45. 肉の焼ける匂いは飯テロ
小学生の頃ジビエに興味を持ち、狩猟と解体の体験へ行ったことがある。自ら向かったのに衝撃的だったのだろう、解体の流れや猟師さんのお話は未だに覚えている。その時の鶏の解体を思い出しながら、お湯を沸かし、サイズが大きいのでホームセンターに売っている角タライを購入する。あとはもう一心不乱に毛を毟って捌いていく。
尾羽根の部分が羽ではなく、アルセアの名の通り、立葵の花びらが集まったような美しいレースになっていた。
「うわ、これ綺麗!シフォン生地みたい。」
「そちら、希少なアルセアレースですね。高く売れますよ。」
いつものようにアルフォンス君が手伝ってくれている。
「レグルス様が食べるっていうくらいだし、綺麗になってるんだよねー。使おうかなー。」
「瘴気が綺麗になくなってますし、浄化された物って神の御業における聖遺物となりますのでとても尊い物ですよ。」
「そうなの?浄化済なんだよねー。じゃ作りたいものあったから使ってみようかなー。」
あの見た目から食べる気は全く起きないが、この世界の人にとって忌避する物じゃないのなら使ってみよう。
「アルフォンス君は今日は食事も一緒に取れそう?」
「はい!今日からはまゆ様のサポートが仕事になりますので、ご一緒させてもらえると嬉しいです!」
「ありがとう。気心知れてるから助かるよー。親御さんとかには連絡してるの?」
両親は皇都の騎士団本部に到着していたようで、昨日のうちに通信機で連絡が取れたそうだ。魔女様のサポートは得難い仕事なのだから、しっかり勤めるよう叱咤激励されたとのこと。
各部位に分け捌いたあと、もう一度収納し自宅へ入る。部位ごとの鑑定欄に全て生食可能が載っていて、そこまで生に拘るのか?と自分の生食好きは棚に上げてアプリの鑑定に疑問を抱く。
「とりあえず、鳥刺しかな。あとはここの部分赤身が鴨肉っぽいからミディアムレアで、フォアグラあったからソテーと食べてもらおう。」
なんだか調理していると、ただの美味しそうな肉としか思えず食欲がそそられる。とてもヘドロが纏わりついた姿から想像もできないくらい、ぷりぷりな憎らしいほどな肉っ振りだ。
「うわー。この焼ける匂い!たまらん。」
「本当に美味しそうですね……。」
じゅわぁーと皮目が焼けていく音と一緒に漂う香りに涎が溢れそうだ。肉を焼く横で添え物としてカブとアスパラを旨味の溶けた脂で焼いていく。記憶の塗り替えではないが、あの汚物のような姿は脳から消去が始まったようだ。ルッコラとナッツのマスタードサラダに、下仁田ネギと帆立のレモンソテーを副菜に、じゃがいものビシソワーズを並べた。肉を焼き始める前にはアルフォンス君が外の騎士に伝え皇太子を招いていたので熱々を提供できる。
「できましたよー!お酒は何にします?」
『ふむ、ワインだな。軽めの赤を頂こう。』
「あの……やっぱり少し、私たちも頂いていいでしょうか?」
『おう!お主らがこしらえたのだから食すのは当然だ。』
『お邪魔するよ。わしらもええかのう。』
「アルナイル様どうぞ!って、アリスちゃんも一緒ですか!?」
いつものように星鯨がいらっしゃったのかとドアを振り返ると、片腕にアリスちゃんが乗っかっていた。
ぴんぽーん
「あ、コンラッド様だ。ちょと出てきますね。」
アリスちゃんのことは一旦置き、モニターにコンラッドさんが映っているので、急いで玄関に向かいドアを開ける。そこには困り顔のコンラッドさんとロバート君達が待っていた。
「すみません。アリスがこの辺りにいたとお聞きしまして。」
「あー。アルナイル様と一緒にうちにいらっしゃいましたよー。」
「目を離した隙に脱走したようで、申し訳ありません。連れて行きます。」
自宅周辺は皇太子や騎士団長らの天幕が並び、騎士も等間隔に配置されているので、迷子の心配はないが二才の行動力に不安だっただろう。
「とりあえず中へどうぞ。」
ダイニングテーブルでは、フェンリルの膝の上で口を雛鳥のようにあけ食べさせてもらい、ご満悦のもぐもぐアリスちゃんがいた。
「ありゃりゃ。この際だしコンラッド様も食べて行きます?」
「いえ!何度も申し訳ないです!私どもは天幕に戻ります。ほら、アリス行くよ。」
「や!ぱぁぱ、ちゅわる!」
「ふふ、せっかくなので頂いてください。一応浄化してますが、アルセアバードでいいですか?ほかにも用意できますが。」
「浄化物を頂けるなんて有難いことです!すみません、毎度毎度ご迷惑をお掛けしますが、ご相伴させていただきたく思います。」




