図書館のアラタくん
ネット投稿者の少年×元文芸部の部長(2年生)
「あなたの作品、読ませてね」
「い、嫌だって言ったら?」
「何もしないよ。言い触らさないし、苛めもしない。ただ元文芸部の部長が悲しくなるだけ」
そう、元文芸部部長は微笑んで言ってきた。
入学したばかりなのに『ライトノベル作家を目指している』という秘密が、この女子にはバレていた。
「作品を現実で見せたくない」
家に帰り、自分の部屋に行き、椅子に座る。
ノートを取るが「こっちじゃなかった」と別のノートを取る。
あっちは『ネット投稿用』のノートなのだ。
現実の人に作品を見せるのはいつ以来だろう。
小学生だった頃、地域の図書館で出したことがある。今、そのコーナーはないけど、前は小説や詩を投稿するコーナーがあった。
『アラタ』が筆名、僕の下の名前。
それで、載ったから調子に乗って同級生に自慢したら「創作とか恥ずかしくないの?」て言われたんだけど。
創作は恥ずかしいもの、という世間の印象。
本は恥ずかしくない。なのに、本にしようとするのは恥ずかしい。
正直、訳が分からない。
『小説家になろう』に投稿を僕はしている。
ネットの人たちは、純粋に褒めたりしてくれる。
けど、現実は、そうじゃない。
「正直、見せたくない…」
何て言われるか、考えるだけでおぞましい。
あの元文芸部部長に見せたら、どんな冷たいことを言われるか。
元文芸部部長。
学年は2年生。
2年生になると文芸部部員は彼女だけになり、廃部になった。
「若者の読書離れ、悲しいよ」
とか、なんとか、ちょっとだけ部長だった先輩は言っていた。
見せたくない。
けど、悲しませたくはない。
「のらないけど」
翌日の放課後。
2人きりの文芸室。いや、元文芸室か。
「ふむふむ」
先輩は、真面目に読んでいる。
僕の書いたノート1枚分の短い、本当に短い作品を。
初めて感じる、読まれているときの緊張感。
何を相手は思っているのか、何を相手は、どんな風に言ってくるか。
ネットにはない、現実にしかない緊張感。
「うん。読んだよ」
笑顔で元文芸部部長は口にする。
「面白いよ」
「そ、そうですか。よかった」
「けど」
「けど?」
「うーん。遠慮してるっていうか、本気で書いてないっていうか、何か、違うなぁ」
「そうですか…」
ダメ出しは、やっぱり傷つく。ネットと変わらない。
「だからさ、また読ませてよ、放課後、文芸室で」
「え?」
「期待してるよ、図書館のアラタくん。アラタくんは本当は凄いんだから」
僕の戸惑いを気にしないで、ぴょこん、と椅子から立ち上がると、最後に僕を見て、笑みを深めると、出ていった。
「なんで…図書館のことを…」
知っている人はバカにした友人だけで、その人は別の高校に入ったのに。
1人きりになっても、僕はずっと混乱していた。
本当は凄いって言われて、嬉しくもあった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




