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第17話

 始まりは、宇宙の誕生からだった。


『宇宙は高温で密度の高い、小さな状態で生まれ、急速に膨張を始めました。この出来事がビッグバンです。膨張して少しずつ冷えていく中で、宇宙の基礎となる物質とともに、宇宙を支配する四つの力がつくられたと考えられています――』


 真っ暗な視界に少しずつ広がってく煙のようなもの。


 あれが星間物質のガスなのかな。


 そして小さなガスたちが集まり、次第に大きくなっていく。

 太陽ができ、惑星が誕生する。


 視界いっぱいに広がる宇宙空間と、何十億年という時の流れが繰り広げられている。


 それから太陽系だけでなく、たくさんの銀河、恒星がまるで本物の宇宙空間のように映し出される。


 以前先輩が、宇宙からすると自分はちっぽけな存在なんだ、と言っていた気持ちがわかる気がする。


 ちらりと隣の先輩を見ると、穏やかな表情で、じっと映し出される星空を眺めていた。

 本当に宇宙が好きなんだな。


 壮大で、圧巻で、あっという間の四十分間だった。


 リクライニングを戻し、先輩は私のハンカチを綺麗にたたむとありがとう、と差し出してくる。

 

「ゆっくり見られましたか?」

「幸村さんのおかげで」


 柔らかく微笑む先輩に、一緒に来られて良かったと思った。

 誘ってもらえて嬉しかった。

 先輩の好きなこと、好きなもの、もっとたくさん知りたくなった。


 博物館を出て、並んで歩く。


「今日は誘ってくれてありがとうございました」

「僕の趣味に付き合わせてしまったけど、楽しめた?」

「はい、とっても」

「次は幸村さんの行きたいところへ行こう」


 私の行きたいところかあ。

 どこがいいだろう。


 映画を観るのは好きだけど、もう映画館はもうやめようと話したし、食べ歩きとかは先輩あまり好きじゃないかな。

 何か食べるならお店の中でゆっくり食べたいよね。


 悩んでいると先輩がフッと笑う。


「今すぐ決めなくていいよ。また考えておいて」

「いくつか案を考えておくので、一緒に決めてくださいね」


 私の行きたいところが、先輩にとって負担になる場所だといけない。

 映画館のときのように失敗しないためにも、一緒に決めてもらった方がいいよね。


「そういえば、幸村さんは、いつもハンカチ二枚持ってるの?」

「え……いや、いつもというわけではないです」

「だと思った。僕と出かけるから準備いいのかなって」


 さり気なく気遣ったつもりだったけど、先輩にはバレているようだ。


「大学の頃からそうだったよね。何も言っていないのに、そっと必要なものを差し出してくれる」

「そうですか?」

「覚えてる? サークルの合宿のとき、みんな合宿所に置いてある食器を使ってるのに、幸村さんは紙皿と紙コップ持ってきてたよね」


 覚えている。

 初めてのサークルでの合宿で、大学が所有している山の合宿所へ行ったときのこと。

 食器は調理室に揃っているので準備しなくていいと言われていた。

 けれど、足らなくならないかなとか、紙だと名前が書けるから誰の飲みかけかわかっていいかなとか、いろいろ考えた結果、使うかはわからないけれど、とりあえず持っていくことにした。


 先輩は少し古びた食器が嫌だったらしく、全て紙皿、紙コップを使っていて、持ってきて良かったと思った。


「でも、よく私が持ってきたってわかりましたね」


 何も言わず、テーブルに置いておいただけなのに。


「あの頃から幸村さんのこと気になってよく目で追ってたんだよね」

「え、そうだったんですか? 知りませんでした……」


 合宿のときはまだ先輩のことを好きだと自覚する前で、あまり気にしていなかったな。


「その時に、幸村さんは口数は少ないけど、たくさんのことを考えて、周りを気遣って、入念に準備をするタイプなんだなって思ったんだよね」

「私、思っていることを上手く言葉にできないんです。これしてもいいかな、これって聞いたら失礼かな、面倒じゃないかなって考えちゃって。だから、自分で解決するために余計な準備とかしちゃうんですよね」


 合宿のときも、食器はあるからいらないって言われたのに、わざわざ紙皿持っていくか聞くのは変かなとか、聞いてもいらないって言われるなら聞かない方がいいかなとか、うじうじ考えた結果だった。


「余計なことなんかじゃないよ。僕にはそれがすごく居心地がよくて、ありがたくて、再会してからも変わっていなくて嬉しかった」


 そんなこと思ってくれてたんだ。


 私はいつも頭の中でうじうじ考えてばかりで、意見をはっきり言えない。

 だから、何かあったときのための保険としての準備をしている。


 先輩の家に行ったときも着替えを持っていって、準備いいねと指摘されて恥ずかしくなったけれど、そういうことじゃなかったのかも。


 けれど、先輩は少し困った顔をして話を続ける。


「だからって、気を遣いすぎるのはだめだからね。前にも言ったけど、僕たち付き合ってるんだから」

「わかりました」


 思っていること全部は口にできないし、やっぱり必要なことはしたいと思う。

 でも、先輩の言う通りもっと気を遣わずにいろいろ聞いてみてもいいのかもしれないな。

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