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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
教会を巡る騒乱 ー リモーネ王国

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女神の託宣 その二

女神の種明かしが始まります。

 ソフィア教会は、女神ソフィアが自らの権能(けんのう)の一部を何本かの【聖具】として信奉者に分け与えたことに始まる。


 そもそも、天恵(スキル)は広く(あまね)く授けられるものではなかった。女神ソフィアを勧請(かんじょう)した者が女神との間に約定を結んだ上で直接授けられるものであったのだ。


 それを【聖具】を授かった使徒が肩代わりするのは、始まりは女神の威光を広く世に広めようとの善意であったのかもしれない。


 けれど、神の権能(けんのう)へと導く手段が、【聖具】という目に見えるものとして女神の信奉者に配られたことは、一方では天恵(スキル)を獲得する者を増やすことにはなったが、他方で【聖具】を持つ者に世俗的な権威を与える弊害も生んだ。


 好むと好まざるに関わらず、女神に代わり天恵(スキル)を授ける信奉者の影響力は高まっていき、彼らは次第にその影響力と権力や財力を交換するようになる。


【神具】を得て天恵(スキル)を行使できることを権力基盤として王侯貴族という階級が生まれ、一方で彼らはその権力基盤を与えてくれるソフィア教会を無視できなくなった。

 そのため、様々な特権をソフィア教会に与え、多少の悪辣な行いにも目を(つぶ)らざるを得なくなる。その意味では、王侯貴族とソフィア教会は相互依存関係にあった。ある意味「共犯関係」と言ってもいいだろう。


 たが、その「共犯関係」は、ソフィア教会が【聖具】による【神具】の伝授〜女神の権能(けんのう)の代行〜を独占してこそである。それが喪われた瞬間、「共犯関係」もまた、雲散霧消(うんさんむしょう)するのだろう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『其方、魔法や魔道具がどのようにして発動するか知らぬわけではあるまい?では妾が言わんとすることにも察しがつくであろう』

「皆目見当もつきませぬ」

『分からぬフリをしているだけであろう?まぁよい。その方法とはコレよ』


 女神ソフィアがジャンフランコの左手に顕現(けんげん)している【聖具】に手を添える。


 女神自身と女神の手の中にある【聖具】が一瞬、同時に眩い光に包まれる。


『コレで終わりじゃ。効果のほどは、遅くとも一月も待てば目に見える形で顕れるはずじゃ。彼奴(きゃつ)らが路頭に迷うのを気長に待つがよいぞ』


「何をされたのですか?」


『まだ気づかぬか?【聖具】と妾の約定の印を書き換えたのよ』


「あ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジャンフランコが【魔法陣】を解析した結果、すべての魔法、戦技、そして魔道具の根本は、【魔法陣】に刻まれた神々との約定によりその権能(けんのう)を呼び出すことにあると分かっている。


 そして、神々との約定を証すのが、ジャンフランコが「約定の印の【魔法陣】(認証コード)」と呼ぶ【魔法陣】である。これが正しくなければ魔法も戦技も魔道具も発動しない。


「女神様ご自身の『約定の印の【魔法陣】(認証コード)』を変えられたのですね?」

『ようやく正解に辿り着いたな?古き約定を破棄し、其方のもつ【聖具】との間でだけ新たな約定を結んだのよ』

 すべての【聖具】には、変更前の古い約定(の【魔法陣】)が直接書き込まれて(ハードコーティング)いる。だが、もはやその【魔法陣】は女神ソフィア自身の「約定の印の【魔法陣】(認証コード)」とは一致しなくなった。


 喩えは悪いが、パスワードを変更して不正アクセスを遮断するようなものである。


 ソフィア教会が保有する【聖具】は女神を呼び出せなくなった。喩えるなら「古いパスワード」では正しく女神にアクセスできなくなったわけで、何の権能(けんのう)も持たないただの棒(文鎮)へと変じたのである。


『これより、ソフィア教会の持つ【聖具】で勧請(かんじょう)されても妾は応じられないこととなった』ジャンフランコ達は今、女神のニヤニヤ笑いという誰も目にしたことのないものを目の当たりにしている。


