36. 温泉入りたい
「絶対離れちゃダメだからね。」
「はーい!」「あーい!」『きゃんきゃん!』
森での休憩中もいい子で離れず散策していたのに、なんだか心配性がまた復活してきたようだ。岩場横の歩きやすいところをアルフォンス君が先導し、紅葉色づく山裾へ向かう。
「ずっと雪景色で冬満載って感じだったのに、この辺は綺麗な秋だね。」
「実りの秋ですね。あ、あちらにキノコが見えますよ。」
調査中にみつけてくれたマッシュポルームは、エリンギのような白さを持ち見た目は携帯電話サイズの椎茸の形をしていた。カメラで確認すると、形は違うがポルチーニのような香りと味をもつらしい。
「蛇とかでなかった?」
「範囲内は何もでなかったですね。少し奥側へ行ってみたんですが、動物の糞や、木の幹への痕跡がありましたので動物はきちんと生息しているようです。」
熊とかが出ないかと一気に怖くなってきた。すぐ近くに苺が生っていたので、ぱっぱと採ってすぐ戻ろう。
「レグルスの森側にはスターベリーがありましたからそちらに移りましょうか。」
「そうだね。クリスタベリーはたくさん採れたし移動しよう。」
まだ、息吹の残る森側は安心できる。スターベリーはブルーベリーより一回り大きなサイズで、星のように五枚ある薄紅の花弁が淡い紫色の実を包んでいた。
「スターは星鯨からきてるのかな。」
「そうですね。今までは花弁の形と思ってましたが、アルナイル様を拝見したらそちらの方がありそうです。」
「アルナイルさまはきらきらきれいです。」「きらきらー。」
ロバート君の住む街は、アルナイル海に面しており、数々の星鯨伝説があるそうだ。また、海にはもちろん魔物も多くいるが、船を星鯨色にすると被害が少ないらしく、漁港はパステルカラーの可愛らしい船で溢れているらしい。
「へー!行ってみたいなー!」
「ぜひ!あそびにきてください!」
採取ももう終わり家に戻ろうかという頃、アルフォンス君が岩場に少し寄ろうと提案してきた。採れたものは玄関に置いて岩場へ向かう。
「先ほどは持てなかったのですが、アルナリーが咲いていたんです。」
岩を一つ登るだけで、砂地からは見えない窪みに可憐な花が咲き誇っていた。スピカはひょいひょいと岩場を駆け回っている。
「かわいいー!」
「きゃー!」「アルナイルさま色だ!」
「足場が悪いので私が採ってきますね。」
ひらひらとした花びらが渦巻くよう開いた丸っこい花達が、ボールプールのように溢れている。グラデーションになった桜貝色や、淡いタンザナイト色、真珠色など、まさしく星鯨の色で染められていた。
『おう。お主らも風呂か?』
「レグルス様!いいえ。レグルス様はどうしてこちらに?」
『ん?温泉に決まっておろう。』
そういえば、森の道は温泉までの散歩道と言っていたのを思い出した。アルナリープールの向こう、岩場から湯気が見えた。
『飯ができたら呼ぶようにな。』
さすがに安全の範囲外なので、とても心惹かれるが諦めてしぶしぶ家に戻る。先ほどまで普通の森にもびびっていたのに、”温泉”の言葉に揺れ動くところが日本人の血を強く感じた。
「魚は美味しい。美味しいけど、久々に肉が食べたい!」
「ははっ、そうですね!ずっと魚祭りでしたね。」
「キノコも採れたので、すき焼きにしようと思います!」
ででーん!っと効果音が出そうな仁王立ちのポーズをとり、アプリで購入した黒毛和牛の霜降りを取り出す。
「今日で一緒に食べる晩ごはんは最後だし、豪勢にお高いお肉様を購入しました。」
「あ、そうですね。淋しくなります。」
「なので、ぱーっと楽しもう!」
すき焼きは準備はすぐ終わる。合わないかもしれないが、昼間頑張ったツナボニートを部位ごとに刺し身で盛り付け、お酒は日本酒とワイン、ビールを揃えた。すき焼きにはビールだ。異論は認める。ワインも合う。アルフォンス君がフェンリルを呼びに行き、こたつで読書中の星鯨も席へ促す。
「「「「いただきます!」」」」




