Y-13 異世界甘味
「まこっちゃんおそいぞー!」
「おいちゃん、のどかわいたー」
「おぅ、すまんすまん!甘い果物も買ってきたからあとで食べような!」
各自に飲み物を持たせるべきだったなと、スマホでペットボトルを購入し、カバーに入れカモフラージュする。
少し街から離れたら軽トラを出し、お昼までは街道を走り続ける予定だ。
「おーい!そこの!魔道具乗ってる人ー!」
「ん?」
もうそろそろ休憩にしようかと、街道沿いから離れていると、向かいから来た三台の荷馬車を引き連れた男性に声をかけられた。
「呼び止めてすまんな!その魔道具の乗り物は登録されてたのか?」
「いや、まだしてないんだよ。」
「なんだ開発者か!しかもまだ登録してないのかー。馬いらずで素晴らしいのにな。早く登録頼むよ。うちもこういうの欲しいんだわ。」
「燃料問題があって検証中なんだ。」
「かー!そりゃそうか!飼料いらんくても他に動力かかるわな!うまいこといったらすぐ登録してくれよ!じゃあな!」
前もって用意していた説明で納得して、何度も登録を念押ししながら商人らしきおっさんは去っていった。
「それを寄越せ!とかならないんだな。」
「そりゃ、野盗だぜ。ここらじゃ金で手に入るなら金を使うぞ。いらん恨みまで買うことないってな。」
思ったより殺伐としていない異世界に、自分のポテンシャルへの不安から少し安心してきた。しかし、野盗もいることを忘れず行動しようと戒める。
「昼はご馳走するよ!」
白銀の風の皆もまとめて食事を用意する旨を伝える。あまり手の込んだ繊細な料理はできないが、バーベキューではよく作る担当だった。
「なにつくんのー?」
「にくー!肉くれー!」
「にーく!にーく!」
子供たちの肉コールがすごいので、申し訳程度に肉も追加しよう。アレックスが手伝ってくれ、人数も多いのでバーベキューコンロを二台置き、火を起こしていく。先ほどの市場で手に入れた大振りの海老とイカを使い鉄板パエリアを作る予定だ。
「まだー?」
「ちょっと待ってなー。これで蓋して十分かな。」
「はらへったー。」
「にくぅー。」
待たせるのも可哀想なのでジャーキーを購入し皆に分ける。子供たちに甘いかもしれないが、親がいなかったり売られたり過酷な人生の中に、甘やかすおっさんがひょっこり現れてもいいだろうと心の中で正当化しておいた。
「いい匂いですねー。」
「魚介類の焼ける匂いはいいよな。」
「俺ら肉ばっかだしなー。てか、この干し肉うますぎる!」
「まあ、魚は痛みやすいしょうがないわよ。」
端っこで米に火が通ったのを確認して、皆によそっていく。
「「「「「「いただぎーす!!!!」」」」」」
「これうま!宿で食べた米とまた違うな!」
「おいしー!まこっちゃんてんさいよ!」
「エビっはじめて!」
鉄板パエリアは米粒一つ残らず綺麗になくなった。食後に地球では見たことのない果物でデザートだ。丸みを帯びた六角錐で薄っすら半透明な黄緑の果物。錘の頂点のヘタを取り、そこからチューペットのように中身を吸うらしい。アロエゼリーのような食感で杏仁豆腐のような癖のある甘みが口に広がる。
「うまうま!」
「あまーい!」
「うまいなこれ。クセがあるのに口当たりはさっぱりだ。」
「ユコンって言って、聖王国の左隣、オルホン王国で採れる果物なんですよー。柔らかいので輸送は大変ですが腐りづらいので船乗り達に重宝されてます。」
食後の休憩中、オリバーが持っている本をみせてもらう。やはり文字が全くわからない。考えてもわからないので、とりあえずノートに写し、訳も聞きながら記入していく。
「おっさん、これおっさんとこの文字?」
「あぁ、そうだよ。」
アレックスが日本語で書いた訳の方を指差し聞いてきた。
「これよめないや。家にあったやつはいけたけどなんでだろ?」
謎は解き明かされた。いや、かなりのヒントに真相究明にむけて一歩進んだかもしれない。
「お、室内ってか家の範囲だと読めるってことかな。今晩もっかい試してみるか。」
休憩は終わるので、ページの残り部分を撮っておこうとスマホを取り出す。
「翻訳アプリは入れてなかったんだけど……。」
カメラで映し出すと文字に並んで日本語訳が記載されていた。




