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第16話

 先輩と、宇宙博覧会にやってきた。


 チケットを買い、中に入る。

 

 入った瞬間から、薄暗い空間に小さく散りばめられた光の粒たちに目を奪われる。


 今回の宇宙博のテーマが『太陽系の誕生』だった。

 以前先輩と宇宙の果ての話をしたときによくわかっていなかったので、少し予習をしてきている。


「銀河の始まりはガスの集まりだったんですよね」

「よく知ってるね」

「少しだけ勉強してきたんです。難しいですけど、奥が深くて面白いです」


 中を進み、展示を見ながらアナウンスを聞く。


 『約四十六億年前の天の川銀河には、星間物質のガスやちりがただよっていました。何かのきっかけでガスに濃い部分ができ、その重力で周りのガス引きよせられ、中心に集まったガスから太陽のもととなる原始太陽ができました――』


 太陽も地球も他の惑星も、全部ガスから生まれたんだよね。

 一概にガスといっても、私が思っているようなガスではないんだろうけど。


 その後も、太陽や惑星の誕生が順を追って説明され、少しずつ明るい空間へと進んでいった。


 先輩はどの展示も興味深そうに見て、アナウンスも真剣に聞いていた。


 すると、何かを思い出したように私に顔を向ける。


「ねえ、うちの社訓知ってる?」

「たしか、宇宙より広い想像力と創造力を、ですよね」

「僕、社訓が気に入ってうちの会社受けたんだよね。面接でも家電のことじゃなくて宇宙について話したんだよ。まさか受かるとは思わなかったな」

「そうだったんですね。面白い裏話を聞けました」


 先輩が宇宙について語っている様子が目に浮かぶ。

 冷静で落ち着いているのに、どこか熱意のある、そんな姿が。


 私は一生懸命、愛用している家電の話をしたな。

 まさか就職先で再会するなんて思っていなかった。


「ねえあそこ、写真撮っていいみたいだよ」


 先輩が指さす先には月面探査車の実物大模型があった。

 何組か並んで写真を撮っている。


「私たちも撮りましょうか」


 先輩がこんなふうにはしゃいでいるのは初めて見たな。

 それに、一緒に写真を撮ることも始めてだ。


 サークルでみんなと写っているのは何度かあるけれど、二人でというのは今までなかった。


 順番が来て後ろに並んでいる人に撮ってもらい、お礼を言って、交代する。

 少し離れたところで写真を確認すると、二人とも目をつむっていた。


「二人して変な顔になってますね」

「これはこれで面白いよ。探査車はカッコイイからよしとしよう」


 案外ポジティブな先輩に思わず笑ってしまった。


 それから併設しているパン屋さんを見つけた。


 宇宙博覧会期間限定メニューがあるようで、食べてみることにした。

 私は月のクロワッサン、先輩は木星のメロンパンを買い、テラスに出る。


 先輩はハンカチを取り出すと広げてベンチに敷いて座る。

 私はそのまま座った。


「このクロワッサン、表面の砂糖がとけて月のクレーターみたいになってます」

「メロンパンも大赤斑の模様があるよ」

「大赤斑? ってなんですか?」

「木星にある高気圧性の巨大な渦だよ。地球の二、三個分の大きさもあるんだ」

「そんなに大きな渦……飲み込まれたらひとたまりもないですね」

「幸村さんは面白いこと考えるね」


 飲み込まれるなんて、考えが子どもっぽかっただろうか。

 でも、先輩は楽しそうに笑ってくれたので、私も自然と笑顔になる。


 パンは表面がサクサク、中がフワフワでとても美味しかった。

 

 火星のカレーパンも買えば良かったなという私に、先輩は最後に買って帰ろうと言ってくれた。


 パンを食べた後はまた中へ入り、博物館の中を見て回る。


 そして一通り展示を見終わった一番奥、気になるものを見つけた。


「ドームシアター……」

「入ってみる?」


 ちょうど次の上映時間が始まるタイミングだった。

 

 でも、映画館でのことがある。

 今日は先輩、フードの付いた服を着ていないし、元々入るつもりはなかったはず。

 見てみたいけれど、いいのだろうか。


「先輩は、入りたいですか?」

「興味はあるかな。幸村さんも見たいなら」

「私は……見てみたいです」

「じゃあ入ろうか」


 無理していないだろうかと気になりながらも、先輩はシアターの中へと入っていく。

 

 真ん中に投影機があり、それを囲むようにリクライニングの椅子が並んでいる。

 私たちは一番外側の席に座ることにした。


 先輩はそのままスッと座ったので、私も隣に座る。


 ここは映画館みたいに飲食はしないし、大丈夫なのかなと思っていたけれど、先輩の様子がどこかおかしい。

 なんだか体に力が入っている。

 よく見ると、頭が少し浮いていた。


 え、その体勢で四十分間いるわけじゃないよね?

 

 前みたいにハンカチとか敷かないのかな?

 ベンチに座るときには敷いていたのに。


 もしかして、外のベンチで使ったハンカチをここで使うのをためらっているのだろうか。


 私は自分のカバンからハンカチを取り出した。


「先輩、よかったらこれ使ってください」

「え、でも……」

「これ予備で持ってきてるやつでまだ使っていないので安心してください。あ、そもそも私のは嫌ですかね……」

「そんなことないよ。ありがとう、借りてもいい?」

「もちろんです」


 先輩はハンカチを受け取ると広げ、頭の下に敷いた。

 そしてゆっくりと体の力を抜いた。


 ハンカチ、二枚持ってきていて良かった。

 少しでも先輩の役に立てただろうか。


 他にもアルコールティッシュと紙石鹸、ビニール袋を持ってきている。

 先輩とおでかけする上で、必要になることもあるかもしれないから。

 

 そうしている間に上映が始まった。

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