女神の託宣
報連相は大事です。
ジャンフランコはフレデリカとフローレンスを伴ってスフォルツァ邸を出発する。今回、メディギーニは同行を固辞した。「きな臭い匂いがするので、ここは俺が留守番しとかないとマズい気がする」とは彼の弁である。
【聖具】に触れる機会を得て神測で解析するだけのはずが、女神ソフィアが顕現してしまった挙句、ジャンフランコを勝手に使徒にして加護を与え、さらには一部始終をソフィア教会の枢機卿に目撃される、と字面を追うだけでも十分大惨事である。
事ここに至ってはスフォルツァ辺境伯領への影響も無視できなくなる惧れがあるため、領主夫妻に報告の上で今後の対応方針について相談しなければならない。
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いつものとおり装甲馬車で国境に向かっていると、スフォルツァ邸を出て暫くしたところで怪しい馬車が少し距離をおいて追尾してくるのに気付く。
『【怨霊】事件の時以来かな、この感覚』
馬車の【隠ぺい】と【認識阻害】を起動して全速力で駆ける。いつもならこれで撒けるはずだが、後ろの馬車はこちらを見失わずに追尾を続けている。
『ありゃ、こいつはなかなか性能のいい【看破】持ちがいるな』
馬車の【隠ぺい】も【認識阻害】もジャンフランコの調整済とはいえ、それを上回る権能を呼び出せる術者がいればその効果は相殺されてしまう。
こういうときは、絶対に上回れない権能つまりは女神と直接交わした約定に加え、女神の加護を受けたジャンフランコ自身の魔法が必要になる。
『秘事の女神様、お仕事の時間ですよ』馬車の【隠ぺい】【認識阻害】を切ると、自身の【魔法陣】を起動する。
『これでどうだ?!』
さすがにこれを【看破】できる術者がいるはずもなく、尾行する馬車はジャンフランコ達の馬車を見失い、ついには追跡を諦めたか速度を落とす。
これでようやく尾行を撒けた、のだが、国境で先回りされては元も子もないので、全速力で国境に向けて装甲馬車を駆る。
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国境を抜けてからはスフォルツァ城へ到着するまで妨害らしい妨害を受けることはなかった。
が、どうやら今回の報告に議題が一つ加わることが確定したようである。
事前に調整していたため、ジョヴァンナの執務室までスムーズに案内される...のだが、城内ですれ違う誰もがジャンフランコと目を合わせるのを避けている、ような気がする。
「あら、また新しく何方かの加護を得たのかしら?」執務室に入室早々、ジョヴァンナから、左の瞳の色を指摘される。
ジャンフランコの瞳は元々秘事の女神と看破の神の加護を受け、使徒となった影響で漆黒と白銀の二つの色をまとっていた。
それが、女神ソフィアの加護を受けたことで左の瞳が七属性の貴色に染められてしまったのだ。
「あの二柱の加護を上書きできたのですから、どれだけ神格の高い御方の使徒となったのか、少し話を聞くのが恐ろしくもあるのだけれど」
「母様、その件はこの後のご報告で」
執務室では領主夫妻〜ジョヴァンナとロドリーゴ〜の他、スフォルツァ城の城代であるダラヴィッラが待っていた。
念の為に執務室の周囲からも人払いするように頼んだ上で、ジャンフランコが【防諜】の魔法を展開し執務室の中で行われる会話一切の漏えいを遮断する。
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「では、最初は分かりやすいものからご報告します」そう言うと、ジャンフランコの左手に【聖具】が顕現する。
「ほぉ。【聖具】はやはり魔道具であったか。【魔法陣】の取り込みに成功したということだな?」ロドリーゴの問にジャンフランコは首を横に振る。
「いえ、正確には【魔法陣】として取り込んだのではなく、【聖具】を丸々一つ授かりました」
「待て!『授かった』とはどういうことだ?ソフィア教会が安易に教会関係者以外に【聖具】を誰かに手渡すとは思えないのだが...まさか?!」
「その『まさか』です」
ジャンフランコが【聖具】に魔力を流すと部屋中が光属性の貴色である白銀の光で溢れる。その場にいた全員が目を覆い、やがて光の奔流が収まると、そこには女神ソフィアの姿があった。
『其方が妾を勧請するのはこれで二度目となるな。して、此度は何用ぞ?』
「まずは、先だっては果たせませんでしたが、使徒としていただいたことについて御礼申し上げます」
ジャンフランコが女神の前に跪く。
「そして、改めまして我が出自について。私はスフォルツァ辺境伯ジョヴァンナ・スフォルツァの一子であります。そして、この場におりますのがスフォルツァ辺境伯とその配偶者、そして余の者は、当家の家臣にございます」
