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62. 医者いらず



 「あ、椎茸!……ねぇねぇアルフォンス君携帯使っても大丈夫かな?」


 見覚えがあるすぎるキノコが端っこにあり、こそこそとアルフォンス君に確認をとる。


 「魔導具として使いましょう。この場くらいならば大々的に使うわけではないので大丈夫ですよ。」


 もう頼りまくっているアルフォンス君の言に安心して、携帯を取り出しかざしてみる。


 「やっぱり!椎茸だ!あ!松茸まである!最高!!!」


 「これはしいたけって言うんですか?」


 「そうだよー。干し椎茸はあったりする?」


 どんこ椎茸のような大振りなものが並び、テンションがあがる。松茸の他にもたくさんの種類が並ぶところを見ていると、以前も作ったが、今回はこちらの食材をたっぷり使ったキノコ炊き込みご飯を作りたくなった。干し椎茸で出汁をとれれば最高だ。



「すいません、それって干し肉みたいなかんじですかい?」



 ハテナマークが浮かぶ子供達を見て気にかけてくれたのか、お隣のおばさんが声をかけてくれた。こちらでは見分けがつかなく危ないとのことから平民にキノコを食べる習慣はなく、保存食品といえば干し肉や野菜の酢漬け、オイル漬けが基本らしい。



 「キノコを天日で干すと日持ちするようになるし、また違った栄養が多くなるんですよー。」



 栄養も皇都の学校では少し習うそうだが、漠然とした知識であまり普及していないようだ。風邪などの病気になりにくくなることや、冬の鬱々とした気分にも効果があると伝えると驚かれる。辺境領では雪が多く降り青空も減ると聞いていたので、冬場の栄養補給として大事だと勧めてみた。



「まゆ様、この件は領主様へお伝えしていいでしょうか?」



 先ほどまでにこやかに控えていたゲルダが真剣な表情で尋ねてきた。この地方では冬場に感染症が広がりやすく死者もでるそうだ。少しでも予防法となるものは領主に報告する必要があると申告してきた。



 「そうなんだ……あ!お隣さんのところに柿あるじゃん。柿は医者いらずっていうしこれも冬場におすすめだよー。」


 「はあ。そうなんですかい。ただ甘い柿は少量しか取れないんですわ。雪が降るとなくなるしねぇ。はずれは森で大量になってるんですがね……。」


 「はずれってどんなのですか?」



 お隣は果物屋さんのようで説明してくれたところによると、はずれは日本でいう渋柿なのではと検討がついた。陳列している果物も一部は栽培しているが、柿はできのいいもののみ、目処がついている木へ採りに行っているとのこと。



 「はずれのところの場所はわかりますか?」


「おれ知ってるぜー!」



 きのこ屋さんの男の子が元気にアピールしてくれた。



 「ほんと?案内お願いしていいかな?私も冬支度したいし、干し柿作ろうと思うんだ。」



 肉以外に干すことがないそうなので、干し柿もないだろうと説明する。



 「あれが甘くなるの?」

 「すげー!おれあんないする!」


 「ありがとー。本当甘くなるの不思議だよねー。あ、明日の予定聞いてもいい?あと親御さんに挨拶したいんだけどおうち行ってもいいかな?」


 「まゆ様、まず作り方を登録しましょう。その後私のほうで保護者の方と取次いたしますので、採取の日程は後日決めましょうか。」



 先走る発言にアルフォンス君からやんわり訂正が入る。今日はここで買い物したあとは商業ギルドへ寄り、登録用紙をもらったら昼食を食べ帰宅となるようだ。地理に明るいゲルダが子供たちの住まいの確認などやり取りをし、キノコ類をいくつか買ってその場を離れる。



 「ありがとう。また今度案内よろしくねー。」


 「「「はい!ありがとうございましたー!」」」







 「登録って難しい?」


 「すぐ終わりますよ。開示の料金設定はいくらにしますか?」


 「え、それしないとダメなの?だったら登録しないでいいよー。」


 実家のまわりや田舎では誰でも作って食べているので、有料にするのはなんだか嫌だ。美味しい物は皆で食べられる方がいい。幸せは分け合うと増えるという持論がある。


 「あの子たちが食べれないとか可哀そうだしさ……。」


 「それでしたら特に登録はしましょう。別人が有料登録してしまうかもしれません。まゆ様のほうで無料登録すれば安心です。」


 「そうなんだ。じゃあ、ちゃちゃっとやっちゃおう!」


 「まゆ様!ありがとうございます!さすが魔女様です!」


 「いやいや魔女じゃないよ。」



 ゲルダは平民出身であり、親族もそんなに裕福ではないそうだ。そんな中小さな甥っこは冬になると熱を出しやすく、家族全員毎年ひやひやしているそうで、栄養あるものの話だけでも有難いとテンション高く握手を求めてきた。

 

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