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Y-1 異世界転移

山田視点


 せっかくの休みだが急な法事で新幹線に乗っていた。少し仮眠しようと目を瞑ったとき、まぶたの裏に不思議な光を見た。


「ん…?」


 目を開けると草原に座り込んでいた。



「え、どういうことだ?」



 今いる場所は草が生い茂る丘陵の半ば、右は樹木が林立している山が見え、左を向けば小さな丘の間に海が見えた。


「異世界転移じゃないか、これ。」


 アニメやネット小説などあらゆるエンタメを嗜む、アラフォーおじさんを自負する自身にとって、この状況は夢にまで見たものだ。


「いや、本当に夢かもしれない。」


 定番の頬をつね痛みを感じるが、それよりも風を感じる肌や、草の匂いに現実感はひしひしとあり、夢ではないのだと訴えかけてくる。




 ここはやはり…

 

「ステータスオープン!!!」


「ステータス確認!」

「情報開示…」



 

 あとはなにがあるだろう。

 チートはないのだろうか。厳しい異世界生活になるのかと少し不安になったが、まだギルドでアイテムを使えば確認できるなどあるかもしれない、と妄想し奮い立った。

 足元には、膝の上に置いていた、実家に泊まるための荷物が落ちていた。


 やはり海は交易の基本であるし、近場に人が居住しているところがあるだろう。


 草の背丈はくるぶしを擽る(くすぐ)ほどであったし、あまり大きな石もないようで歩きやすかった。だが、丘を登り海が見渡せたとき、さすがに力が抜けて座り込んでしまう。


 なにもない大海原に沿岸は岩が折り重なり覆い尽くしていた。船が接岸できるような場所ではないようだ。

 そのため、人が住めるような気配はひとつもなく、ハードモードの気配がにじり寄ってくる気がした。


 

「野宿か…」


 

 草原を吹きすさぶ風の冷たさに、少しぶるっと震えがきた。着の身着のままでの不安はあるが、考えてもどうにもならない気がして、一旦現実逃避をする。異世界記念にこの絶景を納めよう。

 

 

「この景色はなかなか見れないよな。」


 鞄からスマホを取り出し、カメラを起動した。


 


「これからどうするかなー。」


 ふと、手元のスマホに意識がいき、会社や友人などと、連絡できないか気になった。チャットやラインは全滅だったが、マッチングアプリは起動した。なぜマッチングアプリだけが?と不思議に思う。とりあえずは会う約束をしていた女性に断りの連絡をしないとと思い立つ。


 離婚歴があり、その際のあれこれで女性不信気味の自分にとって、10年経ったからとリハビリで始めたマッチングアプリは難しいものだった。


 いろいろな個性ある女性とお会いしたが、疲れるだけでもう辞めようかと思っていた。これが最後と思いマッチングしたまゆさんは、これといって文章が素敵だとかはなく、ただただ普通のやり取りであるのになにか心が惹かれた。占いは宝くじを買う時ぐらいしか見ないが、これが相性というものなのだろうか。

 


 (会ってみたかったな…)


 

「申し訳ございません…と」


 謝罪の文を送ると、すぐ返信がきた。あちらも用事があるようだが、やりとりを続けてくれることに少し喜びが湧く。


 

「異世界きちゃった…って冗談と思われるよな…はは…」


 

 なんだか冗談と取られてもいいから本当のことを言いたくなったのだ。なにか愚痴りたいような縋りたいような。でも嘘つきとバカにされたくはなくて、冗談めかしてはいるが、その返事にのってきてくれたことがまた嬉しかった。数分のやり取りであったが心が温まった気がした。

 


「…っしゃ!」


 とりあえず海に向かおう。岩が風よけになるかもしれないし、なにか発見できるかもしれない。


 最後にもう一度スマホをみると、さっきは気づかなかった知らないアプリがあった。





  

「家のマークに………これはもしかして……。」


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