Y-20 異世界越境
今日でこの国とはお別れだ。この村に接する川のうち、初日に出会った川の分流が帝国との国境になり、昨夜滞在した村から川沿いを半日くだれば、橋があり越境できるそうだ。
「そういえば、こんなに立派な川があるのに魚は食わないのか?」
「この国は聖流の権利関係が厳しいから密漁扱いになっちまうんだよ。」
「うへぇ。そこも金か。」
「そうなんですよね。まあ越境して帝国側からだったら、素人が釣りするくらい大目に見てもらえますよ。」
転移してから、旅日和の天気のいい日が続く。秋の始めは雨量が少なく、冬に近づくと崩れやすくなってくるそうだ。その時期に入る前にはぎりぎりリュクスへ行けるからしい。
「もうすぐ橋ですね。渡ったあとは検問があるので、一度そこで私達の状況を伝えましょう。」
子供たちの状況から、転移事故は規模がでかいのではないかと話していた。現在の帝国の政治情勢は安定しているらしく、保護やサポートなどなにかしらの保障があるかもしれないので、検問の騎士に相談することを昨夜決めていた。
「次!……多いな。どういう関係だ?」
「はい、私達は行商でして、こちらの子供たちと男性は聖王国で会いました転移被害者です。」
「なに!こんな人数の子供が?連絡は来ていないが、全員こちらへ来てくれ。個別に詳細を聞こう。」
ばらばらになるのは気が引けたが、子供たちはまとめて優しそうな女性騎士と子供うけしそうな若手の男性騎士が対応してくれるようだ。
「もしかして、あなた様は末裔様でしょうか?」
子供たちとの旅や軽トラの説明において、末裔にしておいた方が話はスムーズになるだろうと、裸眼で検問に来ていた。
「そのようなものです。」
孤児院の問題やリュクスの街まで向かうことを伝え、簡単に問題はないと判断され、入国が認められた。
「末裔様、この度の件、わが国の子供たちをお救いくださりありがとうございます。すぐ皇都本部に連絡いたします。おって本部より通達が届きましたら、今後の方針等お伝えしたいので、一度領都クバンで少しの間滞在願えますでしょうか?」
「わかりました。取次はどちらでしたらいいでしょうか?」
「クバンの街門におります騎士にお声掛けください。」
オリバー達の人柄のよさもあったが、騎士たちの丁寧な対応で帝国への印象はかなりいい。やはりこの異世界は優しい世界なのかと錯覚してしまいそうだ。
「あ、皆終わってたのか。大丈夫だったか?」
「おうよ!」「おねさんかわいかったぜ!」
「やさしかったのよ。」
いつも通りな子供たちの賑わいに安堵する。オリバーや、白銀の風も先に終わっており、このままクバンへ向かおうと車に乗り込む。
なんだか仰々しく、敬礼だろうか、胸に拳をあてる姿勢の騎士たちに見送られ、運転を再開する。助手席は話を聞くためダニエルだ。
「山田さんのことばっかりだったぜー。この車とかめっちゃ聞かれた。ははっ。」
「そうなのか。疑われてたのかな?」
「いやいや、目の色は変えれないから大丈夫だぜ。どうやって出会えたんだっと羨ましいってよ。」
「俺の前では、普通だったけどな。」
「あははっ!そんなもんだって!カッコつけてんだよ!」
ダニエル達は経歴も問題なく、子供たちの話とも辻褄が合うので早々に解放されていたようだ。
「異世界あるあるだと、嘘ついたらわかる魔道具があるのかと思ったけど、それらしいのはなかったな。」
「さすがに魔道具はないが神器ではあるらしいぞ。重大な犯罪とかの法廷で使われるんだってよー。」
「魔道具もそんな万能じゃないかー。」
「人体に影響するようなのは難しいみたいだな。聴力を補助?みたいの、音が大きく聞こえるってやつは金持ちの耳の悪いじいさんとか使ってるぜ。」
大きな街には魔道具店もあるので、クバンでの滞在中ウィンドウショッピングに洒落込もうとなった。




