60. 歓迎カニパーティ
日も暮れはじめ、辺境伯の皆さんとは別れて聖獣達と泉の家へ帰る。
侍女の家はどうなったのかなど聞きたいことは多いが、フェンリルの要望を思い出し蟹を茹でる為大量のお湯を沸かす。今日からゲルダも一緒に生活するので、家の中の説明はアルフォンス君に任せ、歓迎も含めて献立を考えよう。
「いや、やっぱ蟹しゃぶにしようかな。」
ゲルダが最近まで赴任していた帝国南東部では、海を挟んだ向かいにオロチ国という千年前に聖女の興した和風な国があるらしい。その海域は黒龍の影響か魔物が少なく船での行き交いが多く、オロチ国の食文化も根付いていたので和食にも慣れているそうだ。海鮮がかなり豊富で種類は違うが蟹も食べていたそうなので、和風メインに食事を整えようと思う。
小さな土鍋用の五徳はあるので固形燃料と網を購入する。聖獣は蟹味噌を気に入っていたので甲羅内でしゃぶしゃぶしてもらい、蟹味噌が苦手な人用に土鍋で出汁を用意しておく。和風出汁が苦手であれば塩バターとレモン、ニンニクで洋風へ味変できるように準備する。
茶碗蒸しと水菜の胡麻和え、タコとバジルのマリネ、かぼちゃや蓮根とオクラの天ぷらを添えたら完成だ。
「「「いただきます!」」」
「見た目に驚きましたが、蟹味噌ですか?すごく美味しです!!!」
あちらでは足は食べるが腹は食べられないものと思われていたそうだ。また、以外にもアルフォンス君はダイヤモンドフィッシュの肝はいけたが蟹味噌が苦手なようで、土鍋の和風出汁でしゃぶしゃぶし、途中で洋風に変え二度美味しいと楽しんでいた。
「結局、侍女さんのご自宅はどうなったんですか?」
『おう、あの元凶の家か。燃やしたぞ。』
「……え!燃やしちゃったんですか!?」
『自分の部屋で呪詛をしよったのよ。痕跡を探すのも大変じゃから人は追い出して全て燃やしたんじゃよ。』
どこで呪詛をしたか分かったので、とりあえず聖獣組は処分のため燃やして終わりなんだそうだ。そんな大雑把で大丈夫なのか心配だが、人間側の詳しい事はアルバートさんが取り仕切っていたそうなので、落ち着いたら聞いてみようと思う。
食後、順番にお風呂も入り皆が寝支度をすすめる中、今更ながら元凶の侍女は消えたのだと思い起こされた。
一人家にいたならばいつもの如く毛布に包まり、「怖すぎるー!!!」と叫びたいところだが、騒音は迷惑になるだろうし恥ずかしいので我慢する。ネックレスはあげてしまったし、ブレスレットは山田さんへあげる物なので、丸々余っている他の鱗を取り出し抱えこみ、結局布団に包まる。
「私は魔力がないから瘴気は関係ない……んだよね。……でもこの世界の人は……。」
この世界で出会った人達が瘴気に侵される姿を想像し戦慄が走る。
「鱗ビーズ作戦を速やかに始めないと!」
鱗ビーズが出回れば瘴気による人間への危険性が減るだろう。別大陸に行って調べる時間すら惜しいので、ここは聖獣に乞い願おう。ただでお願いするなど烏滸がましいので、自分にできることを考えたが、真っ先に思いつくのはダイヤモンドフィッシュの寿司だ。
「明日から猛特訓だ!……とりあえず今日は動画で勉強しよう。」
寝落ちするまで毛布に包まりながら動画を何度も繰り返し夜は更けていった。
「「おはようございます!」」
朝、人の気配を感じる家に少し安堵感を得ながら起きだし、元気のいい二人と挨拶を交わす。ソロキャンプなど一人の時間が好きなほうと思っていたが、人が近くにいることでとても安らぎを感じる。とりあえずは、一緒に行動を共にしてくれることに感謝し、朝食も美味しい物を提供できるように頑張ろう。
パンを乳液に浸し、フライパンにシートを敷いてハムとチーズを挟み焼いていく。クロックムッシュ風のフレンチトーストに、サラダを一緒に皿へ盛りつける。スープはミックスビーンズとウインナーに、じゃがいもなどの野菜をブロック状に切って栄養たっぷりに仕上げた。
「「「いただきます!」」」
「アルフォンスはいつもこのような美味しい食事をしているのか。」
「はい。まゆ様のお手伝いをしつつご相伴に預からせていただいております。」
ゲルダは階級も上でかなりベテランの先輩らしい。口調は男前だが、表情や内容がただ羨ましいと拗ねるように言うところに可愛らしさがあり、威圧感もなく素敵な上司だなと観察する。
「ゲルダもこれからは一緒に食べようね。」
「ありがとうございます!ただ、わたしは料理をしたことがなく、今回も戦力にならず申し訳ございません。」
普段戦闘メインで野営は多くするが、ナイフでなんでも切って煮るだけしかしてこなかったらしく、この家での繊細な料理に驚いているそうだ。ただナイフさばきには自信があるらしく、包丁もすぐに慣れますと快活な返事で意欲をみせた。




