見えない彼女はいつも誰かの傍にいる
こんな経験ってありませんか。
美味しい物は早くなくなることがありますよね。
無くした物がふと見つかることも。
すごく運がいい時とか。
そんな時は彼女の仕業かもしれません。
見えない。触れられない。でも確かにそこにいる。
そんな彼女は今日も誰かの傍で、気まぐれに世界に触れています。
街の中を一人の女の子が歩いている。
学生服に身を包み、金髪の髪を二つに束ねた彼女は、
今日も何かを探している。
周りをキョロキョロしながら歩いているが、誰も見ていない。
「んー、今日はなにしようかな。」
両手を上げて、体を伸ばしながら周りを見渡す。
少し離れた公園の中から男性の声が聞こえる。
「うぉ、このスイーツうっま!」
手にはプラスチックのカップに入った団子を持っている。
「あーっ、あれおいしそう。」
そういってニコニコしながら男性に近づく。
男性は彼女に気づくことなく団子を食べている。
男性の前に立ちカップを確認する。
「ほんとだ!おいしそうだね。」
彼女はキラキラした目でカップに顔を近づけて中身を見つめる。
「んーっ、貰っちゃお!」
彼女はカップに手を伸ばし、中から団子を取って食べる。
口いっぱいに頬張り微笑む。
「んんっ!おいしー。」
じたばたしながら喜んでいる。
男性は次の団子を食べようとカップに手を伸ばすが、カップの中は空。
「あれ、もうなくなっちゃった!?」
男性は自分のカップを眺めて驚く。
彼女は満足そうに歩いていく。
少し先で立ち止まり、男性の方に振り返る。
「おいしいものってね、すぐなくなっちゃうんだよ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながらその場を立ち去る。
「あれー?」
後ろの方で男性が不思議そうにカップを眺めている。
「ふふっ♪」
彼女は上機嫌で歩いていく。
「次はなにしようかなー?」
あたりを見渡しながら歩いていると交差点が見えてきた。
信号の前で立ち止まる。
正面から声が聞こえる。
「あれー、ここにもない、どこー?」
信号の反対側の植え込み付近でしゃがみ込んでいる人がいた。
スーツを着た女性が何かを探している。
「何してるのかな?」
興味を抱いた彼女は、道路を飛び越えて女性の後ろにふわりと着地する。
女性は、植え込みをかき分けて何かを探している。
「どこ、どこに行ったの?私のイヤリング。」
手を土まみれにしながら必死に探している。
「イヤリング…落としたんだ?大事なのかな?」
少し考えて彼女は微笑む。
「探してあげるっ!」
眼を閉じる。そして少したって目を開けて微笑む。
「あった。」
数十メートル先に駆け出す。
走った先には片方のイヤリングが落ちていた。
しゃがみ込んで拾い上げる。
「これだよね!」
指にぶら下げたイヤリングを見てにやりと笑う。
女性の元に駆け寄って、後ろにイヤリングをそっと置く。
しばらくして植え込みを探すのをあきらめた女性が立ち上がる。
「もー、みつからないよ。」
振り返った際に、地面に落ちているイヤリングに気づく。
「あっ、あった!!」
女性はイヤリングを拾い上げて、胸に手を置き微笑む。
「ふふっ、よかったね。霞ちゃんは優しいのです。」
彼女は微笑んでその場を後にする。
少し中心街から離れて歩いていると、コンビニが目に止まる。
「なにか面白いことないかなー?入ってみよー。」
上機嫌でコンビニに入っていく。
店内は空調が効いていて外より涼しい。
「あー、すずしー。」
店内の商品を見ながら回っていると、レジに男性客がいた。
箱に手を入れているようだ。
「なにしてるんだろ?」
近寄って覗き込む。
男性はキャラクター物のクジを引いていた。
「くそーっ、下位賞しか出てない。」
男性はすでに9回クジを引いていた。
カウンターにはG賞と書かれたクジが沢山置かれている。
「ラスト一回!」
男性は箱の中に手を入れて、クジを選んでいる。
「どれだー、どれが当たりだー?」
箱の中から慎重にどれを引くか選んでいる。
「ふーん?」
男性とクジの箱を交互に見る。
にやりと笑う。
「よしっ!当たり出してあげるよ。」
クジに手をかざし、箱の中のクジを一枚男性の手に持たせる。
「これだっ!」
男性客はそのくじを箱の中から引く。
緊張した様子でクジを少しずつめくる。
「どうだー?」
男性がクジを完全に開く。
霞はどや顔で男の喜ぶ顔を待っている。
男性は驚いた様子で手の中のクジを確認する。
「あっ!」
男性の手がめくったクジはA賞と書いてあった。
「どうどう?嬉しいでしょ?」
どや顔で男性を覗き込む。
「くそー、B賞が欲しかったのに。」
A賞のクジをカウンターに置く。
「上位賞1つ引けたから、まぁいいか。」
男性客はクジを眺めながら微妙な表情をしている。
「えっ?」
霞はきょとんした顔をして、男性の手に持つクジと男性の顔を交互に見る。
どや顔が少しずつ歪んでいく。
「むぅーっ!せっかく当ててあげたのにっ!」
頬を膨らまし、少し顔を赤くしながら不満そうにコンビニから出ていく。
「なによ、せっかく一番いいの当ててあげたのに。意味わかんないっ!」
不機嫌そうに足をばたつかせながら怒る。
しばらく怒っていると、動きが落ち着いてきた。
「もういいや、次いこ次!」
機嫌を直して再び中心街に向かって歩き始める。
コンビニを離れてしばらく歩いていくと、
大きな交差点が現れる。
手前に子供が数人、信号待ちをしている。
眺めていると右側から大きな音が響いた。
「んっ?」
右側を向いてみると、トラックが乗用車と接触して道路からはみ出して
スピードに乗ったまま歩道側突っ込んでくる。
「うわぁーっ!!」
信号を待っていた子供たちの叫び声が聞こえる。
トラックは一直線に子供たちの方に向かって進んできており
子供たちはパニックで動けずにいる。
霞は子供たちに向かっているトラックを見つめた。
目を細めて少し不機嫌そうにトラックの方に手をかざす。
その直後、子供たちに向かっていたトラックは、
軌道を変えて子供たちの横を通り過ぎていった。
そのままの勢いで少し先の電信柱にぶつかり、停止した。
「あっ。」
霞が自分の手を見つめた。
「まぁ、いっか。」
手を降ろして子供たちの方を見る。
子供たちは全員無事なようだ。
音を聞きつけた大人たちが一斉に子供たちに駆け寄る。
「大丈夫かっ!?」
子供たちはみんな泣きじゃくっていた。
「こんなこと、奇跡だ。」
大人の一人がそう言ってトラックの通った後を見つめる。
「たまたまだからね?」
そう言い残して去っていく。
しばらくして雨が降ってきた。
歩いている人たちは傘を差し始めた。
「人間ってなんで傘さすんだろ?濡れるの嫌なのかな?」
空を見上げながら呟く。
「これはこれでいいと思うのに…。」
掌で雨を受け止める。
少し考えたあと、雨に濡れながら歩いていく。
徐々に雨と風が強くなってくる。
「あははっ!気持ちいいね!」
手を広げて全身で風と雨を感じながら喜んでいる。
「みんなもやればいいのになぁ。」
微笑みながら両手を広げ、くるくると回りながら歩いていく。
「んっ?」
正面を見てみると電車の駅で人だかりができている。
「何してるの?お祭り!?」
興味津々な霞は人の間をすり抜けて先へ行こうとする。
が、邪魔で前に進めない。
「もう、人多いっ!」
人込みの中を進むのが嫌になり横にそれる。
「いいもーん、霞ちゃんは違う方法でいくから!」
そう呟いて飛び上がり、人の頭上を飛び跳ねながら駅に向かう。
駅構内は更に混雑しており、通れるスペースがない。
「あーっ、こんなに人いるー。」
頬を膨らませて、不機嫌そうに見せる。
「ここから行くもんねー。」
壁の高い所を蹴りながら前に進んでいく。
その後、改札を飛び越えて駅のホームにつくと人であふれていた。
「なにー?ここで何かあるのー?」
浮かびながらホーム内を進んでいく。
ホーム内にアナウンスが流れる。
「現在強風の影響で電車の運転を見合わせております。ご不便をおかけしますが運転再開までしばらくお待ちください。」
「あーっ、電車が止まってるんだねー。」
理由が分かった霞はあたりを見渡す。
ホームには困った顔をした人もいれば、怒った顔をして駅員と話している人もいる。
その中で一人の女性が霞の目に止まる。
「どうしよう…この後大事な予定があるのに。」
彼女はあたふたしながらスマホで何かを確認している。
「困ってる…のかな?」
彼女の顔を覗き込む。
彼女は泣きそうな顔をしていた。
少しの間、彼女の顔を見つめる。
「助けてあげよっか?」
にやりと笑いながら飛び上がり、駅の屋根に飛び移る。
「霞ちゃん、やさしーっ!」
笑いながら空に向かって手を掲げる。
強くなっていた雨風の勢いが少しずつ収まっていく。
ホームの人たちは空を見上げている。
「えへへー、霞ちゃんのおかげだからねーっ♪」
雨風の勢いがどんどん収まっていく。
「あれっ?」
収まりかけていた雨風が再び勢いを増す。
「なんでっ?霞ちゃん止めてるのに。」
意図していない動きに戸惑う。
「私はやってるからね。」
正面から声が聞こえた。
空から視線を降ろすと、そこには空に手をかざしている女性。
長身ですらしとした体形の女性が、深緑色のポニーテールをなびかせて立っていた。
「なに、あんた。」
目を細めてにらみつける。
「ふふっ、こんなところで同種に会えるなんてね。」
彼女は妖艶な顔をしてほほ笑む。
「同種?あんたも霞と同じなの?」
霞はにらみつけたまま問いかける。
「そうよ、あなたは…他に会ったことがないようね。」
笑ったまま彼女は答える。
「で、なんで霞ちゃんの邪魔するの?」
不快感をあらわにしながら問いかける。
「あら、霞っていうのね、あなた。私はサラよ、よろしくね。」
いたずらっぽい顔をしてサラが答える。
「邪魔するの…うざいっ!」
手をサラの方に向ける。付近の空気がサラを襲う。
「あらあら、同種に会うなんて久々なのよ。少し遊びましょうよ?」
ふわりと飛んで霞の攻撃を避ける。
「邪魔されるの…嫌いっ!」
眉間にしわを寄せて両手を広げる。
付近の雨が宙に止まる。
「ふーん。」
サラは笑いながら、同じように両手を広げる。
二人の周りの雨が宙に止まる。
両者が見つめあい、その空間だけ時が止まったかのように雨粒が静止している。
「むかつくっ!」
霞は苛立ちながら両手を前に掲げる。
「ふふふっ。」
笑いながらサラも同じタイミングで掲げる。
両者の間に止まっていた雨が、鋭く相手に向かって飛んでいく。
宙で雨粒同士がぶつかり合う。
雨粒の弾ける音が響き渡る。
「なんだ?駅の上がさわがしいな。」
ホームにいる人たちが音を聞いてざわつく。
雨の中、駅の屋根で二人がたたずむ。
霞はサラをにらみつけている。
「あらあら、怒ってるの?」
霞の表情を見て笑う。
「怒ってるからね…。」
霞は空に向かって手を掲げる。
「そう?」
サラも合わせるように同じ動作をする。
空に暗雲が立ち込め、雷の音が響き始める。
雷が二人に向かってそれぞれ落ちてくる。
霞は飛んで避ける。サラは横にステップして雷をかわす。
二人は手を掲げたまま、屋根を走りながら相手に向かって雷を落としあう。
駅の屋根から飛び出し、そのままビルを飛び移り移動していく。
「邪魔するなっ!」
雷を避けつつ、怒鳴りつける。
「ふふっ、いいじゃない?遊びましょう。」
華麗に雷を避けつつ、楽しそうに飛び回る。
「こんなのはどうかしら?」
サラが横に移動すると、後ろから大きな水の塊が飛んでくる。
「!?」
死角からの攻撃に反応できず、直撃し、吹き飛ぶ。
ビルの壁に激突し、跳ね返る。
ぶつかったビルの外壁が崩れ落ちる。
「なんだっ!?外壁の破片が落ちてきてるぞ!」
下にいた通行人たちが驚く。
「風のせいかな?」
「っ!!」
霞は体勢を立て直しビルの外壁についた看板の上に着地する。
「痛ったいなーっ!!」
体を押さえながら、向かいのビルの上に立っているサラをにらみつける。
「ふふっ、いい当たり方だったわよ?」
腰に手をあて、いたずらっぽく微笑む。
霞が足に力を込めて勢いよく飛び上がる。
反動で足場にしていた看板の金具が外れ、地面に落下する。
ビルの下から人々の悲鳴が聞こえる。
「看板が落ちてきたーっ!!」
「あらあら、大変、看板落ちちゃったわよ?」
落ちた看板を見ながら笑うように言う。
「まぁ、誰も私たち見えないからわかんないだろうけどね?」
そんなことなど耳に入っていないように霞はサラに飛びかかる。
「うざいって!!」
サラはふわりと飛び上がり回避する。
「避けるなっ!」
避けられたことに腹をたて怒る。
「ふふふっ、あなたって直線的すぎるのよ。」
サラはふわりと隣のビルに着地する。
「ほんとむかつくっ!」
睨みつけながら手をかざす。
風が霞の周りに集まる。
「へぇ、器用なのね。」
サラが口に手を当ててほほ笑む。
「うるっさいっ!」
集めた風をサラに向ける。
「ふふっ。」
サラはするりとかわす。
かわされた風はビルの間を抜けていく。
ガラスの割れる音が鳴り響く。
音がしたビルの間を覗き込みサラが言う。
「ガラス壊しちゃってるわよ?」
「知らないっ!」
そういって飛び上がりながら雨粒をぶつける。
サラはかわしながら応戦する。
霞がビルを飛び移りながら移動する。
「どこ行くのかしらね?」
後を追うようについていく。
そのまま雨粒を使いながら攻防していると駅の上に戻ってきた。
サラが周りを見渡す。
「戻ってきちゃったわね。」
「はぁ、はぁ。」
霞は息が切れてきている。
霞の様子を見て呟く。
「だいぶ息が上がっているわね?」
「ぜんぜん?平気だしっ!」
少しずつ息を整える。
「そうかしら?でも、そろそろ…!?」
手を空に掲げたサラが異変に気づく。
「あなた、まさか…。」
さっきまで強かった雨風が弱くなっている。
駅構内からアナウンスが響いてくる。
「ただいまより電車の運転を再開します。」
「…えへへっ。」
霞はしてやったといわんばかりの顔をしてサラを見る。
「私と戦闘中に弱め続けていたなんて…。」
驚きを隠せない様子で霞をにらむ。
「まだやるの?」
にやりと笑ってサラを見て尋ねる。
「…はぁ。興がそがれちゃったわ。」
手を広げて肩を上下に揺らし、呆れた顔をする。
サラは背中を向けて歩き出す。
振り返り霞の方を見つめる。
「今日はここまでね。また会いましょう。」
そう言い残してふわりと飛んでいった。
「二度と来るなーっ!!」
サラの飛んで行った方向にベロを出す。
「まぁいいや。さっきのお姉さんは…。」
ホームの方に顔を向け、先ほど困っていた女性を探す。
「よかった。間に合う!」
そういって胸に手を当てて喜んでいる姿を見つけた。
「ふふんっ♪」
満足そうに笑って電車の上に飛び乗る。
「どこ行くんだろうねー?大事な用事って。」
首をかしげながらニコニコしている。
電車が動き出す。
電車の上で風を感じながら進んでいく。
「電車ってはやーいっ!」
しばらくして止まった駅で女性が下りる。
「あっ、降りた!」
女性の後をつけるように電車から飛び降りる。
「どこ行くのかなー?」
ニコニコしながら女性の後をついていく。
駅を出て少し歩いた先のホテルに入っていく。
「ここー?」
ホテルのロビーで女性が男性に駆け寄る。
「あーっ、あの人に会いに来たんだ。」
男性は女性を抱きしめて女性に何かを言っている。
女性はその言葉を聞いて手で口を押えて涙を流している。
「うーん、なんかよくわからないけどよかったね!」
にっこり笑ってホテルから出ていく。
「今日は疲れちゃったなー。帰って寝よっ!」
霞は駅に向かって歩いて行った。
翌日――
霞が街を歩いている。
周りを見渡して何かを探している。
「あっ!あれおいしそーっ!」
ソフトクリーム屋さんの屋台を見つけて近寄る。
親子がソフトクリームを食べているのを見つける。
子供がおいしそうに食べている姿を見つめる。
「一口持っちゃうからねーっ!」
ソフトクリームを頬張る。
「んんーっ!甘くておいしーっ!」
頬に手を当てて飛び上がる。
子供が自分の手に持つソフトクリームを見る。
「ママー。僕のなくなっちゃったー。」
母親に上の部分がなくなったソフトクリームを見せる。
「あらあら、もう食べちゃったの?ママの少しあげるわね。」
そういって母親が子供にスプーンで自分のソフトクリームを分ける。
「ふふんっ♪」
その姿を見つめてほほ笑みながら歩いていく。
「人間ってやっぱり面白いねーっ。」
周りの人々を見ながら歩いていく。
「今日は何して遊ぼうかなー?」
腕を後ろで組んで空を見上げる。
彼女のことを人は見られない。
触れることもできない。
人から認識されることはないが確かにそこにいる。
彼女からは世界に触れることが出来る。
一方通行の干渉ができるのだ。
そんな彼女は今日も誰かの傍にいる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品が、読んでいただいた方の心に何かが残れば嬉しいです。




