57. 抵抗してみた
アルバートさんの提案でお茶会はお開きになり、ガゼボへの案内の前に付き添ってくれる女性騎士の紹介となった。
「こちら、ゲルダがまゆ様付きの騎士となります。街の案内や護衛など色々と器用なのでなんでも気軽にご相談ください。」
「ゲルダ・アドゥールと申します!力仕事には自信があります!誠心誠意お仕えいたします!どうぞお頼りください!」
鍛えられたスレンダーな体格で赤髪の格好いい女性騎士が笑顔いっぱい元気いっぱいに挨拶をくれ、ギャップが微笑ましくまたその元気も移ってくるように感じた。
「はい。まゆと言います。宜しくお願いします!」
「私めにもアルフォンスと同じように敬語はなしでお願いします!」
「あ、はい!敬語はなしで!ふふっ。」
食って掛かるように言われ、しかしフレンドリーにしてほしいという内容に、勢いに流されて同意しながら笑ってしまった。
「紹介も終わりましたし、そろそろ泉のガゼボへご案内いたします。」
アルバートさんに促され席を立ち、辺境伯夫妻とはここでお別れをする。
美しく若い夫婦が腕を組み先導する姿に、庭園の景色と相まって映画やアニメのような絵画を観る心持ちになった。心なしかユリアナさんの顔色も良く見える。
「二人すっごくお似合いで綺麗だね。」
アルフォンス君とゲルダが後ろ近くに歩いていたのでこっそり声を掛ける。
「お二人の出会いは劇になるほど有名なんですよ。」
「え、観てみたい。」
他にも護衛の騎士とアルバートさんの侍従やユリアナさんの侍女らがいるので、あまりこそこそとはできず後で詳しく聞こうと前を向き直した。
「きゃぁっ!!!」
「ユリアナ!!大丈夫か!!!」
庭園を横切り泉へ続く林道の入り口が見えた時、ユリアナさんが何かに弾かれるように後ろに倒れてしまった。
「大丈夫ですか!」
近くへ駆け寄ろうとするが、押しのけるように侍女がユリアナさんに近づく。
「……なんでなんで……なんでなんでなんでなんで!!!!」
最初は聞き取れなかったが、徐々に大きくなる声に驚く。アルバートさんと侍女がユリアナさんに寄り添うが、周りに気づかないのかユリアナさんの焦点は合っていない。
「ユリアナどうしたんだ。」
「魔女が……魔女が……魔女が悪いのよ!私を殺そうとするの!殺される。殺される。殺される。殺される。あぁーーーーーーー。」
頭掻きむしるように抱え、恐ろしいことを呟く姿に怖気づき数歩離れる。
『ん?まゆはこんなところで何をしておる。……まあいい、今夜はそうだな、夕食はガーネットクラブで何か作れ。』
「レグルス様!!!どうしてこちらに?」
『あぁ。瘴獣の気配を感じてな。』
「え……どこにですか?」
『ん?そうか、まゆは魔力がないからわからんのだったか。その女だ。』
いつの間にか侍女は後ろに下がっており、頭を抱えたまま蹲るユリアナさんの横にはアルバートさんのみだ。顎で示された先の女性はユリアナさんだけになる。
「え、ちょ、ちょっと待ってください。ユリアナさんが瘴獣だなんて……白龍の元では瘴獣って塵一つ残らないんですよね?瘴気のヘドロとかありませんよ?何かの間違いじゃ……。」
「そんな!!!!ユリアナが、ユリアナが……。瘴気……人が瘴獣になるなど聞いたことがありません!」
『なんだ。人が我を疑うのか?』
今までお世話になっている中、聖獣への信頼は強く言葉を疑うことなどなかったが、印象はあまり良くない人だがさすがに消えるかもしれない流れに抵抗がわく。
『まあ関係ない。連れて行くだけよ。』
フェンリルがユリアナさんに近づくかのように一歩動いた時、星鯨のいつも通りな優しいおっとり声が聞こえた。
『レグルスや、慌てるでないよ。』




