これが始まり
零和の世――それは、異世界たる仙界から飛来した『龍』の力が、十人にひとりの割合で人々に宿り、『宝貝』と呼ばれる不思議な道具や、人々の体内を巡る気『龍理』として深く根を下ろした世界である。
しかし、その力は常に平等に分配されるわけではない。富と権力、そして憎悪に駆られた者たち――テロリスト集団の手にも、龍の力は容赦なく渡っていた。
とはいえ、零和の世に産まれた子供たちの中には、『w世代』と呼ばれる、宝貝と龍理の双方を自在に操る者たちが現れた。彼らの自衛を目的とし、銃刀法をはじめとする法制が改めて整備されることとなる。
これこそが、W世代によるバウンティハンター制度の始まりである。
赤毛の日向葵は、雑居ビルが密集する一画の薄暗い路地奥に立っていた。湿った濃い霧が地面を這い、夜の帳と相まって、路地は深海のように深く沈んでいる。建物の隙間から漏れるネオンの光も、濃霧に拡散され、石畳にぼんやりとした光のシミのように散らばるばかりだ。このビルの地下には、テロリスト集団が潜伏している。これは彼がバウンティハンターとして踏み出す、避けては通れない最初の戦いだった。齢十二歳のコドモには重すぎる使命だが、その細身の内に、決意の炎が激しく燃え上がっていた。
「閃け我が宝貝――天魔夜光剣!」
葵が革のリストガードに触れると、それを精神的なスイッチにして、龍の力が鮮烈に解放された。その手甲からほとばしった蒼の光は、即座に凝縮。瞬く間に葵の身長ほどもある、漆黒の刀剣へと姿を変えた。
その刀身は、周囲の闇をすべて吸い込むかのように見えたが、同時に龍の波動が鮮烈な蒼白いオーラとなって表面を覆い、この路地の唯一の光源となった。
その柄を握りしめた葵の全身に、龍の力が駆け巡る。彼は剣の切っ先を、迷いなく地下へと向けた。




