1話 青い惑星
「ニキ、おはよう、起きてる?」
ニキはギャレーを出ると、服の襟に付いたミニ・コミュニケーターの声に答える。
ミニ・コミュニケーター、通称、ミニ・コムは、ニキの働いてる会社の社員が、仕事の時に身に付ける通信機だ。
「おはよう、アレックス、もちろん起きてるわ。
今、操縦室へ向かってるところよ。
私は紅茶だけど、アレックスはコーヒーで良かったわよね」
「おっ、気が利くね~。丁度、コーヒーを飲みたいと思ってたんだ。
今、ハイパースペース・ウエイから出て、惑星の軌道に乗ろうとしてるところだ。
君のお目当てのモノが見えてきたよ」
ニキが操縦室の入り口に立つと、ドアが開く。
突然、ニキの目に、青い惑星が飛び込んできた。
前方に現れたウォータープラネット。
宇宙空間に浮かぶその惑星は、青い真珠のような光沢を放っている。
この宇宙空間でこれほど水に包まれた惑星は珍しい。それなのにあまり知られていない。
ニキは、その美しさに飲み込まれてしまい圧倒され佇む。
両手に持ったカップから、湯気が、ゆっくりと上っていく。
そしてニキは体の緊張を解くと、操縦室に足を入れアレックスの方へ向かう。
「ついにやって来たのね」
ニキは、そう言いながらコーヒーのカップをアレックスに渡した。
「主要航路から外れているから時間が掛かったけどね」
アレックスはカップを受け取ると、コーヒーの香りを嗅ぐ。
青い惑星に見入っているニキは、そのままアレックスの横の副操縦席に座った。
「本当に、青い海だけの惑星だわ」
ニキはそう言って紅茶を飲む。
紅茶の香りが、ニキの口いっぱいに広がった。
その香りは、豊かな上品さがあり、果実の甘さがニキの心をゆったりさせる。
心をゆったりさせるのは、紅茶のせいばかりではない。
ニキは、この青い惑星には、なにか不思議な力がある、と思った。
アレックスは、その惑星に取り付かれたように凝視しているニキを見ながら言う。
「ここは、宇宙植民地時代、水の補給地としてにぎやかだったらしいよ。
まあ、辺境じゃないけど、航路が整備された後、取り残されてしまったからね。
この惑星を回っている宇宙ステーションには、今でもたまに水補給の船は来るから、寂しいながらも営業中って訳だ」
「そうね、私も、この仕事がなければ、こんなところまで来れなかったわ。
いつか、この惑星を見てみたいと思っていたけど、こんなに早く来れるとは思ってなかったもの」
アレックスは、コーヒーを飲むと間を置いて言った。
「いつか見たいって・・・前にも言ってたよね。
なんで、こんな忘れ去られた惑星に興味があるのさ。
まあ、きれいな惑星ではあるけれど、他にもきれいな星はいくらでもあるし・・・
メカニカル・エンジニアの君が関心を持つような惑星だとも思えないけどね」
「う~ん・・・そうね・・・
私が子供のころ、母がこの惑星の話をしてくれたのよ」
「君のお母さんは科学者かなんか?」
「うんん、母は教師よ。
この惑星とは全く関係ない仕事だけれど、子供にお話をするのは上手よ」
ニキはそう言うと、母親のその様子を思い出してクスッと笑った。
「私がメカニカル・エンジニアになったのは、父がエンジニアだったせいね」
と言って、ちょっと寂しい表情をする。
「父は、私が八歳の時に事故で死んでしまったけどね。
だから母は、私を寂しくさせないように、この惑星の話をしてくれたんだと思うわ」
「へぇ、どんな話だったの?」
ニキは、アレックスを見てにっこりすると言った。
「女の子、小さな女の子の話よ」
その時、操縦室のドアが開いた。