Y-25 異世界細々
普段は夜間の走行はさすがに危険とのことで緊急時以外はせず、村や街がないところでは停車駅に作られた宿泊場所で休むそうだ。今回は特別編成の車両らしく、停車は少なくし夜間も速度を落とし走る予定だ。
まだまだ線路に魔獣が居座るなどで遅延が発生したりと問題はあるが、一定の速さで走る列車は貴族など多くの富裕層に支持され巨額の投資も未だ盛んらしい。
「うまいな。」
「なー!貴族様の食事はすごいな!」
今回は貨物車が多く乗客は少ないらしいが、こちらの人数が多いことから別で食堂車を用意してくれており、貴族仕様というのかフォーマルな食事様式での夕食となった。
「まこっちゃん、いつもぼう二本なのにナイフもつかえるのか?」
「あれは、箸っていうんだよ。一応大人だからな。ナイフフォークはある程度できるよ。」
「おれむりー。」
「むずかちい。」
「子供の手だと細かいことまだ難しいか。切ってやるからフォークだけで食べな。」
ダニーの分を一口大に切っていると、給仕が代わってくれ他の子供たちの分も食べやすくしてくれた。
「手が行き届かず申し訳ございません。今後はお子様たちの食事も考慮致します。」
「ありがとうございます。こんな小さな子供が乗ることなどないだろう中十分配慮いただいていますよ。」
実際一人前の量も減らしてあったり、小さな子供用にクッションを重ねていたりと、細やかな気遣いは感じていた。皆で賑やかに食事を堪能し客車に戻る。旅の最中と同じように今日は体を拭くだけになるが、子供たちの寝支度を整え寝かしつけたら、昼間子供たちと遊んでいてできなかった陣の書き出しに取り掛かる。
「地球でのプログラミング言語だけでできるなら最高なんだが。」
魔導言語そのものの模写と、翻訳チートで訳されたプログラミング言語の両方をインクで書き出す。ギルドで揃えていた魔石と光源になるガラス玉をセットし、起動できるかの実験だ。
「オリバー、すまんけどこれ起動できるか試せるか?」
「いいですよ!……こちらは無理ですね。」
机の上では魔導言語の物だけが光り輝いていた。
「そうかー。いや、でも俺でも作れるのはわかったから、どれがどれに当てはまるか文字の一覧作るか!」
魔導言語とプログラミング言語の一つ一つを照らし合わせ、書き出してはチートで確認する、を繰り返していたらふとドアの開く音が聞こえた。
「ん?どうしたロン。起きちゃったのか?」
「……おいちゃん、なにちてるの?」
「魔導具の勉強をしてたんだよ。」
机を覗きたそうなロンを膝に乗せ、読めない文字が多いだろうが興味があるならとまとめたノートを見せる。まだ睡眠も多く取る必要がある年齢であるから一緒に文字の勉強はしていなかったが、絵本を読んでもらったりと文字に触れていたからか、メモ書きに少し読めるところがあるようだ。
「こりぇ、ませぇき。」
「お!すごいな!合ってるよ。」
ロンは結構表情が乏しく自己主張も少なかったので、こうやって目を輝かせてこちらを見る姿に、文字を覚えたいなら時間を作ってあげようと思う。頭を撫でながら、ロンがわかる言葉を探す姿を眺めていると、はっと今更ながら気づいた。
耳がある、獣人だからだ。腹を擽るふりふりしている尻尾もある。獣人だから当たり前だ。
(日本人に尻尾はないんだよ。あー日本の服そのまま渡してなかったか?)
パジャマの上をめくり尻尾の生え際を見ると、何かで切ったままのほつれた穴が見えた。
「どったの?おいちゃん。」
「あーすまん。尻尾の穴開けること完璧に忘れてたわ。これ誰がやってくれたんだ?」
キャロが自宅内ではさみを見つけ、開けてくれたそうだ。ジョンとリックは指で破いていたと密告をうけ、さすがに力技は注意するべきだが、困ったことや知りたいことなど気兼ねなく何でも言ってきていいのだと子供たちと話そうと決める。
眼が半分落ちているロンを寝台車に連れて行き寝かしつけ、明日の子供たちの服をチェックする。四人のズボンすべてに穴が開けられていた。
「ジョンのとかケツまで見えそうじゃん。」
大き目のパーカーやトレーナーを用意していたので気づかなかったが、ジョンとリックの尻尾の穴は汚い。
「はあ。男だから気が利かないを通り越してるわ。明日は一人一人子供たちと向きあおう。」
裾上げなど、クリーニング屋でなんでも頼める日本にいたから、縫い物なんて学校の授業ぶりだ。しかし結構覚えているものでやり方はわかる。ただ慣れない手の動きに何度も指を刺し、なんとか四人分が終わるころには、いつの間にか空は明るく朝日と疲れが目に染みた。




