Y-9 異世界登録
街が見えてきたところで小休憩をする。先にダニエルとジャックが野盗を引き渡しに行き、手続きをして戻ってくるそうだ。
「山田さん、これ魔物と野盗の報酬。貰ってくれ。」
「いや、俺なにもしてないよ?」
「いや、いや、山田さんの家がなかったら俺達だけじゃ無理だったし。」
「いやいやいやいや……」
お互い譲り合い、なんとか折半で話は納まった。本当のところ、異世界のお金を実際に触れることに少し興奮した。棚からぼた餅で現地の金銭を手に入れたので大事にしよう。
軽トラを収納し、歩いて街門へ向かう。歩きの遅い年少は荷台や馬に乗せ、大人が横に付き添う。アレックスとジョンとリックは一緒に並んで歩いていた。衛兵はいるが、検問などはなく、思ったよりスムーズに入れるようだ。
この街はこのまま反対側の門まで通り抜け、次の街で宿泊予定だ。
薄茶色やグレーの石造建築が並び、市場のようなところや、いろいろな店舗、歩く人々等、まさに異世界の様相で感動が寄せてきた。
「まこっちゃんきをつけな。」
「お、ありがと。」
リックが袖を引っ張り、人とぶつかりそうなところを助けてくれた。
「……っち。」
通り過ぎ際に舌打ちが聞こえ驚く。今のはもしかしてスリなのか。全く気付かなかった自分に、平和な日本人の感覚以上に鈍すぎるのではないかと不安になる。東京に住んでたこともあり、人込みには慣れているつもりでいた。
「もうすぐ次の門が見えるぞ。」
「あー、早く酒飲みてー!」
「すぐ着くでしょ。次の街の宿までなんだから我慢して。」
門が見えなくなるまで経ってから、軽トラを出して皆乗り換える。次の助手席はレオだ。ちゃっかり三番手をゲットしていたようだ。
「町中はやっぱりスリとか多いのか?」
「まぁ、場所によるかなー。皇都だと絶対無理だね。そこら中に騎士様がいるし。」
「皇都って一番大きな都市だろ?やばいところもありそうだけど。」
「それは外縁部の都市にあるぜー。皇都近くは聖獣様が闊歩するからやばいことあんまできないんよなー。目に入ったら雷落とされるし。だから辺境の方がちょっとやばいわなー。」
ダニエル達が拠点としているところも辺境になるが、近くに魔獣や魔物の多い森があることから、冒険者の街と言われるほど冒険者が溢れているらしい。冒険者が拠点とすることで抑止力になり、やはり犯罪者は少ないとのこと。
「冒険者も街にいい顔したいからさー。生活するなら住みやすい方がいいし。親族とか普通に住んでたりするしな。」
破落戸も多いのかと思えば、帝国で冒険者になるには証明書がいるらしい。どこの村でも長が責任を持ち、国の経営する孤児院もしっかりと、証明書を書いてくれるそうだ。結構各取り締まりも厳しく、異世界あるあるな絡んでくる冒険者は少なそうで安心した。
「今日はこの宿で休みましょう。」
「ここは肉が美味いんだ!」
少しだけ奥まったところだが、きちんと掃除され清潔そうな宿だった。冒険者の2人と女子は一緒に個室へ、男子はまとめて大部屋でごろ寝となった。初めての藁ベッドにテンションはあがり、ここの宿以外は虫が酷いと聞き怯え、この冒険者達との出会いにまた感謝した。
「この出会いにかんぱーい!!!」
「うめー!」
「その肉!おれの!」
「おいおい、取り合いするなよー。追加で頼むから。」
嗅いだことのない香辛料が効いた骨付き肉に齧り付き、滴る旨味と独特な辛味にぎょっとする。
「うまいなこれ!この味付けってなに使ってるんだ?」
「共和国の海側でよく使われるミルンですね。生で使うと一番うまいんですけど、この辺りでしか育たなくて帝国には乾燥しかないんですよねー。」
「ここらじゃその辺の道端にも生えてるのになー。」
癖になる食事と欧州産の甘みのあるエールに似た酒で気持ちよくなり部屋に戻る。子供たちに一人一人ハミガキや着替えを持たせていたので、外の共有井戸で皆で寝支度を整えた。
「その袋便利ですよねー!思いつきそうで今までなかったし、登録されてないんじゃないかな?したほうがいいですよー!」
「登録って?」
子供たちの荷物は無地の布のナップザックをまとめ買いしていた。ナイロンのリュックより、布で巾着型は文化的にも馴染むかと思ったが、形が珍しいらしい。商品登録は特許のようなもので、アイデアがあるものは皆気軽に利用しているらしく、明日登録してから出発することになった。




