口の悪い援軍
その紅い光は、蒼白く輝く天魔夜光剣のオーラを瞬時に塗りつぶした。閃光が収束すると、ボスの手には1mを超える巨大な棍棒が現れる。それは黒曜石と溶岩を組み合わせたような無骨な形状で、表面からは常に赤黒い炎の力が噴き出していた。地下室の湿気は一瞬で蒸発し、空気が焦げ付くような熱気に満たされる。
「消坊が持つおもちゃと、本物の力を見せてやる!」
ボスは雄叫びと共に邪神獄炎棍を頭上でわずかに旋回させ、その力を地面へと叩きつけようとした。狭い空間で回避の余地はない。葵は即座に龍理を天魔夜光剣に集中させ、防御と加速を兼ねた『龍理の渦』を形成した。
ゴォォン!
棍棒と渦が激突し、激しい力の爆発が起こる。蒼い渦は炎の衝撃を受け止めきれず、葵の身体は後方へと大きく吹き飛ばされた。コンテナに叩きつけられ、皮膚は熱波で焼けるように痛む。
(くそっ! 厄介な一撃だぜ。訓練とはまるで重さが違う!)
葵は激しく咳き込みながら、天魔夜光剣を床に突き立てて踏みとどまる。
「面白い顔をするな。まだ戦う気か、w世代!」
ボスは勝利を確信した笑みを浮かべ、再び邪神獄炎棍を構える。棍棒の先端から凝縮された炎の塊が、葵めがけてゆっくりと、しかし確実に放たれた。初陣の緊張と消耗で、葵の思考は一瞬遅れる。この狭い空間では、避けることも防御も不可能に近い。
「負けるかよ、だぜ!」
葵が龍理を絞り出して最後の反撃に賭けようとした、その時だった。
――キィィン。
甲高い金属音と共に、地下室の熱気が一瞬で凍り付いた。炎の塊とボスの巨体が、一筋の細く、それでいて深奥の蒼さを帯びた**氷龍の『龍理』**によって、真っ二つに分断されたのだ。
炎の塊は、接触した瞬間から表面が白く凍り付き、その内部の炎の力の活動が急停止する。まるで時間を止められたかのように動きを止めた炎の塊は、やがて音もなく地下室の床に落下し、砕け散った。
「馬鹿なっ、誰だ!」
ボスが驚愕に目を見開き、声が震える。
コンテナの影から、一人の少年が静かに姿を現した。細身の体に、黒髪が夜闇に溶け込んでいる。彼は手に、白銀の細剣を携えていた。その剣は、まるで氷の刃で造られたかのように、冷たい光を放っている。
「僕だ」
少年の声は感情の起伏がなく、訓練報告書を読むように淡々としている。
「君の戦闘は、戦術的には優れていただろう。だが、この状況で『応龍』の龍理を正面衝突に使うのは、あまりにも効率が悪い。単純な出力で勝てるわけがないだろう」
速水徳彦は、その白銀の細剣の切っ先を、ボスの喉元に正確に向けた。
徳彦は、細剣を静かに振るった。シュトゥルム・ウント・ドラングから放たれた氷龍の龍理は、地下室を這い、ボスの巨体を急速に冷却した。ボスの動きは凍りつき、驚愕の表情のまま薄氷が張り付く。
徳彦は剣を一閃。ボスの龍の力の回路の脆弱な箇所を正確に突き刺した。ボスは声も上げられず、邪神獄炎棍は光を失って黒曜石のリングへと戻る。
「ちくしょう、ノリ! なんでお前がここにいるんだよ、だぜ! 美味しいところだけ持っていきやがって!」
葵は激しく咳き込みながら、天魔夜光剣を床から引き抜き、怒りに任せて叫んだ。
「無駄な質問だ。君の任務が危ういと判断し、介入したまでだ。それに、君の判断速度は遅すぎる。効率が悪い」
徳彦は細剣をリストガードに戻し、冷ややかに答えた。
「うるさい! 余計なお世話だろ! 次は絶対にお前に借りなんか作ってやらないんだぜ!」
葵は怒りに震えた。
「問題はない。任務は完了だ。君の感情的な反応は、いつものことだろう」
徳彦は淡々と言い放ち、葵の感情を置き去りにしたまま、違法龍の力の残滓回収作業に取り掛かった。




