55. 絶景は心が晴れる
夕食までは星鯨と和やかに過ごせたけれど、一人になると神聖魔術の話が頭を巡り落ち着けず、独りよがりだがこの気持ちを誰かと共有したくなっていた。実際大事なことなので知らせる必要もあるが、どこか縋る気持ちで山田さんにメッセージを送っていた。
うまく文章にできる気がしなくて通話を希望した。感情が昂り支離滅裂になりそうな話を山田さんは辛抱強く聞いてくれ、夜遅くまで愚痴のようなただただ怖いという気持ちに付き合ってくれた。
同じ転移して来た立場で、いいようのない不安な気持ちへの理解もあり、直接会ったら怪我や病気への対策や予防を話し合おうと提案され、言葉を交わすうちに心も落ち着いてきた。吐き出すことで自身の思考もすっきりとしたのか、建設的なものへ変わり救われたような心持ちになった。
夜更かししたが、どこか懐かしさを感じるような鳥の声で朝早くに目が覚めた。
山田さんのおかげでどんよりとした気持ちはなくなっていたが、久々のひとりぼっちの家にやはり寂しさを感じ、とぼとぼとリビングへ向かう。
薄暗い室内を一掃しようとカーテンを開くと、気持ちが晴れるほどの美しさに目が眩む。
朝日に照らされる泉はエメラルドからオパールへと煌めき、生い茂る木々が額縁のように泉の周りを赤や茶色、濃い緑の秋で彩っていた。
「すごい。……なんだか頑張れそう。よし!朝ご飯にしよー!」
和食を提供したこともあったが、やはり納豆は匂いも見た目もハラスメントになりそうで遠慮していた。玉子かけご飯もしたいが今日は納豆だ。
なめことえのきの味噌汁に、海苔巻き卵焼き、納豆を用意しダイヤモンドフィッシュのみりん干しを焼く。蓮根とごぼうの金平と、小松菜と人参はナムル風に味付けした。白米とたくあんを添えたら完成だ。
「最高に朝食!これぞ朝食!いただきます!」
美味しいご飯と綺麗な景色に、昨夜の動転していた自分が恥ずかしくなるほど、不思議と清々しく前向きになっていた。異世界へ来てからはビビリが表立っていたが、元々はポジティブで人生なんとかなるさ精神であったので、少しずつ元の自分に戻ってきたように思う。
「……私自身もトラウマなっててもおかしくないよね。湖のときもだけど、聖水の近くでは冷静になれるとかもありそう。」
昨夜の通話で鬱屈とした気持ちは少なくなっていたが、やはりここは空気が違うように感じる。
「たしか、白龍の鱗ビーズがまだ残ってたはず。」
二粒残っていたうち一つを真珠の実で鱗ビーズを挟むように並べてTピンに通し、端を丸めたらチェーンにつなげネックレスを作る。
「念の為。私に効くか分からないけどね。」
残りの一粒は黒の細めの組紐に通しブレスレットとして編んだ。昨夜の通話の様子だと、山田さんは精神的にも大人で落ち着いていたが、少しでも感謝を表したく、またもしものことも考え用意しておく。
工作も終わりアルフォンス君や新しく来てくれる女性騎士を待つが、もうすぐ11時になるのになかなか来ない。掃除をしたり洗濯をしたりと時間を潰していたが手持ち無沙汰になり、何かあったのだろうかと、城から来る際に通った庭まで行ってみようかと考える。
「お待たせして大変申し訳ございません!配属予定の騎士が体調不良のため、代わりの者を午後にお連れしたいと思います。本日は午後のティータイムにて、辺境伯のご家族との懇親の場が開かれます。ご都合は大丈夫でしょうか?」
ちょうど玄関から出たところで、アルフォンス君が駆けてくるところが見えた。
「何もないから大丈夫だよー。その騎士の方は大丈夫そう?」
「はい。まゆ様を煩わせるようなことは何もございません。ご安心ください。」
『おはよう。今日もお邪魔するなぁ。……ほう、ここは美しいのう。』
「アルナイル様!おはようございます!この泉とても綺麗ですよね。あ、お昼近いですが食べて行かれますか?」
『いただこうかのう。まゆのご飯はなんだか懐かしゅうてなあ。とても美味じゃしお誘いはほんと嬉しいのう。』




