでの収益も上げようともしない。
主要航路からも外れたままだ。
それなのに、莫大な費用を使ってヴェラムを維持している。
維持の仕方も、過去を大切に記念として取っておこうと言うより、未来へ繋ごうとしているかのようだ」
「ああ、それは私も思ったわ」
ランも納得するように言った。
「それに今回は、リストの内容も過去のモノとは違ってたんだ。
君が言うように、若いのが多かった。
実際、僕がコーディネーターに選ばれたのも驚きだったしね。
二十歳代のコーディネーターなんて初めてだそうだ。
このメンバーに選ばれるよう努力してたから嬉しかったけれど、それだけでコーディネーターになれたとは思えない。
候補者のリスト作りやコーディネーターの選出は、キャンベル財団がやって、保険会社を通してうちの会社が受け取る。
これも普通じゃない。
とにかく、キャンベル財団は、コンピューターが選ぶとだけしか言わないし、それが契約の条件の一つなんだ。
彼らは隠しているのかもしれないし、本当に、何も知らないのかもしれない。
だから僕はすべての候補者に接触してみたんだけど、何も分からなかった。
まあ、会社側としては、収益の高い仕事だから契約を取れただけで満足なんだ。
気にしているのは僕だけかもしれないしね。
で、君は、その財団について何か分かったのか?」
「う~ん。
分かったのか、どうなのか・・・あなたがすでに知っていることだけかもしれないし。
まあ、色々な噂話や他愛の無い裏話みたいなのははあるんだけど、ほんとかどうかもね~。
調べれば調べるほど、迷宮入りしてしまうのよ。
だから私、もう一度ここへ来てみたかったのかもしれないわね」
「たしか、君の夫も、以前にキャンベル財団のドキュメンタリーを作ってたよね。
そっちからの情報もあるだろ?」
「ロイド?
まあね、でも、逸話っぽいし・・・
彼とは、友人のコネで放送局の資料室に入れてもらった時に紹介されたのよ。
色々と教えてもらう内に意気投合しちゃってね。
ウォータープラネットが取り持つ縁、かな?」
「君に初めて会った時、もう結婚していて子供もいるって聞いて驚いたよ。
しかも、二人だぜ?」
「なによ、私が家庭には不向きだとでも言いたいの?」
「いやー、なんだか独身一直線で仕事してるって感じだからな」
「ああ、私たち、親が隣に住んでいるからね。
両親はまだ若いし、家や子供たちのことを任せられるのよ。
だから、私も結構自由に仕事をさせてもらってるってわけ。
今回の長期出張も安心して来れたし。
ロイドも、今はニュースのプロデューサーとして忙しいから助かっているわ。
おかげで、私たち、今でも恋人同士と思われたりしてね」
「それは、うらやましいことで・・・」
「ふふん、あなただって分からないわよ~。
言ったでしょ、この青い惑星には、不思議な魅力があるって」
「おいおい、止めてくれよ、ウォータープラネットに人を結びつける力なんてあると言うのか?」
「そうだと嬉しいわね。
もし、そういうことだったら良いのに、ね」
キースは苦笑いしながら言った。
「そうだな」