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第13話

「幸村ー!」

「あ、佐久間くん。久しぶりだね」


 備品庫からコピー用紙を取りに行き、経理部へ戻ろうと廊下を歩いていると、同期の佐久間くんとばったり会った。

 新人研修で同じ班だったことで、仲良くなった。


 彼は企画開発部に配属され、いつも忙しいとグループチャットで嘆いている。


「ちょうど経理部行こうと思ってたんだよ。これ」

「経費申請ね。預かるよ」

「でもそれ重そうだし自分で持ってくわ。てか、それを俺が持つよ」


 確かに五百枚入りコピー用紙が五束入った段ボール箱はけっこう重い。

 けど、関係ない佐久間くんに持たせるのは申し訳ない。


「いいよ。大丈夫だから」


 大丈夫と言ったけれど、佐久間くんは私の腕からコピー用紙の箱を取り、代わりに書類を渡してきた。


「行こうか」

「……ありがとう」


 そのまま並んで経理部へと向かう。


 佐久間くんて、こういうところあるんだよな。

 ちょっと強引だけど、優しくて、人のために行動する。


「そうだ、後でメッセージ送ろうと思ってたんだけど、今日仕事終わったら同期で飲みに行こうって話してるんだ。幸村は行ける?」


 同期会か。

 研修中は何度かみんなで飲みに行っていたけど、配属されてからはなかったな。

 今日は先輩との約束もないし、久しぶりにみんなにも会いたい。


「うん。私も参加する」

「おっけ! じゃあ、終わったらいつもの居酒屋で」

「わかった」


 いつもの居酒屋とは、研修期間中によく行っていたところだ。

 この感じ、久しぶりで楽しみだな。


 歩いていると、前から日高さんが歩いてきた。

 私はペコっと頭を下げる。

 日高さんは私に気付くとひらひらと手を振り、通り過ぎていった。


「日高さんじゃん!」

「知ってるの?」

「あの人、社内一美人だって有名だぜ? それなのに誰にもなびかない高嶺の存在!」


 そうなんだ。知らなかった。

 確かに日高さんは美人だし、スタイルもよくて綺麗な人だ。

 モテるのも頷ける。


 誰にもなびかないというのは、先輩のことが好きだからだろうか。


「幸村は知り合いなの?」

「え? 知り合いというか、同じフロアだし私の指導係の先輩と同期で仲が良くて」

「ああ、松永さんだっけ。あの人もイケメンだよな。クールな感じで。お似合いの二人って感じ」


 お似合いの二人……。

 傍から見ると、そうかもしれない。

 でも、彼女は私なんだけどな。


「佐久間くんも、日高さんみたいな人がタイプなの?」

「え、いや。俺は美人系よりどっちかというと可愛い系の方が好きというか、親しみやすい感じが好きというか……」


 なぜか一生懸命好みを語る佐久間くんに思わず笑みがこぼれる。

 可愛い系の好きな子でもいるのかな。


 そうしている間に、経理部についた。


 コピー用紙を置いてもらい、お礼を言う。


「ありがとう。書類、申請出しとくね」

「よろしく。また仕事終わりに!」


 佐久間くんはじゃあ、と手を振り、戻っていった。


 私はコピー機に紙を補充し、残りは棚に仕舞ってデスクに戻る。


 そして預かった書類に目を通しながらハッとする。


 飲み会に行くこと、先輩に言った方がいいよね。

 先輩に顔を向け、小さな声で報告した。

 

「先輩、今日同期会に行くことになりました」

「そうなんだ。同期ってさっきのやつ?」


 さっきのやつって、佐久間くんのことだよね。

 見てたんだ。


「はい、あと二人同じ班だった人たちがいるんですけど」

「そっか。楽しんできてね」

「ありがとうございます」


 先輩はそれ以上は何も言わず、仕事に集中した。



 ◇ ◇ ◇



「先輩、お先に失礼します」

「お疲れ様。気を付けてね」


 今は定時を少し過ぎたころ。

 先輩はまだ仕事が残っているようだった。


 自分の通常の仕事に加え、私の指導もしている。

 私が任された仕事をまだひとつひとつ確認してもらっているので、その分やることが多い。


 いつも申し訳ないなと思いながらも、今私にできることはない。

 

「また、連絡しますね」

「わかった。楽しんできて」


 先輩はパソコンへと向き直し、私は居酒屋へと向かった。



 ◇ ◇ ◇



「お疲れ様ー。二人はまだ来てないの?」


 居酒屋へ着くと、四人掛けの席に佐久間くんだけが座っていた。


「なんか二人とも残業みたい。終わった後行けたら行くって」

「そうなんだ。大変だね。佐久間くんは大丈夫だったの?」

「うん。今日は珍しく早く終わりそうだったから誘ったんだけど、なかなかみんなが合うのは難しいな」


 全員がそれぞれ違う部署に配属されて、忙しくしている。

 私は事務作業が主なので比較的落ち着いていた。


 二人がいつ来るかわからないので先に始めることにして、お酒とおつまみを頼み、乾杯する。


「ああ、久しぶりのビールが染みる!」

「最近佐久間くんが一番忙しそうだったもんね」

「まあなぁ。なかなか企画も通らないし、市場調査とか、ニーズ分析とかやることも多くて……」

「頑張っててすごいね」

「幸村~、ごめんなぁ」


 佐久間くんは突然項垂れるように謝ってきた。


「ええ? どうしたの?」

「幸村も企画開発部希望してたのに俺だけ配属になって。それなのにこんな弱音吐いてさ……」

「配属は仕方ないよ。同じ班から二人は難しいよねって話してたでしょ。それに、どんな仕事してたって弱音吐きたくなることだってあるよ。だからここでいっぱい弱音吐いてまた来週から頑張ろう」

「幸村~、ほんといいやつだよなぁ。泣けてくるわ」

「もう、酔ってるの? 泣かないでよ? 私が泣かせてるみたいになるじゃん」


 佐久間くんは仕事がよっぽど大変なのか、たくさんお酒を飲んではもっと頑張らないと、と何度も言っていた。

 

 大変そうだけど、開発について熱く語っていて、少しだけ羨ましいな、なんて思った。


 私も、企画開発部に配属希望だった。


 この会社は家電機器メーカーだけど、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電だけでなく美容機器などにも力を入れている。

 私はここの製品が好きで、いくつか愛用している。

 そしていつか、女性視点ならではのアイデアで商品開発をしてみたいと思っていた。


「幸村~いつか一緒に開発やろうなぁ」

「そうだね。いつか企画開発部に移動できたらいいな」


 結局、あとの二人はやっぱり行けないと連絡がきた。

 佐久間くんも随分と酔ってきているし、いい時間なのでそろそろ帰ることにして席を立つ。


 そしてお店を出ようとした時、スマホが鳴った。

 確認すると、先輩からのメッセージだった。


『今から帰るんだけど、飲み会どうなってる? 近くまで迎え行こうか』



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