Y-7 異世界戦闘
「アレックス!ジョン!リック!ロン!早くこっちに!」
一人一人持ち上げて柵を乗り越えさせる。渋々な顔の双子をアレックスは叱り、泣きそうなロンを抱き寄せている。
振り返るとちょうど、女の冒険者が転げたところへ、馬に乗った野盗が襲いいかかった。そして、何かにぶつかり馬ごとひっくり返った。
「……ん……?」
三者三様に頭上にクエッションマークが見えた気がした。
そこからの立て直しは、やはり能力や経験の違いか、冒険者が一足早かった。見えない壁を利用し、畳み掛けるように攻めあげた。魔物は倒れ、野盗は動けない者を置いて2人ほど逃げて行った。
「あ、ちょうど百メートルなのか……。」
見えない何かは、この家の安全地帯の範囲とちょうど合う。こんな露骨に境界を通れた冒険者は、自分たちに害はないだろうと見当をつけ、少し近づき声をかけた。
「大丈夫か?」
「あぁ。え!?聖女!……ではないな。末裔様ですか?」
「あ、いやー。そんなかんじ、なのかな。」
「末裔様、助かりました。すみませんが、仲間もこちらへ呼んでもいいですか?」
「あ、敬語じゃなくていいよ。他には何人くらいいるんだ?」
馴染みの商人の護衛中野盗に襲われ、商人を逃がす2人と引きつける4人で別れたそうだ。そこへ魔物が現れ乱闘になり、移動していたらここへ逃げ込む形で助かったとのこと。この安全地帯の範囲に商人が入れるかは判断できないが呼ぶことは大丈夫と伝えると、リーダーらしき冒険者は自信があるようだ。
「あいつは本当に根っこからいいヤツなんで。」
胸元からネックレスを取り出し、トップの飾りを握り込むと中で光が点滅した。
「あっちは馬だからすぐここへ着くと思う。今日はここで休ませてもらっていいか?」
「ああ、構わないよ。でもあれはどうするんだ?」
他の冒険者たちが置いていかれた野盗を縛り上げてる。距離があるからまだいいが、魔物も解体しているようだし、血なまぐさいのは少しきつい。
「仲間がアイテムバックを持っているから魔物は片付けるぞ。野盗たちは……子供たちの目に入らない所に放置かな。」
ベランダの手すりに7人の顔がへばり付いていた。ジョンとリックはイスに登って手すりの上から覗いている。
「ははっ!そうだね。見えない所に宜しく。」
冒険者チームは白銀の風といい、リーダーはダニエル、商人も含め皆同じ村の出身で幼なじみだそうだ。帝国西部を拠点としており、行商で共和国へ入り、少し聖王国へ商機を探しに入ってみたら今回の通りだそうだ。
「聖王国は荒れてるとは聞いたが、聖流の近くで魔物が現れるとは思わんかったよ。」
「聖流ってなんだ?」
「この大陸北部にフォーマルハウト山脈があるんだが、そこから流れるこの川はこの時期は少し聖気が含まれてるんだ。だから川沿いは安全だと思ったんだが。」
「ダニエル、オリバー達が見えたぜ。」
解体していた他のメンバーも集まってきた。日本人男性の2倍はありそうな熊の獣人がジャック、まだ中学生くらいの獅子の獣人がレオ、高校生くらいの女の子がユリヤというらしい。商人がオリバーで、付き添っていたメンバーの女性がユリヤの姉アメリヤと、ひょろっと背の高いのがマイクとのこと。
幌馬車と2頭の馬が範囲内をなんなく入ったようだ。遠目からも目立つケガはなく、お互い安堵しているのがわかる。
「おーい!紹介するよ!こちら末裔様の山田さん。山田さん、このちっこいのが商人のオリバーだ。」
「はじめまして!末裔様にお会いできるなんて!オリバーと申します!宜しくお願いします!」
「あー、敬語は大丈夫だよ。知らないことが多いからいろいろ教えてくれると嬉しい。宜しくな。」
冒険者たちは日も暮れてきたので夜営するためテントなど設営を始めた。オリバーは話し相手で残ってくれるようだ。
こちらの事情も話し、それだったらと彼らの拠点がある、帝国西部の大きな街まで一緒に行かないかとなった。川を渡ればすぐ共和国の町があるそうで、まずは捕まえた野盗を警邏に引き渡し、そのまま共和国を縦断し冬までには帝国に入ろうとなった。




