53. 重大な事実発覚
神聖魔術では基本的に魔石を使用し怪我などを治すが、重傷の場合聖水で洗い清めないと傷を閉じた後亡くなることがあるそうだ。
「聖水って、あのレグルスの森の湖の?」
「そうですね。帝国では三大湖の聖水をよく使います。各領に配布されますし、大体大きな領には別途聖水の湧く場所があったりしますね。」
「あ!湖の水!あれも聖水だよね!私持ってるよ!……あ、でもダイヤモンドフィッシュの血で汚れてるか。」
釣りをして絞めた時に湖の水を使っていて、森を出てから捨てようと思っていたバケツが何個も収納しっぱなしの状態にして忘れていた。
『まゆよ、収納したならば神器で浄化されておろう。』
「「っそうだ!」」
重傷ならば一刻も早く治るほうがいいだろうと、アルフォンス君が急ぎ取次に走ってくれた。ダリアさんと子供達にはテントに残ってもらい、星鯨は付いてくるそうで二人であとを追う。
「まゆ様、ありがとうございます。」
「いえいえ。たまたま持っていたので、助かるならぜひ使ってください。」
神聖魔術師は星鯨に似た淡いタンザナイト色の目に眼鏡をかけた壮年男性で、銀髪を刈り上げた賢そうな雰囲気だった。
治療の場に入ることはしなかったが、結果が気になり外で待たせてもらう。バケツは一つで十分なようだ。顔色の悪かった術師もバケツを見たら笑顔が広がっていたので、重傷者も助かるだろう。
「この世界は医療が発達してるんですね。神聖魔術師がいるならやっぱり安全な大きな街に住もうかな。」
『……まゆよ。お主は神に会っておらんじゃろう?体の作りは元居たところのままじゃ。この世界の術は効かんのじゃよ。』
少し悲しそうな顔で星鯨に告げられる。
「あ……皆、魔術で治してもらってる……?じゃあ……大怪我したら、手術とかは……。」
『ないんじゃよ。手術はまだまだ発展しておらん。ゆうきも怪我には人一倍気を付けておった。まゆも気を付けるのじゃよ。』
以前聞いていた稀人のゆうきさんは、怪我などなく98才の大往生をしたそうだが、晩年は白内障で物が見えなかったそうだ。
「そうなんですね……。」
魔法が使えなかったショックよりも、今回の話は想像もしていなかった新事実でじわじわと恐怖が襲ってくる。体調が悪くなっても病院で治り、身内に事故があっても手術と少しの入院で助かってきたので、事の大きさが掴めない。ただ確実に言えるのは、日本で漠然と生きていたようにはいられないことで、それが何か根幹を揺るがすような恐怖として襲ってくる。
しっかり地面に立っているのに、ふらつくような不安にかられ、そわそわと落ち着かず心がずんと重くなったように感じた。
「本当に神聖魔術はまゆ様に効かないのでしょうか?」
『お主らが言う神聖魔術とは、星魔法と冥魔法なのじゃよ。』
この世界の医療では、星属性は活性化や詠む力、冥属性は沈静や錬成の力を主に使っているそうだ。こちらの世界の人は魔素も用いて身体は作られており、小さな傷であれば対象者の魔素を活性化させ治癒を促し、大きな傷では身体を読み取りそれに合わせて魔石の魔素を変化させ補っている。
『ゆうきが調べておったが、DNAであったか?それに似たものを読み取り、個人個人に合わせた細胞を魔素で錬成しておるそうじゃよ。』
「ハイテクだ……。」
話を聞くほどとてつもない技術に、対象にならないことが残念でならない。
「……まゆ様をお守りするにはどうすればいいでしょうか?」
『そうなぁ、この範囲の中に居続けるのが一番じゃが。閉じこもるのは辛いじゃろうしなぁ。出来ることとしたら神器で出した物を纏うことぐらいであろうかのう。』
以前聞いていた通りやはり携帯電話で購入したものは効能が補強されるので、服は守護の力があるだろうと言われる。びびりだからこの世界の服は一生着られないかもしれない。