ジャンフランコの紹介を受けて、その場にいる全員が女神に向かって跪く。
「此度は、女神様が御手ずから【聖具】を授かったこと、そして使徒としての加護を授かったことを当家の者たちに知らしめるため、この場に勧請奉りました次第」
『相わかった。だが、それだけではあるまい?』
「御明察痛み入ります。先に勧請奉ったおり、八百万の神々に対し強い負い目を感じていると伺いました」
一息つくと、横から魔力回復薬を差し出してくれるフレデリカに「ありがとう、まだ大丈夫だよ」と小声で応える。
「私は縁あって多くの神々と約定を交わす折、一つのお話を伺っております。皆様、異口同音にソフィア様を悪くは思っていないとおっしゃるのです。曰く、悪しきは人。ソフィア様は利用されただけ、と」
『其方の話真か?にわかには信じられぬ。其方は我が名を騙ってどのような仕打ちがなされたか、知らぬでもあるまい?妾の過ちがあの者らに力を与えた結果、彼奴らの悪逆非道の振る舞いで数多の命が奪われた。それは神々を信仰する者を奪い、権能を弱める行為でもあったのだぞ。そう簡単に割り切れるわけがあるまい』
ソフィア教会はその黎明期、金品を使った有力な集落の長の懐柔と篭絡に始まり、ありとあらゆる悪辣な手段で八百万の神々を信奉する人々を排除し、改宗させ、征服していったのだった。
「いえ、魔力が足りず今この場に勧請すること能いませんが、私を加護する二柱の神々もソフィア様に悪感情を持っていらっしゃらず、また、「教会」の悪逆非道の行いを負い目に感じる必要はないと伝えて和解の場を持ちたいとおっしゃっております」
『左様か。妾を入れて三柱の加護を得て、また多くの神々と約定を結ぶ其方だ。その其方が妾はこの地の神々に赦されていると言うのならば、妾も悔やむのを止めて前を向くこととしよう』
その時、ジャンフランコの意志とは関係なく、右手に『神々への道標』が顕れる。その表紙が開かれると次々とページがめくられ、様々な神々が飛び出してはソフィアの周りを飛び交い、そして虚空に消えて行く。それは神々がジャンフランコの力を借りて、一柱一柱、女神ソフィアに和解の意を伝える姿であったのだろう。
ジャンフランコは急激に吸い出される魔力に堪りかねて、フレデリカから渡された魔力回復薬を呷る。
神々の和解を自らの魔力不足で中断させまいと、必死で歯を食いしばり、次から次へと【魔法陣】から顕現する神々を支える。
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『皆、すまぬな』
その一言を呟いた後、女神は暫し立ち尽くす。
やがて顔を上げ、顔を引き締める。
『じゃが、そうなるとなおさら、我が名を用い、我が使徒を騙る者どもがのさばっておることが腹立たしいの』
すべての神々が顕現し、既に『神々への道標』は閉じられているが、無数の神々の顕現に耐えきったジャンフランコが、更にもう一本の魔力回復薬を呷る。
「次にお諮りしたいのは、正にそのことにございます」
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「ここスフォルツァ領は長く戦乱に巻き込まれたせいか、『教会』の影響下を逃れております」
「一方、隣国リモーネ王国は『教会』の総本山がある関係で、その影響力は隅々まで及びます」
「更には、貴方様が悔やんでおられる『悪逆非道』の正に手先となって動いた者たち〜『異端審問官』と自称する者どもが恐怖でもって反抗の芽を摘んと躍起になっております」
「どうやら、私も先日その『異端審問官』に目をつけられたらしく、彼らと事を構える必要が生じました」
うんうんと頷きながらジャンフランコの話を聞いていた領主夫妻とダラヴィッラだったが、最後の一つを聞いて目を剥く。
「待ちなさい。折角リモーネと相互不可侵の約定を結んで後背の憂いを絶ったというのに、同じリモーネにいる『教会』と事を構えるのでは我が領はどうなりますか?!」
ジョヴァンナの悲鳴のような問いかけに、ジャンフランコは「だから、ここで女神ソフィア様のお知恵を借りたく思いまして勧請奉った次第にございます」と女神に水を向ける。
暫し考え込んでいた女神だったが、やがて何事か思いついたのか笑みを浮かべて周りを見渡す。
『あるぞ。其方らが一兵も損なわず、あ奴らと事を構える方法がの』
「それはどのような 方法にございましょうか」
『其方、魔法や魔道具がどのようにして発動するか知らぬわけではあるまい?では妾が言わんとすることにも察しがつくであろう』
「皆目見当もつきませぬ」
『分からぬフリをしているだけであろう?まぁよい。その方法とは...』
今回の新要素:
・ 次回に持ち越しで。
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