18. ダイヤモンドフィッシュは美味
庭先、湖のみぎわにはあの日の荘厳な生き物がくつろいでいた。
「フェンリル……!」
「おっきぃ!わんわん!」
指差すアリスちゃんの手をそっとおろすロバート君も、皆開いた口が塞がらないという表情だ。
『なんだか人間が増えたな……繁殖するのはそんなに早かったか?』
「……はっ、我々は転移事故により、一昨日こちらへと参りました。私、アルフォンス・ヴェーザーと申します。恐れ多いことでございますが、貴方様はフェンリルの王レグルス様でございましょうか?」
『うむ。その名は久しいな。昔そのように呼ばれたこともあったな。』
「やはり……!我々、森を抜けるため移動を検討しております。再三にわたり失礼いたしますが、お尋ねさせていただきたく……この白龍の息吹が舞う頃、森との境界はどのようにしたら抜けられますでしょうか?。」
『ん?……あぁ、あれは我が結界を張っておる。この時期人間がうろちょろとうざったくてな。出る分にはなにもない。』
「ご回答感謝申し上げます。」
膝をつき首を垂れ丁寧に対応しているアルフォンス君の横、同じように膝をついていたが、アリスちゃんが突進しようとするのを止めるのに忙しく、話が入ってこない。
『うん?……おう、ほれ、そこのちっこい男の子、少しこちらへ来い。』
「はいっ!」
ロバート君が呼ばれ、少し前へ出る。アリスちゃんの抵抗が激しくなるが、抱きしめながらはらはらと見守っていると、フェンリルのお腹の下から何かが飛び出してきた。
『きゃんきゃんっ!』
『ふむ、やはり相性がよさそうだな。おぬし、こやつの面倒をみよ。』
「このこのめんどうですか?」
フェンリルを小さく小さくした可愛らしい子犬が、ロバート君の顔を嘗め回している。
『そうだな……たしか主従契約だったか?それをしておけ。おぬしの一生が終わるころには、こやつも成獣になるだろうから、あとは適当に放っておけばよい。』
「しゅじゅうけいやく……このこのおなまえは、なんていいますか?」
『あー、そやつは育児放棄されておってな、産まれたばかりで名はない。おぬしがつけよ。』
「え、はい。えっと……えっと……うーん、スピカ!スピカにするね!」
『きゃんっ!』
返事をするように子犬が鳴いた瞬間、一人と一匹は光り輝いた。
『よし、これで肩の荷が下りたわ。我は子育てなど面倒でな、丁度よいところにおった。』
「ぼく、がんばります!」
『適当でよい。なんでも食べるが食べんくても勝手に育つのでな。念話は早う覚えてほしいが、まあよく話かけてやれ。』
「わかりました!」
その後、アリスちゃんを交えて水辺で追いかけっこを始めた。アルフォンス君は主従契約の時には、驚愕で顔面が崩壊しかけていたが、今は微笑んで子供達を眺めている。
「あ、もしかしてあれがダイヤモンドフィッシュ…?」
「はい、あれですね。」
「アリス、スピカ、あのさかながダイヤモンドフィッシュっていうんだよ」
「おいちぃ」
アリスちゃんは、ちゃっかりアルフォンス君の話を覚えていたようだ。食いしん坊の真髄に触れた気がした。
『うむあれは美味であるな。』
「あの、あの魚って捕ってもいいですか?……あ、でも、たしか殺生禁止でしたっけ。」
ロバート君とフェンリルのやりとりで、なにか親近感が沸き、あれほど畏怖していたのに気軽に話しかけてしまう。しかし、さきほどまで釣りをする気満々であったが、殺生禁止のことをはっと思い出した。
『あぁ、食って構わんぞ。』




