42. 安眠安心抱き枕
「うーん。これは天幕が怖くなってしまったかな。」
玄関に向かうコンラッドさんを通せんぼして、足にへばりつき、抱き上げられたら海老ぞりになって降りようとし、全身で拒否を表現しているアリスちゃん。
「アリスちゃん、ばいばいじゃないよ?パパと同じところで寝るだけだよ?」
「やーあ゛ー!!!まゆたん!にゃの!!!!!」
「んー、まゆ様と離れたくないのかな?あの、大変申し訳ないのですが、少し落ち着くまでこちらで休ませていただけないでしょうか?」
「もちろん大丈夫ですよ。……そうだ!狭い家ですがよかったらお泊まりになりませんか?二階の部屋が余ってますし、親子三人で泊まれるよう整えますので。」
「いえいえ!そこまで甘えることはできませんよ!」
「全然気にしないでください!こちらに来てからずっと誰かがいたので、今日から家に一人は少し寂しかったんです。」
「ぱぁぱ、いっちょ?」
「ちちうえ!ぼくあんないできるよ!」
皆で泊まればいいと話が聞こえたのかすぐ泣きやむところに、アリスちゃんの二歳児ながら頭の良さが垣間見える。コンラッドさんは子供達のきらきらした目に負けたようだ。
「すみません。ご迷惑をおかけしますが三人お願いします。」
「ぱぁぱ、こちよ。」
先ほどまで泣き顔だった子がニコニコと得意げに案内を買ってでたことで大人たちに笑いが起きた。
皇太子達はご自身の天幕に戻り、コンラッドさんは玄関前に待機していた侍従さんへ声をかけに行った。
両親はセミダブルを別々に使っていたが、この二つはくっつけられるデザインの物なので、合わせれば家族三人で余りあるだろう。洗濯済みのシーツをかけ、森を抜けてから二人が愛用しているぬいぐるみも家に置いていたので並べておいた。
「一応ベッドと寝具、チェストとか出してみたんですが、使い勝手がいいように整えてもらっていいので。他に必要なものはありますか?」
「水まわりについてお聞きしてもいいでしょうか?」
コンラッドさんの侍従さんはルイス君といい、若干18才のアルフォンス君と変わらない年だった。子供達の手伝いなどで同年代くらいだろうメイドのマリーちゃんも控えていた。
トイレの場所や洗面所、お風呂場の説明し、ホテルのようにアメニティがないことに気づき用意する。
「食事は私が用意して大丈夫ですか?」
「まゆたん、にょごあん!」
「ちちうえにもまゆさんのごはんたべてほしいです!」
「……はは。何度も申し訳ございません。お言葉に甘えていいでしょうか?」
「ぜひぜひ、晩ごはんから一人だと思ってたので嬉しいです。苦手なものはないですか?ダイヤモンドフィッシュを使おうと思うんですが……。」
「大丈夫です。ダイヤモンドフィッシュは初めてなので嬉しいです。今夜は宜しくお願いします。」
アリスちゃんのお気に入りアニメを流し、晩ごはんを作りながら、子供達がコンラッドさんに一生懸命説明しているのを眺める。
「全然癇癪とかわがままとかなかったのにな。やっぱりパパに会えたからかなー。」
『ん?アリスか。ここは聖気がないからな。』
「……あ、そうでしたね。そういえばあそこは不安とかなりづらいんでしたっけ。」
『そうなあ。それもあるしこの家は神器のなかであるからのう。無意識に安全だと感じておるんじゃろうなあ。』
「あの感じで王国まで帰れるのかな。心配になってきました。」
『ほれ、お主があげたぬいぐるみがあろう。神器から生み出した霊宝のようなものじゃから、あれがあれば落ち着くのではなかろうかの。』
ダイニングテーブルでお茶を飲み寛ぐフェンリルと星鯨から聞かされた、ただの抱き枕のぬいぐるみが尋常でない物だった事実に驚く。その物の利用目的に沿った霊力を保持しているらしく、服は身体を守る力が強く、ぬいぐるみは安心感が得られるのではないかとのこと。実際、星鯨と会った砂浜は息吹の届かない場所であったため、不安が溜まり夜寝付けなかったのではないかと推測された。
そうこう話すうちに晩ごはんが出来上がった。今晩は、ダイヤモンドフィッシュのバジルとチーズのはさみ揚げに辛くないトマトサルサをかけ、アスパラと帆立にキノコのソテーにはバルサミコ酢ソースでさっぱりと。人参のラぺとライ麦パンとクラムチャウダーを用意し完璧なディナーだと自画自賛する。
『今日の酒はなんだ?』




