王太子ロイドは行く
王家紋付の馬車は車輪をけたたましく鳴らし、道中を急いでいた。何をそんなに急いでいるのか、乗っている本人であるロイドも分からなかった。
ロイドはこの国の第一王子として生を受けた。国王譲りの少し癖っ毛のある金髪を伸ばし、ひとくくりにしている。母ゆずりの勝気な顔つきと、深紅の瞳。気位の高いその姿に周囲は、次期国王も安泰であると囃し立てた。
その王子が、今こうして王都を離れ、馬車に揺られてあちこちぶつけて顔色を悪くしている。
王都の綺麗な道から、郊外の石畳へと変わり、それがこんどは山道へと入っていく。山中ということもあり、気温がどんどん下がっていた。
向かっているのは、国の北部マリトルト領。広大な領地ではあるが人間よりも魔物が多いといわれいる。
ガタッ
「ぉわっ…!」
マリトルト領行きの王命が下ったのは、たった2週間と3日前である。
このような遠方の長期にわたる公務は、通常何ヶ月も前に調整や計画が組まれて当たるものだ。なんと公務期間は半年。ロイドはため息をついた。
それを指示した自身の父、国王に不信感を抱いていた。
(ここ最近の父上の様子はおかしい。)
「…ロイド様、次の町で1泊ですが…、その前に馬車を止めて休憩いたしますか?」
「…いや、いいよ。街についてからでいい。視察も兼ねているからね。」
父が同行させた父の側近であるライザーが話す。
城では「はい」か「かしこまりました」しか話さないこの側近が、初めて会話らしい会話をしたのに驚きながら返答をする。
とにかく、一刻も早く街について休みたいのが本音であった。
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「第一王子、ロイドよ。」
「はい、陛下。」
あらたまった場で、父上に呼ばれるのは何度もあったことだが、その日は特に様子が違っていた。
顔色が悪いのはいつものことだが、いつも以上に思い悩んでいる様子だった。苦々しい顔で、いや、心配そうな顔で…いや、やっぱり苦々しい顔をしている。
「父上、この謁見室は広くて寒いのでは…」
「…そうだな、少し、寒いかもしれない。」
「では…」
「ロイドよ。お前を、そろそろ…王太子として正式に据えるつもりでいる。」
「…!」
思った以上に大事な話をしてくる。
びっくりしすぎて、すぐに返答ができずにロイドは固まってしまった。
「もちろん、まだまだ学ぶべきことがある。私は…お前に、国王になるべく、たくさんのものを見て学ぶ機会を与えたい。」
「陛下。あの…」
「何か不満があるか?」
「私はまだ17歳です。陛下のおっしゃる通り、見て学ぶものの多い、未熟者にございます。また、王太子に据える年齢は例をみても早くて18歳かと…」
「……。…そうだな。」
広くて寒い謁見室が、父の沈黙で、より冷え込んだように思えた。
「お前の弟たちも優秀だ。とても未来は明るい。が、余計な諍いを生まないように、一応な。早めに後継者がお前であると示しておきたいのだ。また、王太子任命の式典を執り行い次第、公務に励んでほしいと思っている。」
「もちろん公務は王族の責務ですので…。」
「 リリトルは学位を取れるよう、こちらで手続きをとっておく。3ヶ月後には卒業し、式典を執り行う。」
(なんでまたそんな急に!?)
馬車の中で思い出しても、同じように心の中で叫んでいた。
急すぎるのだ。その後、在籍していたリリトル学園を繰上げ卒業し、本当に3ヶ月後式典を行った。2週間後には公務だと言われ北部に視察してくるようすっとばされたのである。
『北部の魔境に、怪しい動きがある。近隣諸国との緊張がある今、北部に人を割くことができない。お前が行くことで、王家が目を光らせていることを分からせる必要がある。』
確かに、北部の魔物の出没頻度はここ2、3年増加傾向にあった。
半年でできることを見つけて解決しろ、ということだろうと自分を理解させたのだった。
(それにしたって…これは扱いとしてどうなんだ。)
ロイドはガタガタと揺れる馬車の中で、頭をぶつけないよう座り直した。




