52. 魔獣こわい
「ありす、すぴか、きょうのおやつはなんだろうね?」
「ありしゅ、あみゃいの!」
「あまいのがいいの?」
「うん!たーくたん!たべりゅ!」『きゃんきゃん!』
「次の休憩でおやつタイムかな。」
昼寝から起きた可愛らしい声が後部座席から聞こえてきた頃、ちょうどおやつに近い時間で休憩の合図があった。
「今回ご用意いたしましたのは苺とクリスタベリーのロールケーキです。どうぞお召し上がりください。」
お昼は同席しなかったが、おやつならと辺境伯夫妻には了承をもらっていた。しかし今回こちら側のタープやテーブルなどの用意はいらないとのことで、辺境伯夫妻さんや騎士団長らはそれぞれの陣営が用意されたテーブルに着いた。それぞれに誘われたが、コンラッドさん家族のテーブルへ同席させてもらい、チート機能で出来上がりのまま収納されているロールケーキを提供した。
「これが、クリスタベリーか。」
「全体もピンクで可愛らしいですね。」
「かーいー!」
「ははうえ、これぼくたちがとったんですよ!」
「まあ!二人が採ったのね!すごいわ!」
それぞれ和やかにおやつタイムを過ごし、食後のお茶が終わる頃、がたんっと騎士団長が突然席を立った。
「……大変失礼いたしました。まゆ様申し訳ありませんが念の為テントかご自宅をお出しいただけませんでしょうか?魔獣の群れが近づいているようでして。」
通信機を手に何かしらやり取りをした後、騎士団長にチートの結界を使わせてほしいと依頼された。
「わかりました!スペース的にテント出しますね。安全な範囲は自宅と一緒で百メートルあります。」
「助かります。慌ただしく申し訳ありませんがお先に失礼いたします。」
騎士団長は足早に騎士の集まりに向かっていき、辺境伯夫妻は自らの馬車へ向かわれた。
「コンラッド様、落ち着くまではロバート君たちはテント内にどうですか?おもちゃもありますし、外は忙しないと思うので。」
「お言葉助かります。私は王国側と話してきますので、ダリアもお願いしていいでしょうか?」
「勿論ですよ!あ、お二人とも歳も近いしもっと砕けたお付き合いができたら嬉しいです。」
「ありがとうございます!私共も良くしてもらってばかりですが、親しくさせていただけるのはとても嬉しいです。宜しくお願いします。」
ダリアさんとは車内で楽しく話していたこともあり、家族ぐるみで仲良くできたら嬉しいと思っていたので、コンラッドさんからも快い返事が貰え安堵した。
「それじゃダリア様中で一緒に待ちましょう!」
外から慌ただしい音は聞こえるが、叫び声などの恐ろしい感じはなく、二人の可愛らしいやり取りを見てのんびりしていると星鯨が現れた。
『ありゃ、今日も間違えてしもうたか。神器の気配がしたから当たったと思うたのじゃが。』
「アルナイル様!今日も本ですよね。すみません、何度もお越し頂いているのにバタバタしていて。いくつかお出ししますので、狭いですがこちらでお読みなりますか?」
『よいよい。気にするでない。ただの道楽じゃ、今度でよいよ。』
「そうですか。領都に着いたら、自宅を出せるようなスペースを頂けるか聞いておきますね。」
「失礼します。まゆ様、ある程度片付きまして、あと一時間ほどで再出発となるそうです。」
外で控えてくれていたアルフォンス君が伝達をくれた。
「それじゃ、外に出ても大丈夫かな。」
「いえ、それが少々怪我人が出てますので、もうしばらくは中でお寛ぎください。」
ここらでは珍しい魔獣の群れが現れ、最後尾の荷馬車で逃げ遅れた何名かが怪我を負ったらしい。救助隊には神聖魔術師が同行しており、軽傷者はほぼ完治しているが、大怪我を負った従僕を領まで安静に運ぶための手配にばたばたしているそうだ。
「大丈夫なの?神聖魔術?で治りそう?」
「はい。今回の救助隊には上級の魔術師が就いていますので、領に戻れば後遺症もなく治ると思います。」
「へー。すごいね。魔法で簡単に治せるんだねー。」
「いえ、ここだけの話、内臓を損傷しておりまして、今は応急措置をしただけになります。領にて聖水を用いた大掛かりな術が施される予定です。一刻を争うので、急ぎ領へ向かう手配に慌ただしくしております。」
子供達に聞こえないよう声を潜めて緊迫する状況を知らせてくれた。




