世界が終わるとして、何をする?
アレクサンドリア、マレ・ノストルム海に面する港湾都市である。日干し煉瓦の街並みと小島に立つファロスの灯台、交易の中心地として大いに発展してきたこの土地を王国の人たちはこう言う、マレ・ノストルムの真珠と。
「それで、夜まで暇になったと?」
アウシルのシンパの人たちと会う約束、それは夜に港にと言う事で、夜まで暇になってしまった。
「うん、だから……何する?」
何するって、正直観光気分ではないよ。だってセトがどうこうって話もあるし。でも、それはとは別にアイシスの手は震えてる。多分、今何かしないとこの人はどうにかなってしまう。なら、そうだな、少しでも気を紛らわせてやるべきだ。
「まぁ何かするか」
と言うわけで僕らは観光をする事にした。そして向かった先はビーチである。
常夏の砂浜を這う蟹、少し緑の海、燦々の太陽。僕ら以外にも多くの人がいて、泳いだり日光を浴びたりしている。平和だな、そう思った。
それとこの時代に海水浴なんて文化あったっけか、とも思った。
「どう?似合ってる?」
スビアの水着、と言っても現代的な水着ではない。花の模様の付いた薄い布を体に纏うみたいな。でもどちらにせよ、いつもは見えていないような腹のラインが出ていて、なんと言うか、えっちだと思う。
「似合ってる。素敵だ」
「シュン君も意外と筋肉あってびっくりしたよ」
売り言葉に買い言葉だ。でも実際に転生前より筋肉はついている、と思う。だって転生当時、役作りの為にダイエットしてたからね。
「見せ筋だよ、だって君らの方が力強いし」
アイシスが話してくれたが、獣人は成人男性の1.2倍の筋力があるらしい。それに加えて発情期だともっと筋力が上がるんだとか。元々子供が出来にくい種族だからオスを逃さないようにって事みたい。
「それなんか、なんかじゃない?あと何やってるの?それ」
波打ち際の砂を集めて固める。指で形を整えて、その辺に落ちてた木の棒で模様を描いていく。
「ん、シュンやっぱ手先器用じゃんね」
後ろからアイシスの声。
「ありがとう、水着似合ってるよ」
彼女もまた身体のラインがよく出る水着を着ている。スビアが赤色で、アイシスが青色。スビアの白い肌とアイシスの褐色の肌も相まって本当に対比だ。あとは……下品だが胸も対比だと思ってしまった。だってアイシス細いんだ、本当に美しいよ。
「売り言葉に買い言葉だね、本当に思ってんの?」
そんなこんなで話しているうちに砂の城は半分完成していた。ここの砂、よく固まるんだ。
「本当に思ってる。アイシスは綺麗だよ」
多分、あまり心篭って無いように聞こえたと思う。本心でアイシスのことを綺麗だと思っているけど、それはそれとしてこんな時に何してるんだって感情があるんだ。
「ピーちゃん、お口あ〜んだよ」
ピーちゃんに餌をあげるスビア、もう馴染みの光景だ。
「難しい顔してるね、シュン」
「難しい顔、そうだね。多分してる」
尖塔を作りながら眺めるビーチ。カップルがいたり家族連れがいたり、絵に描いたような休日って感じだ。
「なんだろうな、この人たちはセトのことを知らない。だからもし、この人たちがセトのことを知って、それが防ぎ用の無いことだと確信したのなら、この人たちは今みたいにビーチで遊んでるのかなって」
一度は話した事があると思う。もし、明日巨大隕石が落ちてきて世界が滅ぶとしたら、貴方はどうするだろうって。僕の場合は2012年、小学生の時のマヤの大予言だったかな。
「わからない。でも私は多分、世界最後の日には愛する人とゆっくりしていたいと思うからここには来ないな」
「もし仕事があったら君はどうしてた?」
「仕事は行かないかな。給料貰えないし」
「そっか、僕は行っちゃうかもしれない」
12月の21日、だったかな。僕はその日普通に仕事だった。だから世界が終わるんだ、って思いながら送迎車に乗ってCM撮影したよ。つまり、僕は世界が滅亡すると知っても変わらない日常を送る訳だ。
「ここの人たちも、そうなのかもしれない。世界が終わるって知っていても知らずとも、この人たちは今日ビーチに来たのかも」
「それは……どうだろ。俺はやりたい事やるぜって、犯罪をする人とかもいそうじゃない?」
それはそうだろうな。だって罰を受けない訳だし。犯罪をしない理由がない。
「でも、人を傷つけるのは怖いよ。あぁ、だから、何が良いんたいんだろう。世界が終わるとしても皆日常を過ごすんだろうなって。そうだったら、良いなって僕は思うかな。だって僕は、何よりも君たちと過ごす日常が好きだから」
「あぁ、そうか。僕は君たちと過ごす日常が好きなんだ。それは多分、僕の道徳よりも」
その時、ピーちゃんは僕の砂のお城に突っ込んできた。ピーちゃんの小さな身体は砂の城を徹底的に破壊した。まるで怪獣映画のように。
「ふふっ、ははっ」
小さな笑いが溢れた。だって僕バカなんだ、こんな簡単な事に悩んで。
セトのやる事、人類の安楽死。それはある面では道徳的だし、僕自身賛同するかもしれない。でも僕はそれ以上にこの日常が好きだ。だからこの日常が続いてほしいと思う、たとえ不道徳でも。故に僕はセトと戦おう。何より僕は、カペラさんを殺したセトを許せそうにない。
あぁつまり、僕にとって道徳的である事と生きている事は何も関係ないんだ。僕はそう、決着つけた。




