Y-23 異世界製法
皆が皆興奮したようで、バザーどころではなく宿へ戻ることになった。
「神聖魔術ってそんなにすごいのか?」
「そりゃもう!村で現れたら英雄ですよ!」
神聖魔術師は怪我の治癒が主にでき、才能あるものになれば欠損や病気も治せるそうだ。教会付属の学校で学ぶ必要があるが、卒業後は教会や国への所属、または個人での活動など自由に選べるとのこと。ただ、誰もが卒業できるわけではなく、資格試験に合格したものだけがなれるので、神聖魔術師を名乗れるものはかなり希少らしい。
「それは、教会が独占しそうだが……。」
「あー、聖王国だと所属は強制になりますね。帝国はかなり昔から個人の権利が尊重されてますから。」
過去の聖女が帝国へ移住した際に、皇帝の勅命で【質実剛健・自重自治】が下った。それと同時に、帝国民としての義務や権利も制定され、人を尊重する文化が根付いたそうだ。なので奴隷も違法で、アレックス達の件はかなり大掛かりな事件になる。
「とりあえず、まだ小っさいんだからゆっくり考えればいいよ。学校へ行く前に文字は覚えといた方がいいだろうけど、年齢にあった勉強していこうか。もちろんまだ子供なんだから基本は遊ぶ!だ。」
「やったー!」「あそぶ!」
「末裔様……じゃなかった、山田さんらしいですね。」
ジャックとマイクとアメリヤの三人は街に滞在するときの日課の情報収集に冒険者ギルドへ向かった。ダニエルとレオとオリバーは行商分の買い出しに出掛け、外に出たいとジョンとリックも着いていった。
「部屋にいるのも暇だよな。ちょっと待ってな。」
アレックスとキャロは勉強したいようでユリヤが見てくれるようだが、年少のちびっ子たちはつまらないだろう。宿のベッドから敷布団のようなシーツらを取り出し、板枠の中へ大量のカラーボールを投入する。
「きゃー!なにこれー!」「わー!」
「この中で適当に遊んでてくれ。」
出会った当初に買ったおもちゃも出し遊ばせておく。ボールプールに入ったが眠そうなダニーとロンは掬い出し、別のベッドに寝かせた。
あとは、魔導具の検証をしようと、ピクニックで使うサイズの小さなポップアップテントを購入する。安全範囲は狭く、半径二十メートルのようだ。
「やった!ん?英文?じゃないな……Pythonだ。陣ってプログラミングだったのか?」
日本ではSEをしていたこともあり、プログラミング言語には慣れている。しかし、分野もいろいろあり、自分は企業のシステム開発関係だったのでゲームやアプリになると少し怪しい。これもまた勉強のし直しかと落ち込むが、少しでも魔法に近づいたことが嬉しく、火起こし機の内側を写しだした。
「これいけそうだな……。」
なんとなく読み取れる感じだと、何かを用いて火が出現し中に入れた可燃物が燃えるだけのようだ。火が発生する仕組みがゲームのようで、ここはゲーム世界なのかと過ったが、生きていると実感がある以上どうでもいいかと頭から捨てさった。あの筋肉痛はしっかり”生”を感じたのだ。
肝心の起動に関する箇所を見つけた。
「ん-”マナ”かな。ファンタジーでよくある魔力や魔素がそう言うよな。てか、これを用いると火を呼び出せるのか?変換されてるのか?」
疑問は多いが店員の言う通り動力は魔石で、起動の条件が一定量のマナに反応するだけの簡単な設計だったので、ここを違うモーションで反応するよう書き換えるだけで魔力がなくとも使えるようになりそうだ。
「ただ、陣はただのペンで書くだけでいけるのかだな。その辺は登録情報になるのか、調べないとか。」
もう今は調べられることがないなと背伸びをしたとき、昼寝から起きたダニーが突進してきたので、気分転換に子供たちと遊ぶことにした。
「魔導具の製作は錬金術師が行うので、錬金ギルドに必要なものが売ってますよ。」
買い出しから帰ってきたオリバーは本当に博識だ。個人での販売もありギルドの専売ではないが、仕事の斡旋を受けた際ついでに揃えられるように道具類を大体は用意しているとのこと。
「明日午前中見に行きますか!」
「いいね!近いならちゃちゃっと行ってくるか!」




