Y-30 異世界交渉
「ここは魔導鉄道のちょうど交差するところでして、帝国中のものが集まるとされています。本日お取りいたしましたお店も名物が多くご満足いただけるかと思います。」
トマスが予約してくれたお店はホテルから斜向かいの小洒落たレストランだった。あまり敷居の高い見た目ではなく、日本だと昔からあるようなレトロな喫茶店だろうか。大所帯での来店だったが快く迎えてくれ、隅の一角を間仕切りで分け人目をきにしないよう配慮してくれている。
「お!トマトかな?パスタもあるみたいじゃん。」
少しずつ取り組んでいる勉強の成果でメニュー表のうちいくつかは読み取れる。
「トマトをご存じでしたか?」
「おれもしってるぜー!」
「おいちー!」
子供たちは鼻高々に赤くて美味しかったとトマスとランス達へ自慢している。文字が分かることも嬉しいのか、それぞれが目についた一部読めるもので注文を決めていく。自身もトマトのパスタだろうと検討をつけ試してみよう。
「おー!ラクレットチーズだ!」
トマトソースのパスタが運ばれ、目の前でチーズの塊を魔導具で溶かし麺の上へとろっとかけてくれた。
「「すげー!!!」」
「なにしょれー!」「いいなー!」
「わたしはおなじのたのんだのよ!やったー!」
「うげー!おれやさいだー!」
子供たちが騒ぐのも気持ちはわかるので、他が頼んだ白身魚の揚げ物や、肉の煮込みなど、野菜も皆でシェアすることにした。
楽しく美味しい食事が終わり一旦ホテルへと戻る。今日もチビ達がお昼寝中に少し魔導言語についてまとめたく、陣の入手や現金化などができないかとギルドの場所をトマスに尋ねた。
「そちらについて、上層部と話がつきまして少しお話したいことがあります。」
子供たちとまた分かれ、先ほどの部屋で話を聞く。
「帝国としましては、こちらが保持しています陣について、条件付きですが山田様への公開に許可がおりました。」
「条件ですか?金銭ではなさそうですね。」
「はい。近くで目にされているこちらの通信機や魔導鉄道など、昨今の最新の陣を用いた魔道具は、数年前まで帝国にいました末裔様の作品になります。国営の事業として権利など譲渡いただけたのですが、我々の把握していない全く新しい魔導言語など含みまして、不明な点が多いのです。」
「それは……わざと教えていないとかでは?」
「いえ……何度もご教授いただけたのですが、なんといいますか稀代の天才と称されるほどの方でして…………万人には理解し難く……。」
話しぶりから感覚型の天才だったのだろうと察した。
「あぁ。それは苦労しましたね。ということは、私の持つ神器で翻訳してほしいとのことでしょうか?」
「そうですね、翻訳が主になります。また一部一部詳しく言語の説明もいただきたく、有識者を集めて講義をお願いしたいのです。」
「それは……私は人に教えられるほどの知識を持っていませんが……。」
「それでも、我々よりは理解されているかと。言語と呼んでいますが、この世界で言葉として読み取れる者はいません。このときはこの範囲が当てはまるだろうと、長年予測を積み重ねて知識を蓄えてきただけなのです。」
期間は一旦三ヶ月、伝授できなくても結果の成否関わらず、もちろん報酬も用意されているそうだ。元々、子供たちの件が落ち着いたら皇都へ行く話であったので、その滞在時に実施したいと希望されている。契約を結ぶのならば、講義の前に陣の提供は可能とのこと。
「とても有難い話です。私の知識が助けになるかわかりませんが、ぜひお話を受けたいと思います。」
そのまま国お抱え魔導士として職についても構わないそうだが、まだ定住先を決める気はなく、候補として念頭においておく。人柄もいい国で安定した職場だろうとは思うが、他の国もなにも知らないまだ移住先の決断できない。
契約書もミニテントを出し、しっかりと確認を取ってからサインをする。あとは、ランス達とのすり合わせだがトマスのみで対応できるとのことで客室に戻ることにした。




