58. 病は気から、気から病
『なんだ。じいさんは本当にボケたのか?こんなに瘴気があるではないか。』
『あぁ、レグルスは呪詛は始めてかのう?初期の者を連れて行っても二度手間になるでなあ。元凶を処分せなならんのじゃよ。まゆよ、つけておる首輪をその女性に持たせなさい。』
呪詛という言葉にびびりながらも、止めに入った星鯨の言葉に好転しそうな雰囲気を感じ、昨夜作ったばかりのネックレスを急いで外す。
「ユリアナ様、こちらを。」
聞こえているかわからない表情で手も出してくれないユリアナさんにしびれを切らし、無理やり頭を搔きむしる手を剥がし、ネックレスを乗せて両手で包むようにして握らせる形をとる。
パンッ!!!!!!!!!!
ユリアナさんの手を包むのと寸分違わず弾けるような音が響いた。
先ほどまでは聖獣の言葉に皆が耳を傾け静まりかえっていのに、大きな音とともに周囲の人がざわざわと騒めき一点に集中しているような気配がした。何かあったのかと見渡すと、ユリアナさんに付き添っていた侍女が座り込んでいた。
「……あ………あ…………。」
その侍女は口を手で隠すように蹲っているが、隠しきれないヘドロがこぼれ落ちている。
『その者が元凶か。』
『そうじゃ。呪詛をかけられた者を連れて行っても瘴気は術者に帰るだけでなぁ。二度手間になるんじゃよ。』
『では、この者を連れて行く。邪魔するなよ。』
フェンリルは周りに念を押すように言ったあと、侍女と一瞬で転移していった。
「は!ユリアナ様!大丈夫ですか?」
「…………はぃ。」
アルバートさんに抱えられるように凭れていたユリアナさんと目が合い、力はないが先ほどとは違う優しげな声が聴こえた。
『ここの領主はおるかのう?色々とせなならんことがあってのう。話がしたいのじゃが。』
「今すぐ呼びに行かせます!」
アルバートさんが声をかけ控えていた騎士の一人が走り去り、疲れ切ったような力のないユリアナさんを休ませようとガゼボへ戻る。部屋に戻るほうがいいかと思えば星鯨に止められた。
「アルナイル様!!!お呼びと伺い罷り越しました。この地をお預かりしておりますアーノルドと申します。」
『ふむ、宜しゅぅな。おう、レグルスや終わったかのう?』
『ふん。終了だ。それで、呪詛とは何なのだ?』
いつものように何も気配を感じさせずすっと転移してきたフェンリルが空いているソファに座る。
『三千年前にほれ無くなった国があろう?呪詛はその時の原因なんじゃが、最悪術者もかけられた者も皆瘴獣になってしまうんじゃ。』
『知らん。我は生まれておらんわ。』
『ほ?そうじゃったか?』
フェンリルと星鯨の二人の会話で終わってしまいそうだったので、まず瘴気をきちんとわかっていないこともあり、所々で質問を挟んで話を聞き出した。
瘴気は魔素が狂ったもので、普段どんな魔素でも微量瘴気に変わってしまっている。少量であればなにもなく、溜まり増殖すると聖獣が処分に動く。また空気中の瘴気は思考能力のある人や知力の高い動物には基本移りづらく、体内のものもそうそう増殖しない。それは少しでも不快感を得たらその場から離れたり、聖水に触れようと考え行動できるからで、そして聖水を飲むことで体外へ出されるからだそうだ。
「私共は毎日聖水を飲む習慣があるのですが、それでも罹ってしまうのでしょうか?」
辺境伯が顔を青くして星鯨へ問いかけた。
『そこに呪詛なんじゃよ。』
過去滅んだ国で呪詛が誕生した。初めは戦争で自国の戦士の気を高ぶらせる魔術であったが、次は相手の国の戦士の気を下げるものへ、そして気を狂わせるものへとどんどん残酷なものに変わっていった。相手国にも技術は漏れ、お互いに呪詛を掛け合うまでに至るのに一年掛からなかったそうだ。
呪詛は気を狂わせ、体内の瘴気を増やしたり、呪詛自体の魔素も狂って瘴気になっておりそれを対象者は浴びるそうだ。
『普通は瘴気を浴び続ければひと月も持たず身体中の魔素が狂ってしまうんじゃよ。今回は聖水を飲んでいたようじゃから根幹は無事であったのじゃろう。』
過去の国ではヘドロを吐く者が増えだし、身体の一部がヘドロになったり、傷が腐りながらも死んでてもおかしくない彷徨う人型の瘴獣が出現したそうだ。身近な者が瘴獣になったことから、気が狂い、吸い込んだ瘴気で自身の魔素が狂い、結局その者も瘴獣になる。などと負の連鎖もすごく、戦争から数年後呪詛を受けず聖水や聖流に身を寄せた者達だけが生き残ったそうだ。
『最後は聖獣総動員でなあ。二つとも大きな国であったからそこら中に現れてのう。白龍も黒龍もあっちへ行ったりこっちへ行ったり大変であったんじゃよ。』




