尻尾切り
思うところあって、既存のお話を全部読み直して推敲しました。
読みづらい表現や分かりにくいところは随分減ったと思います。
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女神様のちょっとした思いつきで追い詰められちゃった人がいます。
リモーネ王は、玉座から目の前に蹲る男を見下ろしていた。
男は先刻より王の目の前に蹲ったまま身じろぎ一つしない。
元は豪華だったろう衣装を纏っているが、それは最早、埃と煤とそして血であろうか?どす黒い染みで汚れ、今は見る影もない状態へと変じてしまっている。
いつまでも一言も発しない男に痺れを切らして、目の前の男に声をかける。
「それで、其方は余にどうして欲しいと言うのだ?王宮に駆け込むが早いか、余の名を連呼してこの場に参ることを切望しておったと聞いているぞ?そのように黙りこくっておっては何も分からぬではないか」
目の前の男はかつてはリモーネ王自身からでさえも「猊下」と尊称をつけて呼ばれていたはずだが、今は他の臣下と同じく「其方」とだけしか呼ばれない。
おそらくはその事自体が腹に据えかねるのであろう。ギリと歯を食いしばる音が謁見の間に響き渡る。
一瞬の後、何とか平静を取り戻したであろう男が朗々とした声を張り上げる。
「スフォルツァ領にいるという、ジャンフランコという少年の身柄を貰い受けたいのです。我が教会のとある聖職者によればあの者は女神ソフィアの使徒であると言うではありませんか。あの者さえ手元に置くことができれば、我が教会は再び女神の代理人として陛下をはじめこの国の貴き方々のお役に立てるはずなのです」
周囲の重圧を跳ね返したつもりなのだろう。
男は先ほどよりは心なしか血色がよくなった顔で王を見上げている。
「ほぉ。其方は、ジャンフランコという者の素性を知らぬようだな?」
「年若くして商会を営んでいるとか?でも所詮は一商人であろう。そのような者、陛下のご威光をかざせば伏して出頭してくるのではありませんか?」
「今はスフォルツァ領、つまりは隣国にいる者だぞ?そう簡単にはゆくまいよ」
「あの者の商会はリモーネにあるのだろう?財産を安堵するとか言えばノコノコと国境を越えて出頭してくるでしょう。そこをひっ捕らえるのです」
王は目の前の男の言葉遣いが次第に尊大になっていることに気づいてはいたが、今更指摘しても詮無いこと、と放置している。
「ふむ。其方はあの者のことを一介の商人と呼ぶが、その商人がどれ程の力を持つか知らんのではないか?」
「あのような年若い商人に何ほどの力があろうか!」
「知らぬとはなかなかに度し難いものだのぉ。ジャンフランコはおそらくリモーネで最大の基金を思うがままに動かし、莫大な利益を上げている者だぞ」
「いや、王よ。わしを揶揄うのも大概に」
「彼の基金の資金はこの国のありとあらゆるところに入り込んでいて、彼に睨まれるだけで貴族家の一つや二つ簡単に破産させられるし、下手をすると国中の商会を破綻させ、多くの国民を路頭に迷わせることも容易いそうだ」
そうであろう?と側に控える重臣に問いかける。
「御意。現にそこに蹲る男を始めとして、教会関係者のほとんどが財産を差し押さえられ無一文となっているのがその証左でしょうな」
ぐぅと息を呑む男だったが、なおも言い募る。
「あのような若輩者にそのような力がある訳 「あるのだよ。あ奴の手に掛かれば『金』がただの『金』ではなくなる。長期に渡って莫大な利を生み続ける道具へと変ずるのだ。そして、あ奴は更に、『金』を権力や武力に替える術も熟知しておる。あの歳でな。まったく末恐ろしいことよ」 」
「他にもあるぞ?其方もこの国の貴族の心を虜にした数々の魔道具を知らぬ訳ではあるまい?メディギーニ商会を通して売り出されてはいるが、実はそのすべてが彼の少年の手によるものだとする噂もあるぞ。更に、家中の者の報告によれば、固く秘されているものの、他にも見たことも聞いたこともない魔道具が多数ジャンフランコという者の手により生みだされているようだぞ」
「教皇」と呼ばれた男の目は焦点を結んでおらず、『馬鹿な…馬鹿な… 』と呟くだけになっている。
「そもそもだな」王は追い打ちをかける。
「彼はただの一商人ではない。その実、隣国スフォルツァ辺境伯の長子だ。スフォルツァ家と言えば其方も知っておろう?ミルトン共和国政府の攻撃を見事跳ね返し、かつての領地を回復したことが、ここリモーネでも広く知られているではないか」
王自身が天を仰ぎ嘆息する。
「その上、其方を信じるなら女神ソフィアの使徒だと?神の権能まで手に入れたなら、もう誰もあの者を止めることなど出来ぬよ」
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王が背後に控える近侍に何事かを囁くと、一礼した近侍が一通の書状を携えて戻ってくる。
王は恭しく捧げられた書状を受け取り、目の前で開いて見せる。
「さて、ここに噂のジャンフランコ殿からの書状がある。其方も中身が知りたいだろうからな。ここで読んでみてやろう」
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親愛なるリモーネ国王陛下
私は今、わが身に迫る難を逃れるためにお国を離れ一時帰国しております。
急な事ゆえ、ご挨拶もせぬままに出国したこと平にお許しください。
如何ともし難い事情により、暫くの間、貴国に立ち入ることは難しくなりました。
我が身の不徳からか、貴国に総本山を構えるソフィア教会に追われる身となってしまったのです。
今リモーネ王国に立ち入れば、すぐさま彼の手の者により拘束され、異端であると謂れなき罪を着せられ審問に掛けられることとなりましょう。
私はこの身を危うくする者がのさばる貴国に足を踏み入れることはできないのです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここからが傑作だぞ」
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さて、私が聞き及ぶところによると、貴国では貴き血を受け継ぐ方々が何人も、とある重大な不都合に直面されているそうでございますね。
それについては、近々解決策をご披露できる見通しが立っております。
ただし、前記のとおり、お国では我が身を危うくする一党が我が物顔で闊歩しております。このままでは私は貴国の貴き方々のお悩みを解決するどころか、陛下に拝謁することすら叶いません。
ついては、ソフィア教会の名の下、横暴を恣にした者どもを捕え、当家に引き渡してはいただけませんでしょうか。
其が叶いますれば、たちどころに貴国の貴き血を受け継ぐ方々のお悩みを解消してご覧にいれましょう。
この件、何卒ご一考賜りますれば幸いにございます。
敬具
ジャンフランコ・スフォルツァ
【追伸】
当家に引き渡された後の彼の者共の行く末については、陛下の御心を煩わせることはないと保証いたします。
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「引き渡せ、だと…?まさか、陛下、彼の者の言いなりにわしを引き渡すおつもりではありますまいな?」
王が長いため息をつくと、それが合図であったかのように、屈強な騎士二人が男の両側から駆け寄り、両腕を掴み床に抑え込む。
「まぁ、そういうことだ。悪く思わないでくれ」
かつて「教皇」と呼ばれた男は両側から騎士に取り押さえられ、猿轡を噛まされると引き摺るように広間から連れ去られていく。
「余も彼の者の不興を買って破滅させられるのだけは御免被りたいのでな」
ジャンフランコ君、めっちゃ恐れられてませんか?
今回の新要素:
・ 特になし
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