「その結果、ソフィア教会は女神の代理人の立場を失い、影響力も失うわけですね」

 その変化はすぐには顕れないだろう。だが、ゆっくり確実にその変化は進行していくはずだ。


『さて、ここから先は其方ら人の世の(ことわり)を用いて彼奴(きゃつ)らを追い詰めるがよいぞ』


『そして、其方の持つ【聖具】が唯一、我が権能(けんのう)を呼び出す【聖具】となった。我が使徒として励むがよいぞ』

 楽しげな笑い声を残して女神ソフィアは神々の世界に帰って行った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「続けましょうか。あとはそうですね。メディギーニ商会を使って、リモーネ中に噂を流しましょう」


   曰くソフィア教会は女神の加護を喪った。

   これより先、ソフィア教会の聖職者を頼っても天恵(スキル)は得られない。


 この噂が広まればソフィア教会の権威は地に落ちるはずだ。


「どうせやるなら効率的にやりましょう。赤子の出生の近い貴族家をリストアップして、特にその周辺で重点的に噂を流しましょう。使用人を抱き込んでもいい」

 その場にいる全員が悪い顔をしている。

 ゴールが見えたのだ。勢い、いろいろなアイディアが湧いてくる。


「さらに、これは劇薬となるかもですが」と前置きしてジャンフランコが付け足す。

「『教会が売り捌いた免罪符をいくら握っていても、罪が許されることはない。なぜなら、ソフィア教会は女神の代弁者たる資格を喪っているから』うまく機を捉えてこれを流せば、ソフィア教会に対する追い打ちになり、回復不能なところまで追い込めるはずです」


天恵(スキル)で王侯貴族からの支持を喪わせ、その上で免罪符で平民の反発を煽る。悪くありませんね。民衆が返金を求めて教会に押し寄せ、王侯貴族が見て見ないふりをする。その光景が目に浮かぶようです。女神の助力があったとはいえ、ソフィア教会をそこまで追い込むことができるなら上出来ですよ」

 これで後顧の憂いはなくなりましたね、と微笑むジョヴァンナが続ける。

「ソフィア教会が自滅してしまうまでの間、貴方はスフォルツァ領に留まる方がよいでしょうね。貴方は今や女神ソフィアの唯一の使徒となりました。教会も事情を知れば、おそらく貴方の身柄を確保しようと躍起になることでしょうし」


 ジョヴァンナが懸念するのはジャンフランコの身柄を巡って、スフォルツァ辺境伯領とソフィア教会との間で矢弾が飛び交い血が流れるリスクについてである。


「確かに、ソフィア教会を巡るゴタゴタはリモーネ王国内で完結してもらうのが得策ですね。王室には暫くの間登城はできないと手紙を送っておきましょうか」


   先だって高位貴族から「異国の商人が王宮を訪れることを許さない」

   と告げられた。自分に厳しい目が向けられたことを痛感した。

   ほとぼりが覚めるまでスフォルツァに留まることにする。


 先だって礼節を弁えない(躾のなってない)貴族子女にジャンフランコが囲まれて罵声を浴びせられた事件については王室の耳に入っているはずで、王室訪問を控える大義名分としては十分である。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「では、方針をまとめましょうか」

 まず、女神の加護の喪失について噂を流す

 噂の広がり具合を見て免罪符についても噂を流す

 ジャンフランコは当分リモーネには入国しない

「そんなところでよいですか」ロドリーゴが見渡すと、ジャンフランコが挙手する。


「ソフィア教会関係者を洗い出しておいて、免罪符の噂を流すタイミングで一気に手形の現金化と資金の引き揚げをやりましょう。ついでに、メディギーニ商会が保有する免罪符の分、教会資産を差し押さえられるよう教会資産の評価も先に終わらせときますか」


「免罪符については我々が噂を流さなくても、先に民衆に火がつくかも知れないよ」

「ならば、商会には準備時間があまりないと発破をかけないとですね」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここまでの議論の様子と決定された方針は、直ちに伝言の魔道具(メッセンジャー)を通じてリモーネに残るメディギーニに伝えられる。


 彼の返事は「マジかよ」の一言だけだったが、その後、メディギーニ商会から次々と進捗報告が飛び込んで来るようになったことからすると、ブツブツ文句を言いながらも辣腕を振るっているのだろう。


 さて、打つべき手はすべて打った。

 後は結果を待つだけである。

今回の新要素:

・ 神が自身の「約定の印の【魔法陣】(認証コード)」を書き換えると魔道具(や魔法)が使えなくなる。


ジャンフランコ:あれ?これ他の神々にもお願いすれば(悪い顔)


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