表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/34

第15話

「先輩、本当にすみませんでした」

「幸村さんは悪くないでしょ。謝らなくていいよ」

「でも、私が呼ばなければご迷惑をおかけすることもありませんでしたし……」

「僕が行くって決めたんだから。少しでも一緒にいたいと思って」


 帰り道、先輩に送ってもらいながらもう一度謝罪する。

 一緒に帰りたいなと思って来てもらったけど、まさかあんなことになるとは思わず、本当に申し訳ないことをした。


 けれども先輩は決して私を責めるようなことは言わない。


「私も、先輩と一緒にいられて嬉しいです」

「ところでさ、なんでそんなに離れてるの?」

「えっと……さっき気付いたんですけど、袖が少し汚れちゃってまして……」


 きっと、片付けているときに汚れてしまったんだろう。

 袖をちゃんと捲ってからすればよかった。


 ああそうだ。袖を捲っておこう。


 私は汚れたところを隠すように袖をクルクルと捲った。


「幸村さん、ごめんね」

「え? なんで先輩が謝るんですか?」

「気を遣わせてしまってるなと思って」

「気は、遣いますけど……前に、私に言ってくれましたよね。嫌な思いはして欲しくないって。私も、同じです。先輩に嫌な思いはして欲しくないので、できる限りの気遣いはしたいんです。できていないことも多いですが……」


 どれだけ考えて行動しても、間違ってしまうこともある。

 今回も迎えを頼まなければ、迷惑をかけることもなかったのに。


 それでもできるだけ、正しい方を選べるように努力したいと思っている。


「幸村さんは、真面目だよね」

「そうですか?」

「誰に対しても真摯に向き合ってる。さっきの佐久間くんに対してもね。それが良いところだと思うよ」


 良いところだと言ってもらえて嬉しい。

 でも、自分では悪いところでもあると思っている。

 うじうじ悩んでしまうから。

 考えて行動して、それが間違ってしまったときに落ち込んでしまうから。


 最近、そんなことばかりだ。

 

 先輩は少しだけ私に近づき、拗ねたような表情になる。


「さっきのことより、飲み会、佐久間くんと二人だったことのほうが、なんか妬ける」

「あ、すみません! そうですよね。男の人と二人で飲むなんて。みんなが来ると思ってたんですけど結局来なくて……」

「まあ、妬けるけど、仕方ないしね」

「本当にすみませんでした」


 申し訳なくて項垂れていたら、先輩は私を見てフッと笑う。


「連絡したとき、幸村さんなら遠慮して迎えにこなくていいって言うと思ったんだ。頼ってもらえて嬉しいよ」

「そう言ってもらえて良かったです」


 そしてもう少しだけ近くに寄って、並んで歩いた。



 ◇ ◇ ◇



 休みが明けた月曜日、佐久間くんからメッセージが届いた。


『松永さんを連れてラウンジに来て』と。


 金曜日のことだろうなと思いながら、先輩に伝えて一緒にラウンジへと行く。


 ラウンジに着くと、佐久間くんがピタッと足を揃え深々と頭を下げてきた。


「その節は本当に申し訳ありませんでした」

「わざわざ改めて言わなくてもよかったのに」

「松永さんも仕事終わりにたまたま鉢合わせただけなのに、ご迷惑をおかけしました!」

「もう終わったことだし、僕は気にしてないから」

「それでは俺の気が収まらないので。これはお詫びの品です」


 ひどくかしこまって、私には紙袋を、先輩には小さな封筒を差し出してくる。


「これは、何?」

「幸村にはフランボンのチョコレートと、松永さんは何がいいかわからなかったから、コーヒーショップのギフト券を」

「え! フランボンのチョコ? 並んだの?」


 人気のショコラティエで、ギフトボックスは全て午前中に売り切れると話題のお店だ。

 会社の近くにあり、入社した頃から一度食べてみたいねと同期たちと話していた。


「はい。昨日のあさイチから並んでゲットしました」

「すっごく嬉しい。わざわざありがとう。というかいつまでそんなにかしこまってるの?」

「いや、これくらいしないと俺の失態は埋まらないから。むしろ足りないくらい。松永さんも、コーヒー券使ってくださいね」

「うん。ありがとう」


 佐久間くんはじゃあ、というとまた頭を下げて戻っていった。


「律儀なやつなんだね」

「根は真面目でいいやつなんですよ。この前はよほど仕事が行き詰ってるのか、お酒で誤魔化してる感じがして。少し心配です」

「仕方ないよ。忙しい部署だから」


 まあ、私には話を聞くくらいしかできないし、あとは本人に頑張ってもらうしかない。


「戻りましょうか」

「そうだね。幸村さん、チョコレート好きなの?」

「はい。甘いものが好きなんです。コンビニスイーツとかもよく買います」

「そっか、覚えとく。あとこれさ、一緒に行かない?」


 さっき佐久間くんから貰ったコーヒー券を見せながら、先輩が言う。


「いいんですか?」

「うん。このカフェ近くだし、昼休みにさっとお弁当食べてから行ってみようか」


 そしてお昼休み、約束通りお弁当を食べた後、カフェへとやって来た。

 

 先輩はアイスコーヒー、私はカフェオレを買って席に座る。


「先輩がもらったギフト券なのに私も買ってもらってありがとうございます」

「僕は送っていっただけだしね。お礼されるようなことはしてないから」

「そんなことないですよ。私もどうしようかと思っていたので本当に助かりました」


 飲み会の帰りに迎えに来てもらうなんて、彼氏っぽいなと浮かれたりもしていた。


「最近忙しくてどこにも行けてなかったから、ちょっとしたデートみたいだね」

「それ、私も思ってました」


 仕事のお昼休みにこうして会社の外で二人でコーヒーを飲む。

 少しの背徳感のようなものもあって、ドキドキする。

 

「次の休み、よかったら出かけない?」

「いいんですか?」

「幸村さん興味あるかわからないんだけど、宇宙博に行きたいと思ってて、一緒にどう?」

「行きます!」


 映画館デートで失敗してしまったから、どこかに誘うのを躊躇していた。

 先輩から誘ってもらえて嬉しい。


 週末が楽しみだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