A 現状確認
謎の騎士視点
伯爵家次男である俺は、自らの力で身を立てるため騎士を志した。この秋学園を卒業し、研修の為皇都の東地区へ配属されたばかりだ。
夕刻時、本日の班の訓練報告の為、隊長の元へ向かっていた。入室許可をもらい扉を開けた瞬間、一面雪景色で束の間思考が停止した。
雪が頬にあたる冷たさにはっとし、現状確認を開始。
壮大な山脈に麓の平地、そして後ろには森。
これは伝承でしか知らない白龍の住む地ではないか。
遭難時のマニュアルを思い出し、森林内での安全確保に動く。夕刻であるので急ぐ必要がある。この時ほど土属性に感謝したことはないのではないだろうか。風雪被害が少ない場所に壕を作り、枝薪の収集をしながら周囲の調査を始めた。
「馬車にしては車輪が大きいが……」
森林の中、なにかの通った跡がある。木々の間には大きな間隙があり、道のように続く形跡は今夜積雪量が多くても見失わないだろうと検討をつける。
「馬鹿真面目と言われてもさすが俺というべきか……」
訓練時であろうと常時騎士の標準装備を所持していた。小量しか保管できないが装備品のアイテムバッグには通信機器や保存食と水筒、少量の薬に着火用具とマントが入っている。
「現在地を送信して、本部との通信を試すか。」
しかし、位置を送信したら魔力残量はゼロになってしまった。ここがあの有名な山脈の付近であるならば通信範囲内なのだが、やはり白龍の息吹が影響しているのだろうか。
拾ってきた枝を火に焚べ暖を取り、寝ずに過ごした朝、薄暗い中太陽の光で浮かび上がる山脈の美しさに圧倒された。
速やかに装備を整え、空気を胸いっぱい吸い込んで気合いを入れた。
雪に足を取られながら、昨日見つけた轍の場所まで急ぐ。ここからはこの広い道なりになっている間隙を進む。どこまで続いているのだろうか。他に転移者や生息者はいるのだろうか。
全部隊の行軍訓練に雪中も含めるよう進言することを誓いながら、六時間ほど経っただろうか前方に湖が見えてきた。
微かに子供の声が耳へ届き、周りを見渡すと対岸に建物が見えた。はやる気持ちを抑え、声の元へ進む。近づくほどに全貌が見えてきた。
「あれは…………魔女の家だろうか……」
遭難時マニュアル
冷静になる→安全確保→通報・連絡