20. 涙がちょちょぎれる
片付けをはじめると、散らばるゴミに混ざり、白銀の楕円状の板が何枚か落ちていた。
「うわ!なんかめっちゃ綺麗なのあるよ!」
『おお!白龍の鱗でなはいか。運がいいな、貰っておけ。』
「えっ!いいのですか?」
「すごくきれいだよ!」
「にいちゃ、いっちょ!」
「ほんとだロバート君の髪の色に似てるね。」
なんだか凄そうなので、もしも生活に困ったら売れるかもしれないと、邪な大人(アラサー女)は考えていた。
フェンリルは構われるのが嫌らしく、今は岸部で寛ぎたいとのことで放っておいてほしいとのことだ。次いつ会えるかもわからないそうなので、とりあえずは今までの感謝を伝え家へ入った。
『男子はたまにスピカを見せにこい。ではな。』
アルフォンス君は午後の通信において、補足事項ができたと事前連絡に向かった。結界やフェンリルのことだろう。
二人には冷えた体をこたつで温めてもらい、幼児が愛するパンのアニメを流しながらお昼ご飯を作る。さっそく魔魚を一匹捌いてみよう。鱗は簡単に引き抜けるそうで、軍手でどんどん抜いていく。アリスちゃんサイズというと言い過ぎだが、かなり大きく処理するのも一仕事だ。
内臓を処理するとピンポン玉サイズの宝玉のようなものが出てきた。いわゆる魔石だろうかと避けておく。三枚に卸すと金目鯛やノドグロのような脂ののった白身が見えた。煮ても焼いても美味しいらしいので、今回はアクアパッツァつゆだくバージョンにしよう。
「なにかお手伝いできることはありますか?」
連絡が終わり、アルフォンス君が手伝いに来てくれた。
「あ、んじゃあこの野菜でサラダ作ってくれる?」
「了解しました。」
あとは、アクアパッツァの旨味溢れる出汁を少し使い、キノコのパスタを作る。子供分を取り分けてから、大人用は少し唐辛子と混ぜ合わせる。
「その細長いものはなんですか?」
「へ?これはパスタだよー。食べたことない?」
「これがパスタですか!南方の方でよく食べると聞いたことがあります。どのようなかんじか楽しみです!」
「へー。アルフォンス君がいたところだと珍しいんだねー。」
食いしん坊が移ってきたのかアルフォンス君の目が楽しげに輝いている。そして、いつの間にかカウンター越しに3匹の目が覗いていた。
「もうすぐできるからお手々洗ってきてー。」
「はーい!」
「あーい!!!」「きゃん!」
くすくす笑いながら盛り付けの準備をする。スピカには乳児用のハイチェアを出し、そこに座ってもらおう。
「いただきます!」
「「いただきます!」」「いちゃじゃきましゅ!」
調理過程では他の魚と同様であったのに、口に入れた瞬間ほろほろと崩れるのはどうにも表現ができない。口内すべてが旨味に染まる衝撃に絶句した。
「おいちいーーーー!!!!」
「美味しいです!」
「おいしい!!!」
「きゃんきゃんきゃん!!!」
「おいしいねー!これは明日も釣りしよう!」
食後すぐ通信ができるらしい。通信機器に付いている色違いの石をなぞり、ぴかぴかと光った後、通信が始まった。
〈こちら、帝国騎士団団長ブライアン・メンデレスだ。アルフォンス聞こえるか?〉
「はい!聞こえております!」
〈では、セントローレンス侯へ代わる。〉
〈ロバート、アリス聞こえるか?〉
「はいっ!」 「ぱぁぱ!!!…どょこ?」
〈元気にしているか?ケガなどしていないか?〉
「はい!まじょさまがたすけてくれたのでげんきです!アリスも……いっかいないたけど、げんきです!」
「ぱぁぱーどょーこでちかー?」
「ちちうえ!!!アリスがけいごをつかいました!」
〈ははっ!元気なようだな。安心した。私達も迎えに行くから移動頑張るんだよ。これから毎日通信するからね。〉
「はいっ!がんばります!……はやくあいたいです。」
〈私も会いたいよ……。私も頑張るから三人で我慢しよう!〉
「ふふっ!みんなでがまんしましょ!」
これ以上は崩壊すると、鼻水が垂れる前に席をはずした。




